「汚れというものは、根元にある『原因』を絶たなければ、いくら表面を取り繕っても、必ずまた悪臭を放ってあなたの人生を腐らせます」 私の声は、静かだが、鋼のような芯を持っていた。「あなたが、一人でこの『ご主人が作った泥沼』を背負い込む必要は、どこにもありません」 私は、封筒の奥からもう一枚、真っ白な名刺を取り出し、夫人の手の中に握らせた。「天道グループの顧問弁護士です。女性の権利保護と、DVや経済的虐待の案件に非常に強い方ですわ。あなたが望むなら、ご主人との離婚交渉、名義冒用による不当な債務の無効化、そして会社資金の横領と不倫に対する慰謝料請求まで、全面的にサポートさせます」 夫人は、手の中の白い名刺と、私の顔を交互に見つめた。「……どうして? どうして私に、こんなことをするの? 私、昨日、あなたにひどいことを言ったのに。あなたに、あんなゴミの山を押し付けて……」 私は、春の風に揺れるバラの蕾を見つめながら、ふっと柔らかく微笑んだ。「……私も、かつてはすべてを失い、雨の中で泥水にまみれた『没落令嬢』ですから」 あの日の冷たい雨。靴の中に流れ込んできた不快な冷たさ。 どん底を這いずり回った自分だからこそ、今の彼女が抱える「呼吸の苦しさ」が手に取るようにわかるのだ。「それに、あの『ゴミの山』は、磨けばとても綺麗になりましたわ。……どんなに酷い泥を被っていても、汚れを落とす術を知っている限り、何度でもやり直せます」 私の指が、夫人の手の甲を優しく撫でる。「あなたはまだ、ご自分の人生を諦める必要はありません」 その言葉が、硬く閉ざされていた夫人の心の奥底に、静かに染み込んでいく。 夫人は、私の温かい手に自分の額を押し当て、声を上げて泣いた。 それは、周囲の目を気にした見栄も、夫への恐怖で塗り固められた虚勢も、すべてを吐き出すような、一人の女性としての純粋な悲鳴だった。 ダマスクローズの重たい香りが、涙と春の風に洗い流され、中庭の空気に溶けて消えていった。
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