その人は萌花を背負うと、そのまま部屋を飛び出した。萌花はその背中に身を預けながら、彼の体温と匂いを感じていた。その感覚は、あの年、雪の中で感じたものとまったく同じだ。間違いない。今、自分を背負っている人と、あのとき自分を助けてくれた人は同じだ。来希なのか。違う。来希ではない。萌花は必死に目を開けた。まぶしいほどの火の光の中で、その人の横顔が見えた。時雄だ。萌花は息を呑んだ。ようやく、すべてがつながった。あの年、雪の中で彼女を背負い、十キロもの道を歩いてくれた少年は来希ではなく、時雄だったのだ。これほどはっきり確信したことは、今まで一度もなかった。萌花はずっと、あの雪の日に自分を救ってくれたのは来希だと信じてきた。命を救われた記憶と、絶望の中で差し出された温もりが、その思い込みを十年ものあいだ支えていた。けれど今、はっきり分かった。自分が十年間、命の恩人だと信じ続けてきた相手は、最初から間違っていた。そのせいで、時雄と十年もすれ違ってしまった。その瞬間、萌花は運命とはなんて残酷なのだろうと思った。時雄は萌花を背負って非常階段を下りていった。濃い煙が立ち込め、目の前はほとんど何も見えない。二人とも目を開けていられない。酸素は薄く、空気には有毒な煙と灰が混じっている。萌花は、時雄の足取りが何度も乱れるのを背中越しに感じた。彼ももう限界に近い。自分を支える腕は震えているが、それでも時雄は決して力を緩めなかった。やがて、階下へ向かう通路は激しく燃え上がる炎に塞がれた。炎は噴き出す溶岩のように足元まで迫っている。萌花は朦朧とする意識の中で、そこがまだ十階だと分かった。時雄もすでに限界だった。有毒な煙を吸い込んだせいで足元はおぼつかず、意識も今にも途切れそうになっている。ここまで下りてこられたのは、ほとんど気力だけだ。それでも、まだ道のりは半分残っている。萌花もまた、かろうじて気力だけで意識をつないだ。「時雄、一人で逃げて」時雄一人なら、まだ助かる可能性があるかもしれない。けれど、自分を背負っていては足手まといになるだけだ。ただ、今の萌花は体がまったく言うことを聞かず、立ち上がることすらできなかった。時雄はかすれた声で言った。「馬鹿なことを言うな。君
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