指先に触れるベルベットの箱は、吸い付くような滑らかさと、手のひらに沈み込むような確かな重みを持っていた。 銀座の老舗百貨店。その最上階に近い時計サロンの空気は、下層階のざわめきとは完全に切り離されたように静まり返っている。空調が運んでくるかすかな白檀の香りが、鼻腔の奥をくすぐった。「……うん。やっぱり、これにします」 ガラスのカウンターの上に並べられた数本のタイムピース。照明を弾く鋭い金属光沢の中で、最も控えめで、それでいて文字盤の深い紺色が征也の瞳を思わせる一つを選び取った。 陽向と結衣の風邪がようやく落ち着き、天道家にいつもの平穏が戻ってきた。看病明けの疲れを気遣い、「たまには一人で羽を伸ばしてこい」と送り出してくれた不器用な優しさ。けれど、結局真っ先に向かったのは、もうすぐやってくる誕生日のためのギフト選びだった。「かしこまりました。天道様、素晴らしいお選びでございます。旦那様も、きっとお喜びになりますわ」 純白の手袋をはめた店員の指先が、恭しく時計をケースに収める。 天道家という名を知らぬ者はいない。このサロンの分厚い扉の奥に通されるのも、今や日常の一部として肌に馴染みつつある。けれど、かつて家政婦として膝をつき、床を磨き上げていた頃の記憶は、今でも爪の間に微かな緊張としてへばりついている。隣を歩くにふさわしい人間でありたいという、祈りにも似た背筋の伸び。「お包みしている間、温かいお紅茶でもいかがでしょうか」「いえ、今日はこの後、子供たちを迎えに行く約束がありますから。……急がせてしまってごめんなさい」 小さく会釈をし、革のソファに浅く腰を下ろす。 窓の外には、午後の柔らかな光に照らされた銀座の街並みが広がっている。看病の疲れがまだ少しだけふくらはぎの奥に重く淀んでいるけれど、こうして一人の時間を持つと、逆に家族の顔ばかりが鮮明に浮かんでくる。 パパのお髭がチクチクすると泣いていた結衣の泣き顔。 ゼリーを食べて少しだけ頬を赤く染めた陽向の寝顔。 そして、暗い寝室で壊れ物を扱うように首筋に顔を埋め、熱い吐息を落としていた、大きな背中
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