* * *夜。リリシアは淡い月明かりが差し込む隠し部屋のベッドにルファルと並んで寝ていた。あの息を呑むような夜空の空中歩きを終えた後、結界を張る修練へと移行した。けれど、初日の修練と同じく、結界は一向に形を成さず、ただ虚しく霧散していくばかり。一晩寝て次の日も、昼休憩を除き朝から夕方までは、ルファルの結界の中で祈りを捧げて精神を研ぎ澄まし、夕方から夜にかけては、あの恐ろしくも美しい空中を歩き、果てしないと思える程の修練をして。今宵もまた、この張り詰めた静寂の時間がやってきた。「今宵は、初めから手を握ったままで行う」「はい……」小さく応じると、すぐにリリシアの右手が、ルファルの大きな手に包み込まれた。ルファルの指先から伝わる体温に、胸の奥がキュッと締め付けられる。リリシアはそっと目を閉じ、意識を内側へと集中させて結界を張ろうと試みる。すると、繋いだルファルの手から、ひんやりとした、けれど心地よい月の魔術の力が、リリシアの身体へと流れ込んできた。――ルファルの力を道標(みちしるべ)に、今宵こそは成功させて、ルファル様のお役に立ちたい。けれど――そんな切なる願いとは裏腹に、不意に、心の隙間に冷たい風が吹き抜けた。(ああ……明日で、この修練も終わってしまうのですね)明日が、最後の1日。胸を突いたのは、言いようのない寂しさと、焦燥だった。この過酷で、けれど自分にとっては奇跡のように幸せな修練の刻(とき)が終われば。(ルファル様は独り、危険な修行の旅へと出てしまわれる)自分はこの邸宅で、ただルファルを待つだけの無力な存在になってしまうのだろうか。「っ……」そう思った瞬間、リリシアの集中は無残に乱れ、張りかけていた結界の波紋が、歪(いびつ)に歪(ゆが)んで霧消していく。連動するように、身体を支えていた力の均衡が崩れた。「リリシア、雑念を捨てろ」頭上から、ルファルの厳しい声が降ってくる。言われずとも
Read more