「萌花、条件を出してくれ。君が納得できるところまでいくらでも譲る。話がまとまれば、ここから出す」萌花は鼻で笑った。「あなたの条件なんて、ひとつも受け入れるつもりはない。勝手な期待はしないで」「考えはいつか変わる」時雄は妙に確信しているようだ。萌花は屋敷の中へ入った。中は広く、がらんとしていて、長いあいだ人が住んでいなかったような空気がある。それでも、隅々まできれいに整えられていた。「お腹がすいた。何か作って」萌花は本当に空腹だ。朝から何も食べていないせいで、胃の中が焼けるように痛い。時雄はしばらく萌花を見つめていて、やがて短く答えた。「わかった」時雄の料理の腕はもともと大したものではなかった。ただ、少し前に和樹が料理に夢中になった時期があり、時雄も負けず嫌いで張り合っているうちに、今ではそれなりのものを作れるようになっている。時雄がキッチンへ向かった隙に、萌花は屋敷の中を見て回った。建物は広く、部屋数も多い。その中で唯一ほっとしたのは、見張りらしい人影も監視カメラらしきものも見当たらないことだ。萌花は南向きの部屋を選んだ。その時点で、頭の中では少しずつ脱出の段取りが形になり始めた。しばらくして、時雄が部屋の入口に立った。「できた」萌花は二階のダイニングへ向かった。テーブルに並んでいるのは、パスタとステーキだけだ。「ここはしばらく誰も使っていなかったから、食材があまりない。今はこれで我慢してくれ。佳代は今日来るから」萌花は平然と席に着いた。「何?見張り役まで用意するつもり?」パスタを一口食べてみると、意外にも味は悪くない。時雄は言った。「卑怯だろうが、最低だろうが、好きに俺を罵ればいい。でも萌花、この子だけは絶対に諦めない。三日だけ待つ。その間に、望む条件を考えてくれ。それでも三日後に君の答えが変わらないなら、子どもが生まれるまでここにいてもらう」「あなたは本当にどうかしてるわ」時雄は、かすかに笑った。その笑みには、以前のような気だるい余裕が少しだけ残っている。けれど、今はまったく違って見える。昔の彼は、どこか力の抜けた、掴みどころのない男だった。今の彼は刃物を手にした処刑人のようだ。人はたった数日でここまで変わるものなのか。萌花
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