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All Chapters of 怖い話まとめ2: Chapter 51 - Chapter 60

63 Chapters

窃盗矯正施設

 中学と高校が同じのAって子がいるんだけど、Aは皆に嫌われてた。私も距離を置いてたけど、いじめとか嫌なので、最低限のコミュニケーションは取ってた。でも、それくらいで、友達ってわけじゃない。 Aはアイドル並みに可愛いし、性格も明るいんだけど、盗み癖があったから嫌われてた。 中学の頃は可愛い文房具とキーホルダー。高校の頃は財布とかアクセサリーも盗んでたっけ。 高校1年にして、3回目の盗みで退学処分。その後、Aがどうなったのか知らないし、冷たいようだけど、興味もなかった。 高校を卒業して、社会人になって2年も経つと、Aのことなんかすっかり忘れてた。 お盆休み、実家に帰ってゆっくりしてると、電話が鳴った。出てみるとか細い女性の声で「もしもし」と聞こえたんだけど、かろうじて聞き取れるくらい小さい声だった。「どちらさま?」「その声、〇〇?」 相手は名乗りもせず、嬉しそうに言う。声は少し大きくなった。「あの、誰?」「あ、ごめんごめん。私、Aだけど」 名前を聞いて、ようやく思い出した。でも、何故彼女が私に電話をしてきたのか、何故電話番号が分かったのかが気になった。「実は、話したいことがあって――」 Aの声は、少し震えていた。何かに怯えてるみたいに。「いいけど、まずはこっちの質問に答えて。どうして電話番号分かったの?」「学生の時、連絡網ってあったでしょ? まだうちにあって、それで知ったの」 この回答にあまり納得できなかったけど、Aと会うことにした。 Aの頼みでカラオケボックスに行くと、Aは先に来ていた。一緒に部屋に入ると、Aはカバンの中にあるものを全部テーブルに並べ、手錠とその鍵を私に渡してきた。「え? え?」「それが私の所持品です。財布の中を見てもかまいません。ここは私が出すつもりです。手錠をかけてください」 まくしたてるように言うAに、恐怖を感じる。「A、どうしたの?」「お願い、手錠をかけて。そうすれば、あなたも安心できるでしょ?」 泣きそうになりながら懇願するので、手錠をかけると、「鍵はあなたが持ってて」と言ってきたので、ポケットにしまった。「いったいどうしたの?」「私、盗み癖があって、それで退学したでしょ? その後、窃盗強制施設に入ったの。その話を、どうしても誰かに聞いてほしくて――」 そしてAは語りだした。 施設は2階
last updateLast Updated : 2025-12-21
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2階のマネキン

 俺は田舎に住んでるんだけど、最近やたら新築が建って、人が引っ越してくるようになった。 うちから車で5分のところに、変な新築がある。2階の一部がガラス張りになってる。服屋って、商品を見せるために、ガラス張りにして、そこに小さな空間作って、服着せたマネキン置いてあるだろ? そんな感じ。 その家も、実際にマネキンが置いてあったしな。白くて狭い空間に、浅葱色と白の太い縞模様のシャツを着たマネキンが突っ立っていた。下はベージュの半ズボン。 その家は通勤ルートにあるから、嫌でも毎日目につく。マネキンが見えるのは帰りだから、余計に薄気味悪い。 極力マネキンを見ないようにしてたんだけど、友人のAを乗せて出かけてる時、その家のすぐ近くにある店に立ち寄った。マネキンは駐車場からよく見える。Aはマネキンを見てケラケラ笑い、ふざけ半分で小石を投げた。「おい、人んちだぞ!? 何考えてんだよ!」「何考えてるのかはこの家のヤツに聞けよ、キモいな」 Aは反省することなく、笑うだけだった。 翌日、仕事帰りに気になってマネキンを見た。違和感があったけど、よく分からない。 それからマネキンを観察するようになったんだけど、1週間でようやく違和感の正体に気づいた。違和感というより、既視感だった。 どれも見たことある服装。けど、断じて俺ではない。 信号が赤だったら、30秒くらい見れるんだけど、青信号だと見れるのはほんの数秒だから、気づくのに時間がかかった。 どれもAが持ってる服だ。気になってAに連絡したけど、Aは呑気にゲームをしてたから、安心した。 それから俺は、マネキンの観察をやめた。気味悪いし。 2ヶ月後あたりだったか、いつも通り帰ってると、派手な色を視界の隅で感じ取り、マネキンを見た。 割れた窓ガラスは取り替えて綺麗になっていた。 マネキンはAが持ってるのと同じ服を着てて、頭が潰れている。しかも、所々が赤い。頭もだけど、服も。血を連想させて、吐き気がした。 帰ってすぐ、Bという友人から電話が。「どうした?」「大変なんだよ! Aが、Aが!」「落ち着けって、Aがどうしたんだよ?」 Bは完全にパニック状態で、まともに話せなかった。根気強く聞いたところ、今日はAと休みが被ってたから、ふたりで出かけてたらしい。 スマホを落として拾おうとしたAの頭に、看板が落ちてきて
last updateLast Updated : 2025-12-21
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遊園地

 俺には心幸《こゆき》っていう彼女がいる。心幸が遊園地に行きたいって言うから、行くことにしたんだ。 チケットは心幸が取ってくれた。なんでも、似た名前の遊園地がかなり離れたところにあって、それと間違えられたら困るからっていうんで、今回は自分でチケットを取ったらしい。 心幸は俺にとってふたり目の彼女で、本当にいい子だから幸せにしてやりたいって思ったから、色んなデートスポットを調べたりしてたけど、そんな名前の遊園地は聞いたことなかった。 それでも心幸が喜んでくれてるならいいし、雑誌に載ってるのがすべてじゃないって思って、一緒に行った。 遊園地は広いけど、どことなく時代遅れな雰囲気だ。アトラクションはどれも定番中の定番ばかりで、遊園地の目玉と言えるようなオリジナリティのあるものはなかった。 たまにはインスタ映えとかを完全スルーしたような場所もいいかと思って楽しんでた。「次はコーヒーカップに乗ろうよ」「分かったから引っ張るなって」 ぐいぐい腕を引っ張ってはしゃぐ心幸が可愛くて、ニヤケ顔だったと思う。 カップの中に座ると、さっきまではしゃぎすぎてたのか、疲れがどっと押し寄せて、俺はそのまま眠ってしまった。 薄れゆく意識の中で、コーヒーカップを動かすことを知らせるアナウンスが聞こえていた。「◯◯さん、起きてください! ◯◯さん!」 野太い声と揺れで起きると、目の前にゴツい警察官がいた。「おい、大丈夫かよ?」 警察官の後ろには友人のAもいる。「あの、なんすか?」 状況が読み込めず、間抜けな声が出る。「ここじゃちょっとあれなので、署で話しましょう」「え? え? 待ってくださいよ! 俺、何も悪いことしてませんって」「逮捕とかじゃないので、安心してください」「でも――、そうだ、心幸!」 心幸を探して見回し、言葉を失った。「なんだ、ここ――」「危ないから、移動しますよ」 警察官に腕を引かれて、立ち上がり、コーヒーカップから出る。俺は寂れた遊園地を見回しながら、警察官達についていく。 あんなに賑やかでカラフルだった遊園地は、見る影もない。どの遊具も塗装が剥がれてて、使用されなくなってからだいぶ経っているのが分かる。 一言で言えば廃墟だ。 何がなんだか分からず、パトカーに押し込まれ、警察署に連れて行かれる。隣にAがいたから、少しずつ気持ち
last updateLast Updated : 2025-12-21
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猫になりたい

 俺が人間じゃなくなりそうになった時の話。 当時、ブラック企業に勤めてて、なかなか帰れないし、毎日罵倒されるしで、結構病んでた。 そのせいか、猫になりたいって常々思ってた。 猫は可愛がってもらえるし、自由気ままだし、働かなくていいし。 その日も、上司に罵倒されながら、猫になりたいって思ってたんだけど、いきなり意識が途絶えた。 眠くなるとか、どこかが痛くなるとか、そういうの一切なしで、いきなりぶつんって感じで意識がなくなった。 気がついたらにぎやかな音楽が聞こえてきた。それと、楽しそうな子供達の声も。 目を開けると視界が狭い。穴から覗いてる感じ。 それと、妙に暑かったし、閉塞感があった。 狭い視界で見回すと、遊園地だった。色んなアトラクションがあって、子供達がはしゃいでる。 ここだけ聞けば微笑ましいかもしれないけど、空は赤いし、子供しかいない。親らしき人も、アトラクションを操作するスタッフもいなかった。 それに、着ぐるみがやけに多い。 自分も着ぐるみを着てるのかもしれないと思って、噴水を覗き込むと、俺は猫の着ぐるみを着ていた。 通りで暑くて視界が狭いわけだ。 どうしてこうなってるのかも理解できないので、とりあえず、近くにいる着ぐるみに声をかけることにした。 こんな状況なのに、何故か冷静な部分があって、子供がいないところで声をかけないといけないと思い、園内を歩いていると、どうぶつさんのおうちと書かれた小屋に入っていく犬の着ぐるみを見つけたので、追いかけて小屋に入った。「あの、すいません。ここってなんなんですか?」「うぅー、わん! わんわん!」 犬の着ぐるみは、犬のような鳴き声を出す。それも、威嚇してるような鳴き声だ。「あの――」 犬の着ぐるみは更に吠えてきて、怖くなって小屋から出た。 もう子供にかまってられなくて、出会う着ぐるみ全部に話しかけたけど、犬の着ぐるみ同様、威嚇される。 がむしゃらに走り続けると、小さな椅子に座った小柄なおっさんがいた。赤いニット帽のせいか、小人を彷彿とさせるようなおっさんだ。 やっと人間に出会えたと安堵して、おっさんに話しかける。「あの――」「ん?」「ここは、どこでしょう? 気がついたらこんな格好で、ここにいて――」「なんだ、迷い込んじまったのか」 おっさんはため息をつきながら、しわく
last updateLast Updated : 2025-12-21
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黒蛇

 大学生の頃、Aの家に集まって飲むことが多かった。Aは平屋にひとりで住んでるし、周囲の家とそれなりに距離があるから、心置きなく騒げたから。 Aの家がある町は、大学付近と違って店があまりないので、Aに場所を提供してもらう代わりに、俺達が酒やつまみを買っていってた。 あったかくなってきた頃だったか。駅から降りてAの家に向かう途中、原っぱになにかの卵がいくつかあった。 気づいたのは俺だけで、俺が「なんの卵だ、これ」って言ったら、他の奴らが物珍しそうに卵を見た。 大学は都会的なところにあって、俺を含め、ほとんどの連中はその付近に住んでるから、Aが住んでる自然豊かな場所は珍しく感じてたんだ。 Aは卵を見るなり、「クソが!」と叫び、暴言を吐きながら、近くに落ちてたブロックで卵を潰した。「おい、なにしてんだよ」「うえ、気持ち悪ー」 俺達はAを非難したけど、Aはすっきりした顔をしてた。非難してたとはいえ、生き物が可哀想っていうより、キモいもん見せんなって感じだったから、さっさとAの家に向かった。「さっきの卵、蛇の卵なんだよ。時々民家に入り込むんだよ。それが気持ち悪いのなんのって。だから今のうちに潰しただけ」 Aはため息をつきながら話した。俺達も確かに家に蛇出たらキモいなって思うだけだった。 数日後、Aは眉間にシワを寄せていたから、話しかけたんだけど、「最近蛇がうろついてるんだよ」って言ってた。「お前が卵壊したの、バレたんじゃね?」「かもな」 茶化すつもりで言ったのに、Aは真剣に返してくる。「蛇って霊的な力が強いんだって。今更思い出したんだけど、爺ちゃんが昔、ふざけて蛇の卵壊したら、しばらく蛇に付きまとわれてたって言ってたんだよ。だから、俺も付きまとわれちまうんだろうな――」「んな大袈裟な」「都会っ子には分からねーよ」 明るく言うと、Aは吐き捨てるように言う。 それからAはどんどんやつれていった。一緒に遊んでたら、いきなり大声をあげて、「蛇が、黒蛇が来る」とか言ってて、楽しい空気をぶち壊すもんだから、Aは誘われなくなったし、Aの家で集まることもなくなっていった。 Aに会う度に、「黒蛇が真っ赤な目で俺を睨むんだよ」って言ってて、俺も気味悪くなって、Aとは距離を置いた。 気づいたらAは大学に顔を出さなくなった。教授に、Aの単位がヤバいから声をか
last updateLast Updated : 2025-12-21
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守衛室

 これは新しい職場でのお話。 私はアラフィフの専業主婦で、子供は高校2年生の息子と、中学3年生の娘がいる。主人の稼ぎはいいので、働く必要はなかったけど、少しでも外の世界に触れたいと思って、工場の守衛として働くことにした。 守衛室はプレハブサイズ。その中で派遣さんやトラック運転手達に駐車許可証を渡して、名前や派遣会社などを書いてもらうお仕事。 時々駐車場に許可証がない車がないか見に行くくらいで、ほとんど座りっぱなし。無断駐車や不審者がいたら、警備会社に連絡するのも仕事だけど、先輩いわく、そんなのが出る可能性はゼロに等しいらしい。 駐車場は広いけど、入り組んだ場所にあるし、近くに店や遊べる施設があるわけでもないから、確かに無断駐車するには向いてない。 どこかしらにお金はあるんだろうけど、工場で強盗なんて聞いたことないし、先輩が可能性はゼロに等しいと言ってたのも頷ける。 若い頃、立ち仕事で足腰を痛めてたので、座ってできる守衛の仕事は天職だった。 1週間の研修期間が終わると、ひとりで守衛室にいるから気楽だった。流石にスマホをいじったりしようとは思わなかったけど、忙しない時間はほぼ皆無だから、ブランクがある私にはありがたかった。 あの事件が起きるまでは。 働き出して3ヶ月くらいすると、だいぶ慣れて、よく来る派遣の子とちょっとした雑談をするようになった。 特にAちゃんという20代前半の女の子は、私の顔を見ると駆け寄ってきて、にこにこしながら色んな話をしてくれるから楽しい。「そういえば、なにもないですか?」「なにもないって?」「守衛さん、ころころ変わるから、なにかあるんじゃないかって、皆で話してたんですよ」 守衛という仕事上、他の人と会うのは引き継ぎの時だけ。最初に仕事を教えてくれた先輩含め、3人の顔しか知らないけど、3人は今もいるし、そんな話は聞かされてない。「どういうことですか?」「あ、知らないんならいいです」 Aちゃんは曖昧に微笑んで、仕事に行ってしまった。 その日、シフト交代する時、先輩だったので聞いてみた。先輩は60代の優しい女性で、その場にいるだけで安心する人。 Aちゃんから聞かされたことを聞くと、先輩は顔をしかめたあと、ため息を付いた。「そんなこと言われたら気になっちゃうよね。幽霊のお話なんだけど、聞く?」「え? 幽霊、で
last updateLast Updated : 2025-12-21
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慰霊塔

 怪談好きの私は、時々心霊スポットに出かけてる。言っておくけど、幽霊を茶化したり、挑発したことはない。 敬意を払い、お線香を備えたりしてる。怪談好きでも、呪われたくないし。 色々調べてると、隣町に慰霊塔があるのを知ったので、さっそく行くことに。 心霊スポットに行くときの持ち物は、お線香、マッチ、粗塩、ファブリーズ。それと、食べ物を少々。 食べ物はお供えではなく、ヒダル神対策。山奥に行くこともあるし、似たような妖怪が出てきたときのために、クッキーとか持ち歩いてる。 慰霊塔に行った時も、それらを持って行ってた。 慰霊塔は土手のすぐ隣りにあって、戦争の慰霊塔なのに、何故か外国にありそうな建物もあったっけ。 慰霊塔の前には大人の腰くらいの高さの岩があって、岩の前にはお線香を備える金網の箱があったので、お線香をあげることにした。 そのマッチが少し古かったのと、風が吹いてたせいで、結局お線香に火がつかなかったので、「マッチが湿気てて駄目でした。ごめんなさい」と謝罪してから、慰霊塔を出る。 慰霊塔に登る予定だったけど、お線香をあげられなかった罪悪感で断念。 帰り、何かが動く気配がして土手の上を見ると、黒い人影が大きく手を降っていた。 ビビリの私は速攻逃げたけど、あれは慰霊塔の霊だったのだろうか? そのあとに起きた不思議なことは、玄関に蛇が挟まったことくらい。これ、慰霊塔のあれと関係あったりするのかなぁって考えることもある。
last updateLast Updated : 2025-12-21
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お盆

 お盆の不思議な出来事。短いし、たぶん、怖くはないかも。 うちにはお転婆な猫がいた。名前ははな。はなは何故か仏壇のお水をよく飲む子で、私達がいくら叱っても、懲りずに何度も仏壇のお水を飲みに行く。 お盆、はなは朝から仏壇の水を飲んでた。「爺ちゃんとか来るから、駄目だよ」 なんて言っても、猫に人の言葉は理解できないので、気にせずに飲む。 母と一緒に提灯を持って迎え盆を済ませると、はなは水を飲まなくなった。それどころか、仏壇に近づかない。 私と母は、顔を見合わせて、「爺ちゃんが怒ったのかな」と言った。 爺ちゃんが動物嫌いなんて話は聞いたことない。むしろ、昔は飼ってたらしいし、バードウォッチングもするから、嫌いではないと思う。けど、爺ちゃんはペットを飼うのを許してくれなかったんだと思う。 母がそういったニュアンスのことを言ってただけで、爺ちゃんにペット反対はされたことないし、私の記憶にあるかぎり、おねだりしたこともなかった気がする。あったとしても、小学生の頃なんじゃないかな。 送り盆が来て、爺ちゃん達に帰ってもらうけど、はなは1ヶ月くらい仏壇の水を飲まなかった。9月だか10月になると、また飲み始めたけど。 お盆って形式上のものだと思ってたけど、本当にご先祖様達に来てもらってるのかもって思った出来事でした。
last updateLast Updated : 2025-12-21
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夫婦茶碗

 爺ちゃんは俺が小学3年生の頃に亡くなって、婆ちゃんはそれからずっとひとり暮らしをしてる。 爺ちゃんが亡くなったばかりの頃、法事でバタついてたのと、婆ちゃんが心配だったから、家族皆で婆ちゃんの家に泊まってた。 爺ちゃんと婆ちゃんは夫婦茶碗を使ってたんだけど、何十年も前から使ってる思い入れのある品なんだって。 葬式が終わった夜、皆で夕飯を食べるんだけど、婆ちゃんが、寂しいからって爺ちゃんの茶碗にご飯をよそって、いつもの場所に置いといた。 俺はそれがちょっと怖かったんだけど、両親は涙腺が刺激されたらしい。 片付けをする時、それぞれが使った食器を自分で台所に持っていくんだけど、先に食べ終わった俺と父ちゃんが台所に行くと、何かが割れる音とふたりの悲鳴が聞こえた。 急いで台所に食器を置いて戻ると、婆ちゃんと母ちゃんは戸棚の方を見ているので、そっちを見ると、爺ちゃんの茶碗が割れてた。「どうしたんだ、これ」「分からないの。気がついたらそこで割れてて――」 母ちゃんは震えてたけど、婆ちゃんは寂しそうに戸棚の写真に手を伸ばした。ふたりが熱海に行った時の写真だ。「爺さん、もう1回熱海に行きたいって行ってたからねぇ――」 父ちゃんが割れた茶碗を片付けようとしてたけど、婆ちゃんが自分でやりたいと言ったので婆ちゃんが片付けた。 2年後。今度は婆ちゃんが亡くなった。今回も婆ちゃんの家に泊まって、両親が色々やって、夕飯もこの家で食べることに。 と言っても、葬式でふたりも疲れてるので、スーパーでお惣菜とか買って、それを持ち帰って食べるだけ。 もちろん母ちゃんの料理が1番ではあるけど、滅多に食べることのないお惣菜でちょっとわくわくしてた。 買い物を終わらせて帰ると、婆ちゃんの茶碗があの戸棚の下で割れてた。朝は食器棚にあったし、戸締まりもしてたのに。「きっとお爺ちゃんのところに行ったんだね」 母ちゃんは泣きそうになりながら言ってた。 その後何日か泊まってたけど、何かが勝手に動いたり割れたりしたのは、婆ちゃんの茶碗で最後だった。
last updateLast Updated : 2025-12-21
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紅白人形

 大きくなってから、うちがおかしいと気づいた。うちには赤い髪の日本人形があって、その髪を2本持ち歩く風習がある。 半紙で作った封筒にいれるんだけど、この封筒も変わってた。普通、封筒ってどこかしらをのりやテープでとめて作るんだけど、この封筒にはそういったものは使わない。いつも婆様がくれるから作り方は分からないけど、折って作ってるらしい。 日本人形は居間にあって、戸棚の上に小さな祭壇? 神棚? みたいなの作ってあって、そこに置いてある。 お菓子とか買った時は、1回人形の前にお供えしてから食べるし、ごはんも同様で、爺様か婆様のごはんだけお盆に乗せて、数分ほど人形の前においてから、爺様達が食べる。 おかえりとかただいまも言うし、目が合うと「よ、いい天気だね」みたいな何気ない声掛けをすることもある。 もちろん返事は帰ってこない。 人形の髪を持ち歩く理由なんだけど、災いから身を守るため。実際、人形の髪には何度も助けられてたから、僕は胡散臭いとか思ったりしてないし、毎日感謝を伝えている。 助けられた時の話をいくつか聞いてほしい。 小学生の頃、授業中に鉛筆が折れてしまったけど、めんどくさがりな僕は、鉛筆が折れても他のを使うからいいやと思って、削らなかった。 この時、他の鉛筆は全滅してたし、鉛筆削りをなくしたばかりで削ることさえできない。どうしようかと悩んでると、お道具箱からカタッと小さな物音がした。 こっそり見てみると、なくしたと思ってた鉛筆削りが出てきた。 高校生の頃、クラスメイトの財布が盗まれて、何故か僕の机の中に、空になった財布が入ってた。タイミングは体育の授業の後。授業中、僕はトイレに行くために授業を抜け出したこともあって、当然僕が疑われたわけだけど、騒ぎを聞きつけた隣のクラスの子が、真犯人を教えてくれた。 その子の証言と動画のおかげで、僕の冤罪は晴れた。 コンビニの帰り、車がいきなり突っ込んできたけど、僕にぶつかる直前、ハンドルを切って方向転換したため、無傷で済んだこともある。 察しの良い人は気付いただろうけど、危機は必ず来る。そして時に不自然な形で、回避される。 危機が去った後に半紙の中を見ると、真っ赤な髪は真っ黒に変わっている。家に帰ってから漆塗りの箱に黒くなった髪を入れて、人形に「今日はこんなことがあったけど、あなたのおかげで助かりま
last updateLast Updated : 2025-12-21
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