LOGIN転生特典として、彼は防御と攻撃を兼ね備えた万能バリア、そしてあらゆるアイテムを生成し収納できる能力を手に入れる。これで安泰……かと思いきや、転生と同時に身体が若返り、中学生くらいの容姿になっていたことが判明! 戸惑いながらも、新たな能力を駆使して危険なモンスターを退け、彼は異世界での生活を満喫し始める。
View Moreそれから三日ほど、何気ない日常の平穏を存分に味わい、ゆっくりして過ごしていた。
だが、その静けさを破るように朝早くから国王の使いが呼びに来た。ユウヤはミリア、シャルロッテと顔を見合わせ、身支度を整えると、三人で再び重厚な石造りの王城へ向かった。
王城の長い廊下を歩く足音が、これからの旅の始まりを予感させるように、静かに、だがはっきりと響き渡っていた。
「お呼びして申し訳ないです」
国王は、目の下に薄い隈を作り、苦渋に満ちた表情でユウヤたちを迎え入れた。その声は、以前会った時よりも微かに震えているようだった。
「それは良いけど、朝早く呼ぶという事は緊急の要件ですよね?」
ユウヤは、城内の張り詰めた空気を感じ取り、真剣な眼差しで問い返した。
「は、はい……平民にした貴族達の一族達が、密かに連絡を取り合っているようでして」
国王の言葉に、ユウヤは納得したように小さく息を吐いた。
そっか……前回は一族が一つだったので協力者が出なかったけど、今回は複数の貴族を一度に大量に刑を執行したから、お互いに協力して何かを企てようとしているのか。ユウヤは、暗い情念が複雑に絡み合う貴族社会の執念深さを感じ、厄介な事態になったことを察した。
「今回は完全に俺のミスだな……」
ユウヤは、額に手を当てて小さく息を吐いた。一度に多くの首を撥ねれば、当然その後に残された者たちがどう動くか。複数の一族がいれば、復讐に燃える兄弟や、野心を持つ甥や姪も大勢いるはずだ。中には周囲からの人望が厚い者だっているかもしれない。
とりあえず……平民に落としたことで、皮肉にも彼らには自由な行動制限がない状態だ。このまま逃げられて潜伏され、裏で糸を引かれるのは非常に不味い。
「一度、罪人たちを一箇所に集める必要がありそうですね」
ユウヤがそう決意を口にすると、横で退屈そうに指先をいじっていたシャルロッテが、不思議そうにこちらを見上げた。
この話は、ドロドロとした貴族の恩讐が絡む難しく、そして解決まで長引きそうな内容だ。ユウヤは、彼女をこの不穏な空気から遠ざけるため、優しくその肩に手を置いた。
「シャル、この話は少し時間がかかりそうなんだ。悪いけど、ミリシスと一緒に居てもらってもいいかな?」
「えぇっ……ユウヤ様と一緒ではないのですか?」
シャルロッテは、不満げに眉を寄せ、今にも抗議しそうな表情を見せたが、ユウヤの真剣な眼差しに気付くと、しぶしぶといった様子で頷いた。
「分かりましたわ……ミリシスと一緒に控えておりますわ。でも、絶対にすぐ戻ってきてくださいね?」
シャルロッテは、ユウヤの服の袖をぎゅっと握り、寂しさを隠しきれない瞳で見つめ返した。
「罪人を全て、この場に集めてください」
ユウヤが静かに指示を出すと、王の謁見の間には元貴族である十五の一族、その関係者たちが次々と引き立てられてきた。広大な広間を埋め尽くさんばかりの人数になり、その場には重苦しく、それでいて刺々しい空気が充満した。
集めたのは良いけど、どうしようか? ユウヤは、並んだ罪人たちの顔ぶれを冷めた目で見渡した。本来ならば国家を揺るがした大罪人。一族全員が斬首に処されるのが、この世界の常識なのだろう。だが、一度は平民に落とすと決めた以上、今更処刑というのも……。
彼らは元貴族だ。礼儀作法は骨の髄まで叩き込まれているはずだが、あちこちから不遜な囁き声が漏れ聞こえてきた。
「なぜ我らがこのような場所に集められねばならんのだ」 「平民に落としただけでは飽き足らず、さらに辱めるつもりか」
王の御前でありながら、許可なく勝手に口を開く。それは既に貴族でもない、ただの大罪人である平民には許されざる不敬だ。剥き出しの敵意と侮蔑の視線がユウヤに突き刺さる。
これは完全にナメられている。ユウヤは、静かに怒りの火が灯るのを感じながら、威圧的に騒ぎ立てる者たちを無言で見据えた。謁見の間を支配していた静寂が、凍りつくような緊張感へと変わっていく。
「国王のお陰で平民となり、働かないと食べてはいけなくなりましたので、何故お呼びになったのかの説明と、早く開放をして頂きたいですな」
一人の男が、慇懃無礼な態度でそう言い放った。口調こそ丁寧を装っているが、その目は隠しきれない傲慢さに満ちている。
「そうですぞ。早く開放をしていただかないと、お互いの貴重な時間が勿体ないですぞ!」
それに呼応するように、別の男がわざとらしい溜息をつきながら同調した。謁見の間には、彼らを支持するような嘲笑の気配が微かに広がった。
ホントに、こいつらバカなのか? ユウヤは、冷え切った視線を彼らに向けた。反省をしているどころか……言いたい放題か。
元貴族だろ? 自分の置かれている立場を理解していないのか? まだ貴族気分でいるのか。斬首を免れたので、もう殺されないとでも思っているのか?
ユウヤは、無意識に拳を握りしめ、自身の内でどろりとした怒りが膨れ上がるのを感じた。床に落ちる静かな靴音すらも、今の彼らには聞こえていないようだ。王の権威すらも軽んじる彼らの態度は、もはや救いようのない傲慢さの塊だった。
急いで帰路につくと、レベルアップによる恩恵は凄まじかった。脚力のみならず、心肺機能や動体視力までもが強化されており、飛ぶような速さで険しい山道を駆け抜ける。結局、馬車で数日かかるはずの道のりを、わずか半日で踏破して街へと戻ってこれた。 そのままギルドへ直行し、報告のために受付の列に並ぶ。すると、カウンターの奥で忙しなく動いていたニーナが、列の中にいるユウヤの姿をいち早く見つけ出した。 彼女はぱっと顔を輝かせ、丁寧にお辞儀をすると、弾むような足取りで駆け寄ってきた。「ユウヤ様、なにか問題でしょうか? 途中で引き返してこられたのですか?」 ニーナは眉をひそめ、縋るような眼差しで問いかけてきた。よほど重大なトラブルがあったのだと思い込んだのか、返事を聞く間もなくユウヤの手を引き、足早に応接室へと連れ込んだ。 重厚な扉が閉まり、二人きりになると、彼女は身を乗り出すようにしてユウヤを見つめた。「どのような問題でしょう? わたくしにできることがあれば、何でもご協力いたしますよ」 必死に力になろうとしてくれる彼女のひたむきな姿勢に、ユウヤは苦笑いを浮かべた。「ん? 問題はないよ。依頼が終わったから帰ってきたんだけど……」「へ……? は、はい? えっと……最短でも、やっと山に着いた頃だと思いますけれど……?」 ニーナは目をパチパチさせ、信じられないものを見るように首を傾げた。彼女の常識では、今この瞬間にユウヤが目の前にいること自体が、魔法か何かを見せられているような感覚なのだろう。「あはは、ちょっと急いだんだ。ほら、これ。村長のサインももらってきたよ」 ユウヤが差し出した依頼書を、ニーナは震える指先で受け取った。しかし、そこに記された数字に目を落とした瞬間、彼女の時が止まった。「……えっ? あ、あの……ユウヤ様? この……討伐数の欄……桁、間違えていらっしゃいませんか……?」 ニーナの透き通った瞳が、三万体というあり得ない数字を捉えて激しく揺れていた。 俺から手渡された依頼書を凝視したまま、ニーナは石像のように固まってしまった。まあ、書き換えも誤魔化しもきかないこの討伐数を見れば、無理もない反応だとは思うけれど。「あ、あの……何ですか、これ……。種類の数も討伐数もおかしいです。いったい……どちらへ行かれたのですか? 討伐する場所を間違えてませんか
冗談っぽくそう告げた瞬間、建物の中から「ひっ!?」という短い悲鳴が上がり、ドタバタと慌ただしい足音が響いた。……さすがに討伐したモンスターを生き返らせるなんて、俺にもできないと思うけどさ。「お、お待ちください!! 待っていただきたい!!」 勢いよくドアが開き、中から白髪混じりの髭を蓄えた、恰幅の良い老人が飛び出してきた。その後ろからは、不安げな表情を浮かべた村人たちが恐る恐る顔を覗かせている。「わ、私は、この村の村長です……。モンスターの殲滅をしていただいたそうで……感謝をいたします。……ですが、ほ、本当に、本当に殲滅をされたのですか?」 村長は、信じられないといった様子でユウヤを凝視した。村を覆っていたあの禍々しい黒い霧が晴れ、久方ぶりに差し込む暖かな陽光が彼らの肌を照らしている。それが何よりの証拠ではあるのだが、たった一人で現れた少年に、村を救うほどの力があるとは俄かには信じがたいのだろう。「ええ。とりあえず、村の周りと地下にいた群れは片付けましたよ。もう山道を通っても襲われる心配はないはずです」 ユウヤが屈託のない笑みを見せると、村人たちの間に「おお……」と地響きのような、安堵と驚愕の混じった溜息が広がっていった。 ユウヤが「これ、ギルドの依頼書です」と差し出すと、村長は震える手でそれを受け取った。そこに刻まれた信じられないような討伐数と、実際に晴れ渡った空を見比べ、彼は枯れた声を絞り出すように叫んだ。「うおぉ~~!! 助かったぞっ! 皆の衆、もう大丈夫だ!」 その声を合図に、広場には家々から村人たちが次々と溢れ出してきた。「わぁ~!!! やったぁ~! 餓死しなくて良かった……」「三ヶ月振りに、やっと町に帰れる……。ゴブリンやデカいモンスターは、もう現れないんだよな? な?」 涙ながらに抱き合う者、地面に膝をついて祈りを捧げる者。村中が爆発したような歓声に包まれる。その中で、荷物を背負った商人風の男が必死な形相でユウヤに詰め寄ってきた。「本当に、現れないんだな!?」「はい。普通の山程度には現れますけど……あの異常な群れはもういませんよ」「でも、現れるのだな? なら護衛が必要だな……頼めないか? あんた、強いんだろ?」 男は商品を売りに来たのか、はたまた届けに来たのか、運悪く封鎖に巻き込まれて三ヶ月も足止めを食らっていたらしい
洞窟内に再び静寂が戻ると、ユウヤは女神から授かったスキルを使い、散らばった魔石の回収を始めた。「これだけデカいと、魔石も相当なもんだな……今日だけで、モンスターの大量の討伐をして随分とレベルが上ったな。そのお陰で体が随分と軽くなった気がするな。最高じゃん!」 ユウヤは自らの掌を握り込み、全身に漲る圧倒的な力を実感した。重厚な魔石を次々と収納に放り込み、ふと、自分を飲み込んだあの巨大な穴を見上げた。「どうやって、脱出しようか考えてたけど、今の身体能力なら跳躍で出れそうじゃないのか?」 深く暗い垂直の穴。以前の自分なら絶望していたかもしれないが、今のユウヤには揺るぎない自信があった。彼は軽く膝を曲げ、大地の反動を余すことなく跳躍へと変えた。 ドォン! という爆音と共に地面が爆ぜ、ユウヤの体は弾丸のような速度で上昇した。急激なレベルアップによる身体能力の向上は想像を絶しており、穴の出口を通過しても勢いは止まらない。「うおわっ!? 飛びすぎだろこれ!」 想定を遥かに超え、ユウヤの体は木々の梢を遥か眼下に捉えるほど上空まで舞い上がった。切り裂くような風の音が耳朶を打ち、冷たい空気が全身を包む。 落下に備え、ユウヤは空中で瞬時に姿勢を制御した。着地の衝撃を殺すため、足元にクッション状の多層バリアを展開する。地面に接触した瞬間、凄まじい土煙が舞い上がったが、バリアが全ての衝撃を吸収し、ユウヤは事もなげに大地に降り立った。 立ち上がり、周囲を見渡したユウヤは、その光景の変化に目を細めた。「……霧が、晴れてる」 先ほどまで視界を塞いでいたどす黒い霧は霧散し、そこには陽光が木漏れ日となって差し込む、穏やかな山の風景が戻っていた。 原因は、あの地下の空間に溜まっていた大量のモンスターの邪気やオーラが混ざり合い、溢れ出していたものだったのだろう。地下の魔物を一掃したことで、異変の源流が絶たれたのだ。 森の奥には、まだ微かに魔物の気配が残っているが、それはごく一般的な野生のそれだった。「これなら、もう問題ないな」 ユウヤは清々しい表情で空を仰いだ。山を覆っていた不気味な気配が消え、村を繋ぐ道は再びその姿を現していた。ふと、手元にある依頼書の魔力的な表示を確認し、ユウヤは思わず「うわっ……」と声を漏らした。「ヤバっ!? 討伐合計数が三万体ってなってるし……
足元の感覚が唐突に消えた。対人用なのか、あるいは巨大なモンスターを捕らえるためのものか、地面が音もなく崩落し、巨大な落とし穴がその口を開けた。「うわっ!! なに……? えっ!? わぁぁぁ~~……」 重力に引かれるまま、ユウヤの体は闇の中へと真っ逆さまに落ちていく。視界は一瞬で奪われ、冷たい風の音だけが耳元を掠めていく。地上から20メートルほども落ちただろうか。暗闇の底で、硬い地面が急速に迫ってくる。 だが、地面スレスレのところでユウヤは咄嗟に反射神経を研ぎ澄ませ、自身の周囲に強固なバリアを展開した。 激しい衝撃波が穴の底で渦巻き、土煙が舞い上がる。地面との衝突は寸前で回避され、バリアに守られたユウヤはふわりと軽い着地を決めた。「はあ……死ぬかと思った。大規模な罠?」 ユウヤは激しく脈打つ鼓動を鎮めながら、見上げた。遥か上方には、ぽっかりと丸く切り取られた灰色の空が小さく見える。どうやら、想像以上に深い場所まで落とされたようだった。 そして、その穴の底。湿り気を帯びた空気の向こう側から、先ほどまでのゴブリンたちとは比較にならない、どろりとした重苦しい殺意が伝わってきた。「もお……危ないなー。で、何ここ? 罠? ゴブリンの仕掛けた罠? そんな訳が無いかぁ……」 ユウヤは冷や汗を拭い、暗闇の中で独りごちた。こんな大規模な罠、並の魔物には作れるはずがない。一回使い切りの仕掛けにしては手間がかかりすぎている。「ここ、自然にできた洞窟か……」 状況を把握するため、アイテム作成で球体の明かりを生み出し、周囲を照らしてみた。しかし、放たれた光は広大な闇に吸い込まれ、壁はおろか天井さえも見えない。ただ、足元にゴツゴツとした岩の地面が果てしなく続いていることだけが分かった。「うわっ……大量の群れが、こちらに集まってきているなぁ……」 地を這うような無数の足音と、飢えた獣たちが放つ不快な体臭。空間が広すぎて、先ほどの小さなライトでは全く役に立たない。ユウヤは辺りを完全に見渡すため、直径百八十センチはある巨大な光の球体を生成した。 直視すれば目が眩むほどの強烈な輝きを放つライトが、頭上高くに設置された。 その瞬間、闇に隠れていた光景が白日の下にさらされた。「……うわ、気持ち悪いな」 光に照らし出されたのは、数え切れないほどのゴブリン、そして地上では見た