そのころ、時雄のオフィスでは、秘書が慌ただしく駆け込んできた。「社長、奥様が聖和総合病院の庄司先生を予約されていました。それから、先ほど確認したところ、奥様が病院に入られてから三十分ほどで、庄司先生が緊急手術に入ったそうです」時雄の顔から、瞬く間に血の気が引いた。「何だと?」「申し訳ありません。今、確認が取れたばかりで……」時雄はすぐに病院へ向かい、息を切らしながら庄司の診察室の前まで一気に駆け上がった。診察室に入ると、庄司の姿はない。廊下には診察を待つ患者が何人も座っていて、時雄のただならぬ様子を見て、そのうちの一人が声をかけた。「庄司先生なら、緊急の中絶処置に入られましたよ。まだ戻っていません」時雄は即座に尋ねた。「誰の手術ですか」別の患者が口を挟んだ。「たぶん、二条さんって方じゃないですか。あの方の番号が呼ばれたあと、庄司先生がそのまま行かれたので」時雄は顔を上げた。診察室の外には呼び出し用の表示モニターがあって、そこには診察中の患者と待機中の患者の名前が順に表示されている。そして「診察中」の欄に、萌花の名前がはっきりと表示されていた。本当に萌花だ。その瞬間、時雄は雷に打たれたように動けなくなり、全身から力が抜け落ちていった。足元が崩れるようで立っていることすらできない。そばにいる中年の女性が慌てて席を譲った。「大丈夫ですか?」時雄は何も答えなく、ただその席に腰を下ろし、片手を握りしめて額に押し当てたまま、長い間動けなかった。本音を言えば、時雄はまだ諦めきれていない。萌花にこの子を産んでほしいという思いは、どれだけ押し殺しても消えない。けれど萌花は、あまりにも強く拒んでいて、苦しんでいて、そのうえ、蓮とまで関わるようになっている。だから時雄は、手を放すしかないと思った。萌花を、これ以上自分との関係に縛りつけて苦しめたくなかった。それでも心のどこかにはまだわずかな期待が残っていた。たとえ萌花が子どもを産んでも自分は親権を完全に放棄するということを離婚協議書にも明記する。そう言えば、萌花がほんの少しでも、この子を残す可能性を考えてくれるかもしれない。そんな身勝手な望みをまだ捨てきれずにいる。しかし、萌花は翌日にはもう手術を受けた。時雄にも予感はあ
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