ぬるくなった水音が、床下の桶に滴る。 廃屋の小さな一室。ひとつのランプが、ぼんやりと天井を照らしていた。 灯りは安定せず、風の音に揺れるたび、壁の影も形を変えて揺れていた。 空気は乾いて、静かだった。聞こえるのは、滴る音と、風のかすれた擦過音だけ。 この空間は――生きていた。 アラーナは、簡素な寝台に横たわって寝息を立てている。 包帯の下、皮膚は赤く腫れ、火傷の痕がいくつも残っている。破けた服の代わりに、古びたシャツを身につけていた。 息は浅く、無意識に腕に力を入れようとすれば、痛みに跳ね返された。 体が重い。けれど、その重さは単なる疲労だけではなかった。 ――胸の奥が、焼けている。 傷の疼きとは違う、もっと奥深くにこびりついた熱。 目を開ける前から、それが確かに存在していると、彼女はわかっていた。 その暗がりに滲んでいたのは――痛みではなく、記憶だった。 砕けた石畳。焼けた空気。閃く刃と、あの、白銀の騎士――。 誰かが語ったものではない。 その姿は、アラーナの中に深く刻まれていた。 感情を殺し、命令だけに従う存在。 王国屈指の構文制御能力と展開速度。 戦場を理解し、すべてを読み切った上で最短で術式を放つ。 ――何より、強かった。 見る者が畏れを抱くに足る、“本物”の戦士――いや、騎士だった。 だが、ただの“強さ”ではない。 その最後の瞬間、アラーナは確かに“何か”を見た。 刃がその体をとらえ、命が尽きる直前―― その“目”に宿っていたのは、絶望ではなかった。 ――覚悟。 最後に、差し出された彼女の手を……握った……。 冷たくて、細くて、軽かった。 返された力はなかった。ただ、それだけが――残っていた。 椅子の上には、黙したままの男がいる。 リュカは無言で、もう何度目か分からない包帯の取り換えをしていた。 その手つきには、慣れがあった。けれど、そこには迷いがなかったわけではない。 指が、傷の輪郭に触れるたび、少しだけ止まる。 無言のまま、ほんの一瞬だけ、その表情に影が差した。 その傍らに、ひと振りの武器が置かれていた。 《ルジェ=ノワール》。 戦闘で受けた衝撃が刃の根元に歪みを残し、柄の構文線にも焦げ跡が見えていた。 リュカは巻いていた布を緩め、代わりに新しい包帯を取り出す。 その指先が
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