子供部屋の扉を細く開けた。寝具の温かな匂いが流れ、足元には靴下が片方落ちていた。陽向の布団へ、結衣が半分だけ潜り込んでいる。自分の枕まで持ってきたらしく、小さな頭の下が妙に高かった。 征也が屈み、枕を一つ抜いた。結衣は眉を寄せたが、陽向の肩へ顔を擦りつけると、また静かになる。 私は靴下を拾った。朝には、制服に合う紺色のものを履かせる。指に掛かった恐竜柄の靴下は少し擦り切れ、踵のところだけ薄かった。 「まだ捨てるなよ」 征也が小声で言った。私が見上げると、息子の足へ目をやる。 「気に入ってるやつだ」 分かってる、と頷いて握り直した。彼は布団を掛け直し、眠る二人の顔をもう一度見た。私は扉を押さえて待った。 廊下へ出ると、子供の寝息が遠くなった。征也が私の手を取る。靴下を持っていない方の手だった。 「明日、式が終わったら少し歩こうか」 「四人で?」 「近くのケーキ屋さんまで。陽向、ずっとあそこの苺のを食べたがってたから」 彼は少し考えた。私は返事を待たずに歩き出したが、寝室の前で手が軽く引かれた。 「結衣は途中で抱っこだぞ」 「あなたがいるでしょう」 征也は困ったように笑った。その顔を見て、私もようやく明日の帰り道を思い浮かべられた。晴れてくれるといい。窓の外は暗く、まだ空の色までは分からなかった。 寝室では、明日着る淡いネイビーの服を鏡の前で当ててみた。征也がネクタイを選ぶ手を止める。 「似合う?」 彼は頷いたが、まだこちらを見ていた。 「何か言いたそう」 「……綺麗だと思ってる。言う前に聞くな」 思いがけない返事に、私は鏡の中の彼を見た。征也はネクタイを置いて立ち上がり、背後へ来た。肩に触れた手が、服の襟を整える。鏡の向こうでも、彼の目は私を見ていた。 「明日は、俺とも撮れよ。子供ばかりじゃなく」 私は少し笑った。鏡の中で目が合い、そのまま頷く。征也の腕が腰へ回り、背中に温かい重みが触れた。 しばらくそうしてから、服をハンガーへ戻した。彼は選んだネクタイをスーツに掛け、私がベッドへ入るのを待って灯りを落とす。 暗くなると、廊下の小さな物音が聞こえた。二人とも顔を上げ、また静かになるのを待った。誰も来ない。征也が布団の中で私の手を探し、見つけると指を絡めた。 窓の隙間から、夜の庭の冷えた匂い
Huling Na-update : 2026-04-30 Magbasa pa