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All Chapters of 怖い話まとめ2: Chapter 31 - Chapter 40

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山奥にて

 私は恋人の零士と一緒に、山奥にあるカフェに向かった。途中までは車で行って、その後は徒歩で。他愛のない話をしながら、30分くらい歩いたかな。 カフェに入って店員さんに「2名で」と伝えると、怪訝な顔をされた。何かおかしなこと言ったかな?「何食べたい?」「とりあえず珈琲かな。それと、季節のケーキ。あ、今はさくらんぼのケーキだって。美味しそう」「いいね。僕もそれで」 店員さんに珈琲ふたつと、さくらんぼのケーキを注文した。やっぱり店員は訝しげで、ちょっと居心地が悪い。「そういえば、ここに来たのはもうひとつ理由があってね」「なぁに?」「景色が綺麗なところがあるんだって。そこに君を連れていこうと思って」「へぇ、それは楽しみ」 珈琲とさくらんぼのケーキが運ばれると、舌鼓を打ちながら、この後の予定を話す。 会計を済ませて歩く。なんとも言えない違和感。それと、かすかなめまい。頭の中に霞がかかったような感覚。 隣を歩く恋人を見上げる。そういえば、この人なんて名前だったっけ? まだ、1度も名前を呼んでない。 思わず立ち止まると、恋人は私の顔を覗き込んでくる。「どうかした?」「え? えっと――」 なんて言っていいのか迷ってると、誰かが私の手を掴んだ。振り返ると知らない男性。急いで来たのか、汗をかいて息を切らしてる。「よかった、間に合って――。大丈夫ですか?」 男性の体温と言葉で、霞がかった頭の中がスッキリして、めまいもなくなった。 私はひとりでここに来てた。 恋人と思っていた男は、いつの間にか消えてる。「あの、私――」「とりあえず、さっきのカフェに戻りましょう」 男性に腕を引かれ、カフェに戻る。店員さんは、私達を見てホッとしたような顔をしてる。 席に座ると注文してないのに紅茶が出てきた。「あの、注文してないです」「いいのいいの。僕がここの店主だから。話すのに飲み物があったほうがいいだろ? まず、あそこを見てごらん。君が座ってた席だ」 男性に言われて、少し前まで彼と座っていた席を見る。カップもお皿も片付けられてない。私が使っていたお皿は空っぽなのに、向かいの席にはさくらんぼのケーキがそのままある。 席に近づくと、カップの中も、彼のぶんだけ減っていない。「実は、この辺出るんだよ」 席に戻ると、店主は困り顔で言う。「ひとりで来る客が
last updateLast Updated : 2025-12-21
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竹藪トンネル

 子供の頃、Aくんって子と公園だかどこかで知り合って、学校が終わるとAくんと遊ぶようになった。Aくんは違う学校の子で、学年は知らない。けど、僕と近いと思う。同じか、ひとつ違い。 その日も家に帰ってランドセルを置くと、Aくんと遊びに行った。「面白いところがあるんだよ」 Aくんの案内でついたのは竹藪。サイズは家ふたつ分くらいかな。びっしり生えてるけど、一部だけトンネルみたいになってた。 ジブリの世界みたいでワクワクしながら、僕とAくんは竹藪トンネルをくぐっていった。トンネルはなだらかなカーブになってて、数メートル歩くと、広場に出た。広場の中央にはボロボロの黒くて細長いカバンみたいなものがあった。 今思えば、寝袋だったのかも。「これ、すげーいいもん入ってるんだ! 開けてみ」「うん!」 僕は言われるまま、寝袋を開けた。「ぎゃあああっ!?」 中身を見て、腰を抜かした。だって、中に入ってるのは子供のミイラなんだもん。 Aくんは楽しそうに何か言ってたけど、余裕がないせいなのか、聞き取れない。なんとか立ち上がって逃げる。 竹藪から出ると少し冷静になって、Aくんに声をかけたけど、返事がない。怖いけど振り返ったら、竹藪トンネルは消えてた。 怖くなって家に帰るとお爺ちゃんがいたので、竹藪トンネルのことを話すと、竹藪は確かにあるけど、トンネルはないって言われた。 翌日、僕はひとりで児童館に行った。児童館でAくんと遊んだことが何度かある。だから、ここに来る人達にAくんのことを聞こうと思った。 でも、誰に聞いても答えは一緒。「Aくんって誰?」 児童館の先生も、同じ学校に通ってる人も、違う学校に通ってる人も、Aくんなんて知らないっていうんだ。 一瞬しか見てなかったけど、あのミイラが着てた服、Aくんが着てた服とそっくりだった気がするけど、そういうことなのかな? だとしたら、なんでAくんは僕の前に現れたんだろ?
last updateLast Updated : 2025-12-21
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贄の貌

 当時の彼女、Aには、Bという友人がいた。Bとは学生時代からの付き合いで、気が合うらしい。俺から見てBは、芋っぽい田舎娘って感じで、ザ・都会の女って感じのAと一緒にいると、引き立て役にしか見えない。 実際、Bは田舎からこっちに来たらしい。 ゴールデンウィークに、BからAに連絡があった。地元の祭りに、彼氏(俺)と来てほしいってさ。予定もなかったし、俺もAも休みだから、行くことにした。 俺の車で移動するんだけど、案内役のBが助手席、Aが後部座席に座って移動した。家から大体3時間のところに、Bの故郷があった。 Bの故郷は驚くほど田舎で、田んぼと畑と家ばかりで、店らしきものはなかった。俺達は平屋に案内され、ここを自由に使っていいって言われた。宿はないけど、空き家はあるから、それを使っていいとのこと。「お祭りは夜だから、それまでゆっくりしてて。じゃあね」 Bはそう言って平屋から出ていった。「空き家を宿代わりかぁ。なんか贅沢だね」 Aは楽しそうにしてて、家の中を軽く探索したり、おままごとみたいなことをしてた。あまりでかい声で言えないけど、このおままごとみたいなのがすごく楽しかった。なんていうか、Aと結婚したらこんな感じなのかなって。 夜になると、Bが迎えに来てくれた。「お待たせ。Aちゃんはこれ着てね」 Bは白装束をAに手渡す。「どうして?」「お祭りに必要だから」「俺は良いのか?」「これを着るのは女性だけなの」 詳しい理由を聞こうとしても、はぐらかされる。結局何も知らないまま、Aは白装束を着て、祭り会場の広場に行った。 広場には集落の人が集まってて、皆俺達を歓迎してくれる。祭りの内容は、神楽舞と宴会とシンプルなもので、神楽舞はBがやってた。Aは清めの水を飲まされたり、特別なご馳走を用意されたりしてた。 俺にご馳走はないのか聞いたら、外から来た女の子は特別とか言われた。 翌日、俺達が帰ろうとすると、BはAだけ引き止めた。「Aちゃん、悪いんだけど、Aちゃんだけ、残ってくれない?」「私はいいけど、どうして?」「村長さんが、Aちゃんに大事な話があるんだって」「じゃあ俺も待つよ」「Aちゃんにだけ用があるから」 その後何度も俺もいるって言ったけど、色々理由をつけられて帰らされた。Aも、「大丈夫だから」って言うから、帰ったんだけど、これが間違
last updateLast Updated : 2025-12-21
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駐車場の水鏡

 友達のAは、マンションに住んでるけど、車は持ってないので、駐車場は借りてない。なので、Aのところに遊びに行く時は、有料駐車場を使う。 24時間で千円なんだけど、Aは半分の500円を毎回くれる。 Aの部屋にある家電をいくつか買い替えることになった。家電といっても、冷蔵庫とかテレビみたいなデカいやつじゃなくて、炊飯器とか、電気ケトルとか、持ち帰りできるようなやつ。 俺が車を出すことになって、買い物終わった後に、いつもの駐車場に停めた。 丁字路になってて、マンションは、丁の上線のところにある。 ↓こんな感じ。        マンション        ――――――         借│         有│ 借っていうのが、マンション借りてる人が使える駐車場で、有ってのが、いつも俺が使ってる有料駐車場。マンションに行くために、どうしても、住人の駐車場前を通らないといけないんだけど、前日雨が降ってたせいか、マンションの駐車場は水浸しだった。 いや、雨降ってたらある程度水たまりはできるけど、そんなレベルじゃない。駐車場全体が水たまりとでも言えばいいんだろうか? 縁がちょっと高くなってて、浅いトレーみたいになってた。 それだけでも奇妙なのに、停まってる車のミラーはほとんど畳まれてる上に、布が被せてあった。「なんだ、あれ」「水たまり? それともミラー?」「両方。あんなんおかしいだろ」「だよなー。部屋に戻ったら話すわ。とりあえず、家電運ぶの手伝って」「おう」 俺達はAの部屋に家電を運び込んだ。壊れてたのは電気ケトルとドライヤーだけだったんだが、電子レンジと炊飯器も調子が悪いらしく、それらも買ったから、何往復かした。 全部運び終えると、Aは冷たい麦茶を出してくれて、駐車場について教えてくれた。「たぶん、作り話も混じってるかもしれないけど」 そう前置きをしてから語られた話は、信じがたいものだった。 元はおばあさんがマンションの所有者だったが、亡くなって、息子が所有者になった。息子は偏屈で人間嫌いだったため、マンションの住人を少しでも減らしたかった。 駐車場を新しくし、雨水が溜まりやすいようにしたとか。雨が振ると、大きな水鏡ができる。夜になると水鏡から悪いものが出てきて、住人を苦しませる。 駐車場に停まってる車のミラーは割るし、夜中に奇
last updateLast Updated : 2025-12-21
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結婚人形

 お婆ちゃんからもらった人形の話。私の二十歳の誕生日に、お婆ちゃんから日本人形をもらった。赤い着物に黒髪の、美しいお人形。 周りの人は母含め、日本人形が苦手だけど、私は好きだから、嬉しかった。 人形は自室の棚の上に飾って、毎日声をかけたり、髪を梳かしたりした。お人形用に特別製の櫛を作ったりもして、それはもう大事にしたよ。 あ、櫛を作ったっていうけど、一から作ったって意味じゃなくて、木製の櫛に、ヘアオイルを一日染み込ませたりしてたの。 異変はもらったその日から起きた。夜中に物音がして電気をつけると、人形の位置が変わったり、ドアが少し開いてたり。 自分でこういうこと言うのもアレだけど、よくナンパされたりしてたんだけど、ピタッとなくなった。 個人的に嬉しかったのは、わざとぶつかってくるおじさんと遭遇しなくなったこと。 でも、男友達が何故か私から距離を取るようになったのは少し寂しい。 1ヶ月過ぎたあたりから、夜に少女の泣き声が聞こえるようになった。「会いたい――。どこにいるの?」 少女の声は誰かに会いたがっていて、その声が聞こえる時は、決まって金縛りになる。 人形をもらって半年後、友達に誘われて合コンに行くと、Aという人と意気投合して、連絡先を交換して、2次会には行かず、ふたりでお茶をした。 Aとは初めて会ったのに初めてって感じがしなくて、一緒にいるだけで落ち着いた。 その日から、泣き声は聞こえなくなった。その代わり、「あの人、あの人が――」と言うようになった。 私とAは2年後に結婚することになって、お婆ちゃんにも報告したら、「あの人形を持たせてよかった」と言ってた。 話を聞くと、あの人形は対になっているらしく、女性は少女の人形を、男性は少年の人形を持っていると、ふたりは結ばれて幸せになれるという代物らしい。 だから、結婚人形って呼ばれてる。 お婆ちゃんがお爺ちゃんと出会ったのも、結婚人形のおかげだって。ふたりが結婚すると、お爺ちゃんの人形はどこかに消えてしまったらしい。「婚約者さんに、人形を持ってたか聞いてみなさい。きっと持ってたって言うから」 気になった私は、挨拶から帰るとAに電話した。「もしもし? 実家に帰ってたんじゃないの? なんかあった?」「あのね、お婆ちゃんから人形の話を聞いて」「人形? それってもしかして、日本人形
last updateLast Updated : 2025-12-21
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お守り

 学生時代の話。私には、幼稚園から中学まで一緒だったAという大親友がいた。Aは人懐っこくて、誰にでも優しくて、女の子だけどすごくわんぱくな子だった。 高校もAと一緒だと思ってたんだけど、Aは親の都合で引っ越さなくてはいけないため、他県の高校受験をしていた。両親は既に他県に引っ越したけど、中学はここで卒業したいというAの意思を尊重し、Aはしばらく祖父母の家で過ごしていた。 卒業式の翌日には、もう他県に行ってしまうらしい。「さみしくなるね」 卒業式前日、私とAは昔からよく遊んでいた公園のベンチに、並んで座った。「私、◯◯と離れるの嫌」「じゃあ、ここにいてよ。今お婆ちゃんの家にいるんでしょ? そこから学校通えばいいじゃん」「そういうわけにはいかないよ。お婆ちゃん達は年金暮らしだし、私の生活費を仕送りするのも手間だろうし」「ごめんね、わがまま言って」「ううん、私もできればここにいたいし、そう言ってもらえるのは嬉しい。ねぇ、いいものあげる」 そう言ってAは、私に純白のお守りをくれた。生地はよく見るお守りみたいにつやつやしてるけど、何も書いてない。少し不格好で、ひと目見て手作りだと分かった。「お守り? 作ってくれたの?」「この先、どんな困難が待ち受けてても、〇〇を守ってくれますようにって」「ありがとう。私は――、これあげる」 まさかこんなに素敵な贈り物がもらえると思わなくて、でも、お返ししないといけないと思って、大事にしていたシャーペンをAにあげた。 当時好きだった俳優が、恋愛ドラマで使ってたものと同じシャーペン。どこにでも売ってるものだったけど、その俳優さんは人気だったし、話題になってたから、手に入れるのが大変だった宝物だ。「いいの?」「もちろん。離れても友達だよ」「うん。電話するから」 当時スマホなんてなかったし、ケータイを持ってる中学生も少なかった。卒業式、Aから新しい住所と電話番号が書かれた紙をもらい、記念撮影をしてお別れした。 高校生になると、何もかもが新鮮だった。私は近いからこの高校にしたけど、あまりいい噂がないせいか、同じ中学の子はほとんどいなくて、友達作りに苦労した。 それだけでも大変だったのに、やたらトラブルに巻き込まれたり、ちょっとした事故が頻発した。 小さなことだと、なにもないところで転んだり、やたら人にぶつか
last updateLast Updated : 2025-12-21
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仏壇の菊

 これは祖母の家での出来事。父方の祖父母は隣町の一軒家に住んでるんだけど、半年前にお爺ちゃんが亡くなった。午前中はゲートボールをして、お昼に仲間とざるそばをすすり、家に帰って好きな女優が出てるドラマの再放送を見てる最中に、心臓発作で帰らぬ人となった。 お父さんは家族を大事にする人で、最低でも月に1回は様子を見に行くんだけど、お爺ちゃんが亡くなってから、ほとんどおばあちゃんに会いに行かなくなった。そのかわり、前よりもビデオ通話をするようになった。「なんでお婆ちゃんに会いに行かないの?」 きっと今が1番寂しいと思うし、急に行かなくなるのも不自然で、気になってお父さんに聞くと、「いや、まぁ――。行きたいんだけど、ちょっとな」と曖昧な言い方をする。 当時の私は高校生だったので車はないけど、原付きはある。だから、週末にひとりでお婆ちゃんの家に行くことにした。 半年ぶりに会うお婆ちゃんは、心なしか小さく見えた。やっぱり、お父さんが会いに行かないのはおかしいと思う。「久しぶり、お婆ちゃん。大丈夫?」「りな(私)は優しいねぇ。大丈夫だよ。来るなら前もって言ってくれればいいのに。そしたら、お菓子でも用意しといたんだけどねぇ」「いいって、ダイエット中だし。それより、なんでお父さん、ここに来なくなっちゃったんだろうね?」 無敵で無神経な女子高生の私は、ストレートに聞いてしまった。お婆ちゃんは一瞬目を丸くした後、苦笑する。「あの子が来たがらないのも、仕方ないよ。その代わり、ビデオ通話をよくしてくれるから、寂しくないよ」「それが冷たいと思うんだけどなぁ。お婆ちゃん、何か知ってるの?」「りな、お爺ちゃんに顔を見せておやり。それから話してあげるから」「うん、分かった」 仏壇がある部屋に行き、違和感を覚える。部屋ではなく仏壇に。「ねぇ、お婆ちゃん。どうして花、切ってるの?」 仏壇に飾られている菊の花が、みんな切られていた。茎だけが飾られていて、なんとも物悲しい。「お父さんが来たくない理由は、それだよ」「え?」「お線香あげて」「あ、うん」 お婆ちゃんに言われるまま、お線香をあげて手を合わせる。 居間に戻ると、麦茶とおせんべいが用意されてた。「こんなのしかなくてごめんねぇ」「いいって。おせんべい好きだし。それより、教えて」「お爺ちゃん、まだ自分が死ん
last updateLast Updated : 2025-12-21
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DM

 イーロン・マスクのせいでTwitterが大変なことになってるだろ? インプレゾンビがわいたり、変なDMが増えたりさ。 DMもバグで、送り主が自分になったりする。内容は出会い厨か、金稼ぎ。つまりは他の変なDMと同じようなやつ。 んで、そういうDMって、開けば相手の名前とアイコンが本来のものに戻る。最初は驚いてチェックしたりしてたけど、今は放置してる。てか、一気にDM消す機能はやく作れよ。 っと、話がそれちまった。自分自身からDMが来たって話をさせてくれ。言っておくが、上記のような変なDMとは別物だ。 変なDMって、大半は通知来ないし、メッセージリクエストってところに溜まるだろ? 俺からのDMは、通知が来た。 またバグで自分の名前とアイコンになってるんだろう、通知が来るなんて珍しいと思いながらDMを開いても、名前とアイコンは俺のまま。 肝心のメッセージなんだけど、「明日家に知らない人が来るけど、相手にするな。明日は家にいないほうがいい」って。 わけ分かんないじゃん? 俺、実家暮らしで、明日は休み。予定はないから家でゴロゴロするつもりだった。これも有害DMの1種だろうと思って、無視。 翌日、午前中にマジで知らない人が家に来た。上下真っ白の服を来た中年の男女が。玄関で母親と話してたんだけど、何かの宗教っぽい。「お子さん、お仕事してないんですってね。それは悪いものが取り憑いてるからです」「うちに来れば、息子さんは浄化されます」 ヤバいと思って、勝手口から出て逃げた。玄関から台所は1番離れてて、その中間地点に階段があって、俺は階段からその話を聞いて、音を立てないようにそっと、台所から出たんだ。んで、裏手に出るんだけど、裏手と隣の家の庭って行き来できるようになってるから、そこから逃げて、コンビニのイートインスペースで時間つぶしてた。 宗教の人達は俺が無職みたいに言ってたけど、俺はイラストレーターで、仕事はほとんど在宅。家には毎月10万円入れてるのに、母親は俺をニートだと思い込んでるから本当に困る。 父親は俺の仕事を理解してくれてるから、宗教の相手してたのが父親だったら、逃げずにすんだと思う。 イートインスペースでパンを食べながらスマホをいじってると、また自分からDMが来た。「だから逃げとけって言ったのに。もうひとり暮らししろ」 気持ち悪いから
last updateLast Updated : 2025-12-21
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中古車

 友人のAが車を買った。といっても、中古だけど。車種はあえて伏せる。営業妨害みたいになったら嫌だし。普通車とだけ言っておく。 Aいわく、走行距離はたったの2万キロで、値段はだいたい30万。スピーカーの音質もいいし、エアコンもよく効くとのこと。 Aは元々車好きで、よく訳の分からない用語を並べ立て、車愛を語るんだが、今回の入れ込みようは異様だった。 スマホの壁紙はロック画面もメインも愛車の写真だし、元気ないなと思って「どうした?」って聞くと、「愛車が恋しい」なんて言いやがる。 車に恋してるみたいで、ちょっと不気味だった。 Aと久々に休日が重なって、一緒に出かけることにした。Aの車で移動する。車好きは運転好きが多く、Aもそのクチだ。 初めてその車の助手席に座った。Aが褒めちぎるだけあって、乗り心地はいいし、エアコンもよく効く。スピーカーの音質も確かによかった。 俺は車にそこまで興味なくて、乗れればそれでいいってタイプなんだけど、この車だったら、乗り回したくなるのも頷く。「マジでいい車だな。助手席に座ってるだけだけど、快適だわ」「だろ? これで30万とか破格だよなぁ」 Aは上機嫌で鼻歌なんて歌いながらハンドルをきる。目的地に向かう途中、古い道路を通ることになった。道路に書かれてる法定速度や線はほとんど消えてて、かなりへこんでる。前日雨が降ったせいで大きな水たまりがところどころにあった。「はぁ、最悪――」 Aは舌打ちをすると、極力水たまりをさけながら運転してた。 5分も走ってると、対向車に大型トラックが。しかも結構スピード出してる。すれ違う時、大型トラックが勢いよく水しぶきをたてて、Aの車のフロントガラスにまで飛んだ。「ざっけんなよ、クソが!」 Aはブチギレながら、ウォッシャー液を噴出させるが、赤黒い液体で、俺は悲鳴をあげた。「なんだよ、うるさいな」「おま、お前! 今の、なんだよ!?」「はぁ? 何って、ウォッシャー液だろ?」 Aは訝しげに言う。こいつには普通のウォッシャー液に見えたんだろうか?「今、赤かったろ」「何が?」「ウォッシャー液だよ!」「はぁ? 普通だったろ」 どうやらAには普通に見えたらしい。でも、ワイパーで端に寄せられた液は赤黒い。「んぎ、うひいぃ! ひへへへひゃひゃひゃひゃ」 今度はカーステレオが狂った。さ
last updateLast Updated : 2025-12-21
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義弟の腕

 年上の嫁をもらった。嫁の弟は俺と同い年で趣味も同じだから、義弟のAとはよく出かけたりしてた。 嫁は俺のお袋と仲が良くて、このふたりもよく一緒に出かける。ふたりが旅行に行くと言うから、俺はAを誘って温泉に行くことにした。Aは目を輝かせて「行く!」と即答。 有名どころは人が多くて疲れるだろうから、マイナーな温泉街を探して、そこに行った。足湯に浸かったり、温泉まんじゅう食ったり、ベタな旅行を楽しんでいた。 宿について、さっそく温泉に入ろうってことになってさ。そのタイミングで嫁から電話がかかってきたから、Aに先に行かせて、嫁と10分くらい電話してた。 電話を切ってすぐに温泉に行ったら、義弟は既に浸かっていた。俺も頭と体を洗って、弟の隣に行く。「いやぁ、めっちゃいいね、ここ」 Aは右手で顔の水滴を拭う。その腕に、黒いものがある。「お前、タトゥーしてたのか。タトゥーは温泉禁止だろ」「これ、タトゥーじゃないんだよ」「じゃあなんだよ」「話長くなるから、部屋に戻ったら話すわ」 人目が少し気になりつつ、温泉を堪能してから部屋に戻った。「んで、それなんだよ」「せっかちだなぁ」 Aは苦笑しながら話してくれた。 嫁とAは今でこそそこそこ栄えたところに住んでるけど、子供の頃は盆地にあるド田舎に住んでたらしい。 山に囲まれてて子供も少ないから、退屈で、学校が終わってもすぐに帰らないこともよくあった。 学校付近を散策してると、柵に囲まれた家を見つけた。まだ善悪の区別がつかない小学生のAは、枝を拾って、カンカンやってた。 往復しようとしたら、「恥さらしが」という声が聞こえ、誰かに枝を持った腕を掴まれた。掴まれた部分は焼けるように熱くて、驚いて見ると、真っ黒な手形がついていたらしい。「その家の人がつかんだんじゃなく?」「そんなんじゃねーよ。第一、人間が掴んだんなら、こんなに残らないだろ」「あぁ、確かに」「急いで帰って婆ちゃんに聞いたら、土地神だろうって。自分の土地の子が悪さしたから叱ったんだろうってさ」「信じがたいな――」「ずっと発展してるところに住んでたら、余計そうだろうな。子供の頃、何回か神様に助けてもらったことあるから、俺は信じてる。姉貴もな」「え? 初耳なんだが」 嫁とは色んな話をしてきた。子供の頃の話も。でも、そんなオカルトじみた話は聞
last updateLast Updated : 2025-12-21
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