All Chapters of 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい3: Chapter 51 - Chapter 60

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51話 多重障壁の軋み

 その時、静寂を切り裂いて二体の巨躯が爆発的な踏み込みを見せた。巨体に似合わぬ神速。大気を鋭く引き裂く音が遅れて届くほどの速度で、二振りの大剣が俺の急所を目掛けて同時に突き出される。「――っ!」 咄嗟に魔力を展開し、半透明の障壁を眼前へ多層に張り巡らせる。ガキンッ! という耳を劈く硬質な衝撃音とともに、バリアが激しく火花を散らした。 うわっ、早っ……! 今まで戦ってきたどんな魔物とも、攻撃の初速とキレが段違いだ。もし俺が剣一本だけで戦っていたとしたら、一体の突きを弾いた瞬間に生じる隙を突かれ、もう一体の刃に確実に貫かれていただろう。避けることすら困難な、精密で暴力的な同時攻撃。多重バリアという面の防御があって初めて防ぎきれる、死の連撃だった。 障壁越しにダイレクトに伝わる凄まじい振動に、腕の骨がミシリと嫌な音を立てて軋む。だが、その危機的状況とは裏腹に、俺の唇の端は自然と吊り上がっていた。 ……ヤバイな、これ。 背筋を伝う冷や汗が流れる一方で、心の奥底では熱く滾る何かが沸き上がるのを感じる。圧倒的な力を持つ創造主の気まぐれが生んだ、この絶望的なイレギュラー。本来なら恐怖に足がすくむはずの光景だ。だが、今の俺にはそれが、最高に刺激的で面白い遊びのように思えていた。 全身の血が騒ぎ、視界が異常なほどクリアに冴え渡っていく。多重バリアを叩く大剣の重みも、闇に蠢く残りの魔物たちの殺気も、すべてが俺をさらなる高みへと押し上げる糧に変わっていく。 攻勢に転じるべく、俺は魔力の障壁を鋭利な刃の形へと硬質化させ、眼前の個体へ向けて叩きつけた。重い衝撃音が夜の空気を震わせる。モンスターは咄嗟に強固な籠手でガードしたものの、その衝撃に耐えきれず後方へと派手に吹き飛んでいった。 だが、手応えは芳しくない。バリアの斬撃は厚い防具を捉えたに留まり、致命的な深傷を負わせるには至らなかった。 マジか……バリアの直接攻撃ですら、この程度しか効かないのか。 いざとなれば、対象の体内に直接バリアを発生させて内部から破裂させるなり、やりようは
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52話 覚醒の咆哮、神速の蹂躙

「はぁっ~!? ユウヤ……が苦戦って……? 何と戦ってるの? ドラゴンの群れとか?」 さらりと言ってのけたサーシャのその言葉に、俺は思わず戦慄した。 ドラゴンの群れだと? 一体倒しただけで世界の魔力バランスが狂い、これほどの化け物が湧いて出てきたんだぞ。そんなものが群れで現れて、それをもし俺が全部倒してしまったら――。 溢れ出す魔力がさらなる怪物を生み、この世界がどんな地獄絵図に変わるか。想像するだけで背筋に冷たいものが走る。今の俺にとっては、目の前の十九体以上に、サーシャの口にする「最悪の可能性」の方がよっぽど恐ろしかった。「違うしっ!」 俺は思考を遮断するように叫び、迫りくる鋼の嵐をバリアで強引に弾き飛ばした。火花が散り、金属が擦れる嫌な音が夜の山道に響く。 原因を作った張本人の無自覚な言葉に、怒りはついに頂点に達しようとしていた。この女神様、早く帰ってきて一緒に寝たいなどと甘い言葉を吐いておきながら、俺をこの窮地に追い込んだ元凶が自分だということを、一体どこまで理解しているのやら。「じゃあ……何と戦ってるのよ?」 脳内のサーシャは、未だに事態の深刻さが飲み込めていないようで、どこか疑わしげに問いかけてくる。俺は迫りくる三振りの大剣を、ミリ単位の精密な回避と最小限の魔力障壁で受け流しながら、現状を言葉にして叩きつけた。「ん~……人型で角が生えてて、人より大きくて武装をしてて……剣で攻撃されると俺のバリアが持たない感じのモンスター二十体と戦ってる」「はぁ?……そりゃ強いモンスターと……って二十体!? うわぁっ……まじで~!? でも……制限解除すればユウヤなら余裕じゃないの?」「はい? 制限解除ってなによ? 初めて聞くし、知らないんだけど……?」 耳慣れない不穏な単語に、思わず攻撃を捌く手が止まり
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53話 創造主の誤算

 あまりの圧力に、愛用していた剣の柄に嵌め込まれていた魔石が、その奔流に耐えきれずパキィィィンッ!と甲高い音を立てて弾け飛んだ。 それだけではない。俺の全身からは、ゆらゆらと陽炎のような金色のオーラが立ち上り、深い夜闇の中で眩いばかりに可視化されている。これほどまでの密度で魔力を放出するなど、魔術師が見れば卒倒しかねないほどの贅沢な無駄遣いではないのか。「出来たんだけどさ……これって体の周りにオーラみたいなのが出てるんだけど……勿体ないんじゃない?」「あぁ……気にしなくても大丈夫だよ……息をして吐いた息が勿体ないって言ってる様なものだし……って、うわぁ~一回の制限解除で、そんな状態になっちゃってるの?」 脳内の彼女の声が、明らかな驚愕に震えている。どうやらこの黄金の輝きは、創造主である彼女の予想すらも遥かに上回る、異常なまでの高出力の証だったらしい。 ん? なんだその反応は。 一回の解除。ということは、この尋常ではない状態ですら、まだ一段階目に過ぎないということか。吐く息と同じ感覚で垂れ流しているこの魔力量ですら、俺にとっては微々たるものだというのか。 どんだけ力を抑えて生活していたんだ、俺は……。 戸惑いながらも視線を巡らせれば、視界の端に映るモンスターたちの動きが、先ほどまでの神速が嘘のように、まるでスローモーションの映像を見ているかのように感じられる。周囲の人々がどうなのかは知らないが、少なくとも目の前で怯えたように足を止めた十九体のバケモノたちが、今はひどく矮小な存在に見えていた。「そっか……それよりさ……制限時間とか、解除した時の代償とか副作用ってあるの? あるなら、初めに教えておいてほしいんだけど」 溢れ出す魔力に全身が支配される感覚は心地よいが、その反面、恐ろしいほどの万能感には不安もつきまとう。戦いが終わった瞬間に激痛に襲われたり、あるいは数日間動けなくなるような反動
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54話 月光の寝顔

 俺は、さらに加速した。黄金のオーラを尾のように曳きながら戦場を縦横無尽に駆け抜け、瞬く間に半数の個体を文字通りの塵へと変えていった。一振りごとに異形の肉体が易々と両断され、夜の静寂に崩壊の音が混じる。 ふと足を止め、一度全身の力を抜いて意図的に制限をかけ直してみた。そして今度は、より繊細に、古びた蛇口を慎重に少しだけ捻るようなイメージで「僅かな制限解除」を試みる。全身を包んでいた過剰なオーラが静かに収まり、狂乱していた周囲の空気が平穏を取り戻すように安定していった。「これくらいで良いんじゃない……?」 これなら魔力を無駄に垂れ流すこともない。バリアの強度は十分に保たれ、敵の動きも手に取るように捉えられる。圧倒的な力に任せて一方的に蹂躙し尽くすよりも、この程度の均衡を保っている方が、戦いとしての手応えがあってはるかに楽しい。 残された数体のモンスターたちが、勝機を見出したと言わんばかりに再び包囲を狭めてくる。だが、その絶望的な認識の差すらも、今の俺には心地よい余興に感じられた。「お~いっ! ユウヤぁ~! ねえぇ~まだ、戦闘中なの?」 またしても脳内に響く声。今度は先ほどまでの眠気よりも、待ちぼうけを食らっていることへの隠しきれない不満が混じっているようだ。まるで、約束の場所に遅れてきた相手を詰問するような響きである。「あ、うん。ちょっと遊んでた……」 俺は迫りくるモンスターの攻撃を軽くいなしながら、正直に答えた。「寝ないで、待ってるんだからねっ」 サーシャの口調から、不満そうに可愛らしい頬を膨らませている姿が目に浮かび、微笑ましくてユウヤの口元が緩んだ。「え? 寝てて良かったのに」 気を使わせたと思い、ユウヤは申し訳なさそうに呟いた。「もぉっ! 知らない……っ。おやすみ!」 ぷいっと、目に見えるかのような鮮やかさで横を向いた気配とともに、頭の中に響いていた念話が唐突に途絶えた。 どうやら、あまりに気のない返答を繰り返したせいで本気で怒らせてし
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55話 創造主の出張

 『ドキッ♡』っと心臓が大きく跳ね、一瞬で眠気が吹き飛ぶ。あまりの可愛さに思考が停止しかけたが、すぐに隣に寝ていたのがサーシャであることを思い出し、俺は冷や汗を流した。幸せの絶頂のような状況だが、同時に得も言われぬ危機感が背筋を走る。 もし彼女が目を覚まして、昨日みたいに「誰よっ!」と叫びながら神の力を行使したら……。普通の攻撃なら死んでも時間を戻してもらえばいいが、もし彼女の逆鱗に触れて「存在そのもの」を消去されたら、やり直しすら効かないのではないか。だが、そんな不安を抱きつつも、視線はどうしても目の前の造形美に吸い寄せられてしまう。 長い睫毛に縁取られた瞳が、今は静かに閉じられている。その無防備で幸せそうな寝顔を見つめていると、世界が自分一人だけのために止まっているような錯覚さえ覚えた。ふと、その銀色の睫毛が震えた。潤んだ瞳がゆっくりと開かれ、俺の視線と真っ向からぶつかる。「きゃぁっ♡ ユウヤ……なにしてるのっ?」 状況を把握した瞬間、サーシャの顔は見る間に林檎のように真っ赤に染まった。彼女は慌てた様子で、俺の腕から逃れるようにして掛け布団を頭まで被り、もこもことした塊になって中に隠れてしまう。布団の中から伝わってくる激しい動揺と、恥ずかしさに震える気配。さっきまでの穏やかな空気は一変し、部屋の中には甘酸っぱい沈黙が流れ始めた。「何してるって……隣で寝てて今、目が覚めただけだけど……」 俺は少し困惑しながらも、正直に答えた。急に布団に潜り込んだ彼女の動揺が、シーツ越しに伝わってくる。「そ、そう……変な事してない?」 布団の中から、少しだけくぐもった、けれどどこか期待を孕んだような声が返ってきた。「ん~抱き合って寝てたな……」「は? え? わたしも……ユウヤを抱きしめてたの?」 ガバッ、と勢いよく布団が跳ね除けられた。銀髪を乱したサーシャが、顔を真っ赤にしながら身を乗り出してくる。その瞳は驚き
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56話 黄金の朝の別れと、静寂の軍事演習

「うん。同じ世界にいるし~わたしの世界だからねっ。悪い事してるのも分かるんだからね!」 釘を刺すように人差し指を立てる彼女に、俺は肩をすくめて笑った。「はいはい……婚約者となら良いんだよな?」「ふんっ! まあ……仕方ない許す! 他は、だめっ!」 独占欲を隠そうともせず、そっぽを向く彼女の頬が少しだけ赤い。そんな可愛い反応を見せられたら、送り出す前に少しだけ悪戯したくなった。「はぁ~い……ちゅっ♡」「きゃぁっ♡ それじゃ……いってきまーす♪」 不意打ちのキスに顔を真っ赤にして跳ね上がったサーシャは、照れ隠しのように満面の笑みを浮かべた。直後、彼女の体は淡い光の粒子へと変わり、キラキラとした軌跡を朝の空気の中に残しながら、一瞬にしてその場から消え去った。 静かになった部屋で、俺はまだ残っている彼女の甘い残り香を深く吸い込んだ。世界を管理する女神の夫というのも、なかなか忙しい身分になりそうだ。♢隣国への旅立ち「うわっ。ホントに女神っぽい……」 光の中に消えていったサーシャの残光を見つめ、俺はポツリと独り言を漏らした。普段の甘えん坊な姿とのギャップに改めて驚かされるが、感傷に浸っている暇はない。今日はユフィと合流し、予定通り隣の王国へ移動することになっていた。 身支度を整えてリビングへ降りると、そこには既に朝の準備を終えた面々が揃っていた。「おはようございます。ユウヤ様」「おはよ~ユウヤ様」「お兄ちゃん、おはよ♪」「皆早いね。おはよ」 朝の清々しい空気の中、三人の明るい声が重なる。昨夜、あの異形の群れとの戦いの傍らで、危険な山道だというのにぐっすりと眠りこけていたユフィも、今はすっかり元気そうだ。朝露に濡れた草花のように、その表情には活力が満ちている。「ユウヤ様は、ご準備は終わりましたか?」 ミリアが微笑みながら聞いてき
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57話 牙を剥く変異体と、エリートの矜持

♢牙を剥くイレギュラー 整然と並ぶ兵士たちが、鋭い号令に合わせて型通りの剣を振るっている。だが、昨夜あの地獄のような強襲を潜り抜け、理外の力を振るった俺の目には、その動きはあまりに緩慢で、どこか緊張感に欠けるものに映った。舞い上がる砂埃も、兵一人ひとりの放つ魔力も、良くも悪くも普通の域を出ることはない。「な~正直……普通で良いも悪いもないよ? 数とかは知らないし。練習じゃ分からないな~俺と王国軍の軍事演習とかしちゃう?」 退屈紛れに、ふと口にした言葉。それは俺にとっては軽い冗談に近い提案だった。しかし、隣にいたミリアは瞬時に血相を変え、俺の袖を強く引いた。「止めてください! 危ないですっ。分かりました……戻りましょうか」 ミリアの声には、冗談では済まされない切迫した響きがあった。軍事演習などという形をとれば、アルム王国の誇る騎士団が再起不能なまでに壊滅しかねないと、彼女は瞬時に察したのだろう。 彼女の青ざめた顔に急かされるようにして、俺たちは訓練場を後にした。背後で続く兵士たちの掛け声を遠くに聞きながら、国王が待つ応接室へと足早に引き返した。 国王と和やかに言葉を交わしていた、その時だった。部屋の扉が乱暴に開け放たれ、静謐な空気が一瞬で切り裂かれた。 飛び込んできたのは、肩で激しく息をし、全身が泥と返り血にまみれた伝令の兵だった。荒い呼吸の合間に紡がれる報告を聞くにつれ、国王の威厳ある顔がみるみるうちに青褪めていく。 話によれば、国境付近に突如として強大なモンスターが出現したという。ギルドから派遣された高ランクの冒険者パーティが全滅寸前にまで追い込まれ、急遽出動した王国軍の分隊までもが、その圧倒的な蹂躙を止めることができずに壊滅状態にあるとのことだった。再び応援要請をしに走った伝令の、血を吐くような言葉に、豪華な応接室の中には絶望的な沈黙が流れた。 おいおい、サーシャさん……ちゃんと仕事してるのか? 調整に出かけたはずの、あの呑気な女神の顔を思い浮かべ、俺は小さく溜息をついた。世界のバランスが崩れているの
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58話 若き騎士の矜持と、見学の代償

「良いじゃん~ちょっと潜入調査してくる」 俺が軽いノリでミリアに言った。すると、ミリアは呆れた顔をして、即答えた。「はい? ダメですっ!」「じゃあ見学だけだし、大丈夫でしょ?」 俺がしつこく食い下がると、ミリアは額に手を当てて深く溜息をついた。俺が一度言い出したら聞かないことを、彼女はこれまでの付き合いで痛いほど理解している。「では……見学だけですよ。絶対に、勝手な行動はしないでくださいね?」「分かってるって」 呆れ顔のミリアから、ようやく許可をもぎ取った。俺は心の中で「制限解除」の感覚を指先に呼び起こしながら、不敵な笑みを浮かべた。精鋭騎士団の実力とやら、せいぜい拝ませてもらうとしよう。もし彼らが手に負えないようなら、その時はまた「出刃包丁」の出番だ。♢騎士団との同行、揺れる背中 重厚な石造りの回廊を抜け、王城正面の広場へと案内されると、そこには圧巻の光景が広がっていた。眩い陽光を反射させ、鏡のように磨き上げられた鎧を纏った騎士たちが、およそ百名。一分の乱れもなく整列するその姿は、いかにも「王国の象徴」といった趣だ。 貴族出身のエリートと聞いていたから、もっと線の細い連中を想像していたが、実際に見ると予想以上に身体を作っている。身に纏う空気にも相応の重みがあり、それなりに修練を積んできた自負が感じられた。 案内役の重鎮が騎士団長を呼び寄せ、俺の同行を告げる。「この緊急時に、素人のお守りなど出来ません!」 騎士団長は俺を一瞥し、忌々しげに吐き捨てた。戦場を遊び場か何かと勘違いしている無礼者――彼にとっての俺の評価は、そんなところだろう。「これは命令だ。黙って従え」 重鎮の冷徹な一喝に、騎士団長は苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んだ。軍隊である以上、上からの命令は絶対だ。「分かりました。ですが、命の保証は出来ませんぞ」「……ならば護衛を数人付けてくれ。怪我をされては困るからな」「かしこまりました」
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59話 上級貴族の不遜と、地獄への一歩

 現場からかなり距離を置いた、緩やかな丘の陰に俺は降ろされた。 目の前には、不満げな表情を隠そうともしない五人の護衛騎士。 先ほどまで俺を乗せていた若手の騎士も、隊長の指示に従い、どこか未練を残したような顔で主力部隊へと合流していった。「よし。お前達はコイツの護衛が任務だ。ケガをさせるなよ」「はい!」 威勢よく返事こそしたものの、隊長が去った瞬間にその場の空気は一変した。「はぁ~……初めての現場に出られると思ったら、ガキのお守りかよっ!」「だな……ついてないぜ~。手柄を立てる絶好のチャンスだってのに」 装備こそピカピカだが、その立ち居振る舞いには戦場特有の殺気が微塵も感じられない。 二十代そこそこの若手と、それより少し上の年齢の者たち。 彼らは俺を置き去りにした主力部隊が向かった方向を、恨めしそうに見つめている。 護衛というより、もはやただの見張りだ。 おまけにここからじゃ、肝心のモンスターの姿どころか、戦闘の音すら微かにしか聞こえてこない。 いや、お前らはラッキーだと思ったほうがいいぞ。 冒険者や王国軍の分隊を壊滅させた「調整ミス」の化け物に、実戦経験の乏しいお前らが行ったところで、手柄どころか一瞬で肉塊に変えられるのがオチだ。 俺は欠伸を噛み殺しながら、暇そうに愚痴をこぼし合う五人の背中を冷めた目で見つめた。 その時—— 微かだった剣戟の音が止み、代わりに大気を震わせるような絶叫――騎士たちの悲鳴と、獣ともつかぬ禍々しい咆哮が丘を越えて響いてきた。(不味いな。 サーシャが調整し損ねたモンスターが、エリート様たちの想像を絶する速度で「間引き」を始めたらしい……)♢傲慢な騎士と静かな怒り「ってか、お前なんなの? こんな緊急時に騎士の見学ってよ? はっきり言って邪魔なんだよな、お前……」 護衛のリーダー格らしい男が、隠しもしない嫌悪を露わにして俺を睨みつけてきた。彼らにとっては、手柄を立てる機会を
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60話 安全地帯の崩壊と、野心の毒

 俺は諦めて、彼らの後を追うことにした。いざとなったらバリアで自分だけは守れるが、この勘違い騎士たちが「調整ミス」の怪物を前にどんな絶望に顔を染めるのか、それはそれで少し興味がある。 丘を越え、視界が開けた瞬間。そこにあったのは、彼らが夢想していた「華々しい騎士の戦い」ではなく、ただの蹂躙だった。♢傲慢の代償「おいおい……今更、怖くなったのか? 勘弁しろよな~……」 男は俺の静止を臆病風に解釈したのか、鼻で笑いながらさらに追い打ちをかけてきた。「だったらお前は、ここに居ろよ。動くなよ! そうだ丁度良い。お前の護衛に、この下級貴族の臆病者を付けてやるよ。討伐現場からかなり離れてるし、ここは安全だからな」 上級貴族を自負する三人は、自分たちだけで見物に行こうと意気揚々と馬を歩ませようとする。(はぁ~、どうしよっかな……。今回はミリアに見学だけって釘を刺されているし、あまり目立つ真似はしたくない。だけど、昨夜の俺の戦いっぷりを見てサーシャが張り切りすぎて、この「調整ミス」の怪物を生んでしまったのだとしたら、この原因の一端は俺にあるよなぁ……)「あの~、固まって動いてた方が言い訳が出来るんじゃないのですか。待機していた場所にモンスターが現れて、対処できずに移動してたとか言えますし。別行動で見つかれば、完全に命令違反か任務放棄になると思うんですけど?」 俺が淡々と理屈を並べると、先ほどまで息巻いていた男がピタリと動きを止めた。騎士にとって「任務放棄」の汚名は、その後の出世、引いては一族の面汚しに直結する。「……ちっ、小賢しいガキだな。だが一理ある。……おい、お前ら! ここは危険だ! モンスターが、いつこっちに来るか分からんからな、移動を開始するぞ!」 どの口が言うのか。男は自分の臆病さを隠すように、さも俺の助言を自分の判断だったかのように部下たちへ命じた。だが、その強がりが虚空に消えるよりも早く、丘の向こうから空気を切り
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