結衣が二歳を過ぎる頃、リビングでは毎日のように小さな戦争が起きるようになった。今日の火種は、陽向が大切にしてきた赤い消防車だった。車輪がフローリングをがらがらと転がり、二人の手に挟まれたところでぴたりと止まる。 「ぼくの!」 「ゆいの!」 二人が両側から引っ張る。 征也が立ち上がりかけた。私も椅子から腰を浮かせる。梯子の細いところが二人の手の間で曲がっていて、折れそうだった。 「そこ、離そう。車、壊れちゃうよ」 私が膝をつくと、陽向が先に指を緩めた。結衣が引き寄せようとしても、兄は車体を放さない。 「陽向のだからな。貸してほしいなら、そう言え」 征也の声に結衣が振り向いた。唇を尖らせてから、もう一度兄へ向き直る。 「ぼくのだもん!」 「ゆい、あそぶ!」 「こわす!」 「こわさない!」 会話とは言い難い。でも、二人は互いに言い返している。 やがて陽向が消防車を抱えたまま言った。「いっしょなら、いい」 結衣が首を傾げる。 「ぼく、はしらせる。結衣ちゃん、しょうぼうしさん」 数秒考え、結衣が頷いた。 「ゆい、しょうぼう!」 喧嘩は突然終わった。 征也は立ちかけた姿勢のまま二人を見ていた。結衣が消防士の人形を持って走り出し、その後ろから陽向の消防車がついていく。 私はソファへ戻り、膝についた埃を払った。征也も隣へ座る。 「梯子、折れるかと思った」 「俺もだ」 さっきまでの声を思い出して、どっと疲れが出た。背もたれへ頭を預けると、征也が肩へ腕を回してきた。前を通る消防車を、二人で脚を引いて避ける。 「あれ、あなたにも貸してくれなかったよね」 「……よく覚えてるな」 結衣が人形を転ばせ、陽向が助けに戻った。征也はその赤い車体を目で追い、私の肩へ置いた指だけを小さく動かした。 夜、今度は征也の書斎から陽向の声がした。「パパ、そのペンかして」 「駄目だ」 「なんで?」 「大事だから」 「じゃあ、さわるだけ」 征也は少し考え、キャップを閉めて渡した。「机の上だけだ」 陽向は金色のペン先を見たがったが、キャップを外してもらえないと分かると、父へ返した。征也は机へ置く前に一度眺め、それから息子の髪をくしゃりと撫でた。 私が扉の前を離れると、リビングから結衣が兄を呼ぶ声がした。陽向の足
Huling Na-update : 2026-04-25 Magbasa pa