「――断る」ルファルは、一瞬の迷いもなく即答した。その凍てつくような冷たさと、絶対に揺るがぬ強い意志が宿る涼やかな声が、張り詰めた空気をピリッと凍らせる。「リリシアは私の、私だけの花嫁となる。誰にも渡しはしない」「ルファル様……っ」胸がいっぱいになる程の熱い嬉しさが込み上げる一方で、この場に倒れ伏したルファルの姿が一瞬脳裏をよぎり、ぞっとするような恐怖が背筋を駆け抜けた。――もしも、わたしを選んだせいで、ルファル様を永遠に失うことになってしまったら?「そうか。ならば」ルファルの姿をした偽者――世異の冷徹な視線が静かにこちらへ向けられた。その悍(おぞ)ましいまでの圧に、息が詰まりそうになる。「リリシア、最後の命令だ。こちらへ来い。そして――『私の花嫁となる』と言え」「わたし、は……っ」縋(すが)るような思いで隣のルファルを見上げる。すると、手の震えに気づいたのか、冷えた手をルファルが強く、温かく握り締めてくれた。その掌の温もりが、今の自分の微(かす)かな救いだった。「リリシア、奴の言葉など、聞く必要はない」けれど――このままルファル様を失う訳にはいかない。だからどんな手段を使ってでも、この人だけはわたしが必ず守り抜く。ルファルの温もりが離れていく恐怖に耐えながら、リリシアは意を決してルファルの手を自らそっと振り解(ほど)いた。そして、これ以上ない程の拒絶を示すように、ふいっと顔を逸らす。全ては選んだのは貴方ではないと見せかける為。冷たい闇の先にあるかもしれない一筋の光を掴む為に、リリシアは覚悟の足を一歩踏み出した。「リリシア、っ……!」両目を見開くルファルの驚愕の声を背に受ける。けれどもう、振り返ることは許されない。世異は勝ち誇ったように、ぞっとする程の冷酷な笑みを浮かべた。「それで良い。ようやく私の花嫁となる決意が出来たか」リリシアは震える足を一歩、また一歩と動かし、世異へと近づいていく。――許して下さい、ルファル様。どうかわたしの真意に気づいて――。世異との距離が縮まった瞬間。躊躇うことなく世異の間合いに飛び込むと、その身体をしっかりと両腕で力強く抱き締めた。世異が驚愕に目を見開く。その胸元で、ほんとうの願いを今度こそ届けるようにと、リリシアは全身の力を込めて結界を展開した。「……っ!? くはっ…
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