萌花は眉をひそめた。「もう食べられなくなるって、どこへ行くのですか?」「うんと遠いところ。二度と戻らない」「吹っ切れたのですか?」蓮の中で何かが変わったと萌花には感じられた。時雄の余命が五年もないと知って、蓮はもう彼との争いを終わらせる気になったのだろうか。蓮はうなずいた。「たぶんね」ようやく食事が終わると、萌花は口を開いた。「それで、そろそろ教えてくれます?時雄の秘密って何ですか。それから、紗夜さんの十四歳の誕生日に、いったい何があったのですか?」蓮は答える代わりに、萌花の前へ書類封筒を差し出した。「君が知りたいことは、全部この中に入ってる」萌花はその封筒に視線を落とした。一見、手紙の封筒のようにも見える。口のところには、手作業で封蝋まで施されている。萌花がその場で開けようとすると、蓮に止められた。「開けないで」萌花が眉を寄せるのを見て、蓮は笑みを浮かべたまま言った。「明日、開けてくれない?」「どうしてですか?」「今開けられたら、俺、後悔するかも」「どういう意味ですか?」萌花は蓮が何を企んでいるのか分からない。「とにかく明日開けて。今日開けたら、さっきの話は全部なかったことにする。俺はまた時雄に食ってかかるし、このまま身内同士で潰し合うだけだよ。そんなの、萌ちゃんだって見たくないでしょ?」萌花はしばらく眉をひそめていたが、結局、その封筒をバッグの中へしまった。蓮は笑って言った。「ねえ、萌ちゃん。君の料理、いつになったらまた食べさせてもらえる?」萌花は荷物を片づけると、そのまま立ち上がった。「あいにくですが、もうそんな機会はないと思います。今度こそ、これで最後ですから」萌花の口調は冷たかった。しかし、それは事実でもある。彼女はもうすぐカラリスへ行く。過去とは完全に縁を切るつもりである。蓮とも、紗夜とも、時雄とも、これから先もう会うことはないだろう。蓮の表情がほんの一瞬こわばったように見えた。それでも彼は笑ったままである。しばらくして、彼は不意にこう言った。「萌ちゃんと出会えて、よかったな。ありがとう」唐突すぎる感謝の言葉に、萌花は思わず動きを止め、顔を上げて蓮を見た。その表情を見た瞬間、なぜか初めて彼に会った日のことが頭に浮かんだ。
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