若い頃、100万円貯めてから旅に出た。子供の頃、棒を倒して、倒れた方に曲がっていくってやったことない? あの方法で旅をしてたんだ。 流石に木の棒を電車やバスに持ち込むわけにはいかないので、指示棒を買って、それを使った。先っちょに指し指がついてるやつな。 電車とかバスに乗る時は、路線図を広げて、指示棒で決める。分かれ道があった時もそう。 なんなら、メニューを決める時でさえ使う時もあった。 指示棒の向くまま旅をしてたら、ザ・田舎ってところにたどり着いた。店もなければ宿もないようなところで、隣の家が数百メートル先にあるようなところで、民家よりも田畑の方が圧倒的に場所を占めている。 どういうわけか、犬がたくさん歩いてる。最初は野良犬かと思ったけど、皆首輪っていうか、紅白のしめ縄みたいなのを首につけてた。 それだけでも不気味なのに、村人達は犬を見ると土下座みたいな体勢になって、崇めていた。「それ、なにしてるんすか?」 気持ち悪いと思いながら老婆に聞くと、「この村にとって、お犬様は神様なんだよ」って言ってた。 例えば、田畑を決めるのにもお犬様頼りらしい。普通、田んぼって決まった場所は何かない限り田んぼだし、畑って決めた場所も、ずっと畑で、植える野菜や果物も変わらないだろ? まぁ、俺のイメージなんだけど。 でも、この村では犬が1軒1軒回って、家主の顔を見て吠えたら田んぼ、吠えなかったら畑になるんだと。 俺みたいな客人が来た時も、犬が客人のにおいを嗅いでから、どこかの家に案内する。その家の人は客人をもてなさないといけない。 他にも色んなことを犬に決めてもらってる。 どっちが畜生か分からないなと思ったけど、口に出すのは辞めておいた。「おぉ、お犬様じゃ」 老婆と話し込んでると、1匹の犬が来て、俺のにおいをかぐ。「きっと家に案内してくださる」「いや、泊まるつもりは――」「お犬様に逆らうのは、お客人でも許されないよ」 老婆は俺を睨みつけながら言う。なんとも言えない気味の悪さに、背筋が凍った。 犬は数歩歩くと振り返って吠える。「ついてこいと言っておる」 うさんくさいと思いながらついていくと、民家の前で止まり、何回か吠えた。家からは小柄な女性が出てきて、俺と犬を交互に見ると、「お客様ですね、どうぞ」と家の中に招いてくれた。 断りたかったけど、断
Last Updated : 2025-12-21 Read more