Semua Bab 断ち切るのは我が意: Bab 61 - Bab 70

100 Bab

第61話

昔の話になった。小春がつい口を滑らせた。「この間、あの元旦那さんがうちの事務所に来たとき、法律上はもう離婚してるってこと、まだ知らなかったみたいだけど」「今はもう知ってるわ」と萌花は答える。「で、絡まれたりしてない?」「別に、そこまでは」折しも、テーブルに置いてある萌花のスマホが鳴った。萌花は画面を一瞥しただけで、着信を切った。その反応を見て、小春は相手が誰だか察したようだ。「ちょうど潔い人だって褒めようとしてたのに」萌花は口元を引きつらせた。「ちょっとお手洗い」そう言って席を立ち、手洗いへ向かう途中でまた電話が鳴った。今度は時雄からだ。萌花は通話ボタンを押した。「何か用?」「今夜は残業で帰りが遅くなるから、妻に報告しておこうと思って」時雄が時折口にする「妻」という響きに、萌花の心臓はいつも跳ね上がってしまう。「分かった」電話を切る気配がなかったため、萌花は尋ねた。「まだ何か?」「明日、母さんの古希の祝いがあるんだ。一緒に来てくれるか?」萌花は少し驚いた。以前、時雄から母親が重い病気を患っており、生きているうちに息子の結婚する姿を見ることが最大の願いだと聞いていたからだ。萌花があの時、彼との入籍に同意したのは、その話を聞いて情にほだされたという理由もあった。「いいわよ」と、萌花はほとんど迷わずに答えた。手洗いを済ませ、レストランへ戻る通路で、萌花は見覚えのある人影を目にした。来希が壁に寄りかかり、タバコを吸っている。萌花が近づいてくるのに気づくと、彼は慌ててタバコを消し、近くのゴミ箱に捨てた。萌花の足が一瞬止まったが、すぐに来希などそこにいないかのように振る舞い、彼の横を通り過ぎようとした。しかし、すれ違いざまに腕を掴まれた。来希はひどく疲弊した顔をしていた。「萌花、もう意地を張るのはやめてくれ。家に帰ろう、な?」萌花は今や反射的に、彼に触れられることを拒絶していて、即座に来希の手を振り払った。「来希、私はもうあなたの妻じゃないの」「萌花、俺の負けでいい。最近、本当に辛いんだ。帰ってきてくれ。お前が俺にとってどれだけ大事か、今さら思い知らされたんだ」ここ最近の来希の状況は、まさに八方塞がりで火の車だった。金融庁の監査で会社に二億円もの使途不明金が発覚し
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第62話

「来希、私、あなたと十年も一緒にいて、求めていたのはその一言だけだったのよ」来希は甘い言葉を囁くようなタイプではない。「愛してる」だの「大切だ」だのといった言葉を、萌花に言ったことなどほとんどなかった。唯一口にしたのは、萌花に仕事を辞めて家庭に専念してほしいと頼んだ時だけだ。萌花はそれを受け入れた。だからこそ、妥協と献身を続けてきた彼女にとって、その言葉はある種の執着となったのだ。萌花の言葉を聞き、来希の暗く沈んでいた瞳に微かな希望の光が灯る。「萌花……」「でもね、来希。どんなものでも、本当に必要な時期を逃してしまえば、何の意味も持たなくなるの」萌花の口調は、拒絶そのものだった。そう言い捨てて、彼女は背を向け立ち去ろうとした。遠ざかる萌花の背中を見つめる来希の胸中で、恐怖、不服、怒りが制御不能なほどに膨れ上がり、洪水のように理性を飲み込んでいった。彼は突如として駆け出して、萌花の肩を掴み、そのまま壁に押し付けると、強引に唇を奪おうとする。突然のことに、萌花は反射的に抵抗した。揉み合いの中、彼女は来希の頬を叩いた。世界が不意に静まり返る。来希は片手を壁についたままうつむき、二人して荒い息を吐いていた。萌花の顔は怒りで紅潮している。あの一瞬、彼女が感じたのは強烈な拒絶と嫌悪感だけだった。だが、頭の中は驚くほど冷静だ。「来希、私たちはもう離婚したのよ。これ以上乱暴するなら警察を呼ぶわ。痴漢で訴えてやるから」萌花は振り返りもせずに立ち去った。来希もまた、怒りと屈辱に溺れそうになった。そして、無視できないほどの恐怖と無力感も混ざり合っている。これほど下手に出ているというのに、なぜ彼女はこれほど高飛車な態度を取り続けるのか?やり場のない怒りに震えていた時、ふと床に落ちている萌花のスマホが目に入った。さっき抵抗された拍子に、ポケットから滑り落ちたのだろう。来希は眉をひそめ、ゆっくりと身をかがめてそれを拾い上げた。ロックは掛かっておらず、画面に触れるとすぐに明かりがついた。画面には、先ほど萌花が手洗いに立つ前に開いていた通話履歴が表示されている。その一番上にある発信者名には、なんと「ダーリン」と表示されている。来希は一瞬、事態が飲み込めなかった。そこへ萌花が戻ってきて、彼の手からスマホを
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第63話

はなはソファに腰掛け、雑誌をめくっていた。学生風スカートに、薄手の白いニットを合わせている。ゆるく巻いた髪は高い位置でポニーテールにまとめられ、ぱっと見はごく普通の大学生のように清楚だ。けれど、身体のラインは驚くほど整っている。豊かな胸元に、きゅっと引き締まった腰。あどけない顔立ちと、思わず視線を奪われる体つきが同居し、守ってやりたい気持ちが溢れそうになる一方で、同時に抗いがたい衝動を掻き立てる。「はな?」来希が部屋に入ってきた。はなはその声に気づいて顔を上げ、ぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべる。「来希さん、お帰りなさい。もう二時間も待ってたのよ」「どうして連絡しなかったんだ。待たなくていいのに」はなは唇を噛み、少し拗ねたような表情になった。「二回も電話したのよ。でも、どっちも出てくれなかったじゃない」この数日、来希は問題続きで余裕がなかった。尚子からの電話も、はなからの連絡も、気持ちをかき乱すものはすべて無視していた。来希はわざとらしくスマホを取り出し、画面を一瞥する。「悪かった。忙しくて、気づかなかった」それでも、はなの表情は晴れない。「私、てっきり嫌われたのかと思って……」潤んだ瞳で見上げるその姿に、来希の胸にかすかな罪悪感が芽生える。彼は近づき、はなの頬を両手で包み、零れ落ちた涙を親指でそっと拭った。「そんなわけない。約束しただろう。君と子どものことは、必ず守る」その言葉に、はなはようやく笑顔を見せ、力強くうなずいた。「来希さんが世界で一番、私に優しい人だって信じてるから」「それで、何か用事があるのか、こんな時間に来て」「明日、お祖母様の誕生日パーティーなの。忘れてないよね?」「もちろん。プレゼントももう用意してある」小林大奥様・小林須恵(こばやし すえ)の誕生日会。招かれるのは、名のある人物ばかりだ。人脈を広げるには、絶好の機会でもある。はなが子どもの父親として出席してほしいと言ったとき、来希はほんの数秒迷った。迷った理由はただ一つ——萌花に知られたら、説明が面倒になる。だが考えてみれば、萌花が小林家に顔を出すことなどあり得ない。十年来の付き合いでも、彼女と小林家に接点はまったくなかった。多少の不安はあったが、萌花のスマホの登録名を見てから、妙な自信が
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第64話

あの頃の萌花は、どこか刺々しくて少しやんちゃな雰囲気さえ漂わせていた。あんなにサバサバして自由奔放な性格だったのに、こんなに簡単に顔を赤らめるなんて、想像もつかなかった。頬を染めたその姿は、まるで薄化粧をしたかのように愛らしい。とりわけその艶やかな唇は熟れたサクランボのようで、見るからに甘く、思わず噛みついてしまいたくなる衝動に駆られる。時雄は本当にその唇を奪った。とろけるような、濃厚な口づけ。理性の箍が外れてしまう前に、萌花は彼を押しやった。「今日、実家に帰るって言ってたでしょ?」時雄は再び彼女を腕の中に引き戻した。「焦るなよ。向こうにも心の準備ってもんが必要だろ」小林家の本邸にて。須恵は電話を切ると、傍らに控えていた家政婦の玉枝に命じた。「玉枝、家族全員を私の部屋に集めなさい」ほどなくして、長男一家、次男、長女が部屋に集められた。皆訝しげな表情を浮かべている。須恵がこれほど改まって全員を招集することなど、めったにないからだ。最初に姿を見せたのは、車椅子を押した長男の嫁、小林理香子(こばやし りかこ)だった。車椅子に乗っているのは、小林家の長男・小林弘武(こばやし ひろたけ)だ。弘武は生まれつき体が弱くて十歳の頃から車椅子生活を余儀なくされており、重い心臓病も患っている。その身体ゆえ、小林グループでの役職には就いていない。だが、彼は慈善事業に尽力し、心臓病支援の基金をいくつも設立しており、グループもその活動を全面的に支援している。「お義母様、急に呼び出したりしてどうなさいましたの?どこかお加減でも?主治医に連絡しましょうか?」口を開いたのは弘武ではなく、妻の理香子だった。理香子は長男の嫁として、そつのない振る舞いができる女性だ。数年前、須恵から家の切り盛りを任された。古い言い方をすれば、実質的な女将といったところか。家の万事は彼女が取り仕切っており、今日の須恵の古希の祝いも、すべて彼女が手配したものだ。須恵も彼女には最大限の信頼を寄せている。「理香子、私は大丈夫よ。まずは座りなさい。皆に知らせたいことがあるの」理香子は須恵の意図を図りかねたが、とりあえず言われた通りソファに腰を下ろした。続いて次男の小林時哉(こばやし ときや)が現れた。その姿はひどく薄汚れて
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第65話

全員が揃ったのを確認して、須恵は口を開いた。「今日、時雄がお嫁さんを連れて帰ってくるわ。みんな、私に合わせて一芝居打ってちょうだい」その一言は、その場にいる全員を驚愕させた。誰よりも大きな反応を示したのは理香子だ。「時雄さんが結婚?いつの間にですか?」須恵は大きく息を吐き出した。「したのよ、つい数日前にね」皆の顔に信じられないという色が浮かんだ。理香子は非常に困惑した様子だった。「そんな大事なこと、どうして家族に相談もなしに……それで、どこのお嬢さんですか?」「相手の家柄や素性は気にしなくていいわ。みんなに集まってもらったのは、その人が来たときに話を合わせてもらうためよ」「話を合わせるって、何を?」光代が冷ややかに尋ねた。「時雄とその人の結婚は、半分騙すような形で成立したものなの。あの子、私が重病で、死ぬ前に息子の花嫁姿を見たいって嘘をついたのよ。相手のお嬢さんが優しい子で、それで入籍に同意してくれたそうでね。だから、私は重病人のふりをしなきゃいけないの。みんなもボロを出さないように頼むわよ」理香子が口を挟む。「今日はお義母様の古希のお祝いでしょう?そんな演技させるなんて、縁起でもないわ」「縁起なんてどうでもいいの。時雄が結婚してくれるなら、芝居どころか、本当に三途の川を渡ったって構わないくらいよ」弘武が慌てて嗜めた。「母さん、滅多なことを言うもんじゃありませんよ。分かりました、俺たちも協力しますから」光代は腕を組み、不意に口を開いた。「その女性は、時雄の過去を知っていますか?彼の人となりを知っているのですか?適当な女を捕まえて結婚して子供を作るなんて、それこそ結婚詐欺じゃありませんか。百歩譲ってそれはいいとしても、母さんが重病だと偽ること自体、もう詐欺ですわ」部屋の中が瞬時に静まり返った。須恵の顔から喜びの色が消え失せた。その曇った表情を見て、他の者たちは戦々恐々とする。「あんたは、弟が幸せになるのがそんなに気に入らないのかい?あの子がやっとトラウマを乗り越えて、人並みの生活を送ろうとしているのに、姉として素直に喜べないのか」「私が嬉しいかどうかなんてどうでもいいです。どうせ私には関係ないことですし」「あんた……」須恵が怒り出すのを察知して、弘武が急いで仲裁に入る。「光代、それくら
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第66話

春の館の玄関に到着するや否や、中から栞の罵声が聞こえてきた。「はな、よくもぬけぬけと戻ってこれたわね。どこの馬の骨とも知れない男と子供まで連れて。お祖母様が見たら憤死するわよ」「栞、お父さんとお母さんをあなたに譲ったじゃない。この四年間、一度も実家には帰らなかったでしょ。今日はお祖母様の古希のお祝いというハレの日だから、そのついでにお父さんとお母さんを見に来ただけよ。そんなささやかな願いさえ許してくれないの?」「ふざけんなよ。もともとは私の実の親よ。あなたが十五年間も不当に独占してたくせに、よく譲ったなんて言えるわね」「何事なの、騒々しいわね」理香子が家の中に入ってきた。栞はすぐに駆け寄り、はなを指差して言った。「母さん聞いて。はなが外でどこの子かも分からない子供を産んでたの」栞は勝ち誇ったような顔をしている。理香子が歩み寄り、はなが抱いている未熟児のような小さな赤ん坊に目をやった。「子供を産んだの?」腐ってもはなは手塩にかけて育てた娘だから、情がないわけではない。栞が家に戻り、はなを養女として籍を入れ直してからは、感情のありようも変わってしまった。彼女が海外に行っていた数年も、ほとんど連絡を取っていなかったのが事実だ。まさか、子供を連れて帰ってくるとは思わなかった。理香子の顔色がさらに険しくなる。どうあろうと、世間から見れば彼女も小林家の令嬢だ。その言動は家の体面に関わる。結婚もせずに子供を作ったとなれば、家の恥だ。「はな、あなたをあんなに厳しく躾けたのは、未婚の母になって家の顔に泥を塗らせるためだったの?」もちろん理香子が腹を立てているのは、はなのために用意していた縁談がこれで破談になったからでもある。はなは慌てて弁明した。「お母さん、違います。そんなのじゃありません。ちゃんと結婚しましたよ。こちらは夫の幸田来希で、カラリスで入籍したんです」瞬間、理香子と弘武の視線が来希に注がれた。来希は長身で、縁なし眼鏡をかけ、いかにもインテリといった上品な雰囲気を纏っている。理香子は彼の服装がオートクチュールであることに気づいた。趣味も悪くない。彼女の表情が少し和らいだ。来希は以前、はなに協力すると約束していた。はなは、今の自分は小林家にとってほぼ透明人間のようなもので、今回はただ顔を出すだけだ
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第67話

もっとも、はなは理香子の態度に驚きつつも喜びを感じていた。理香子がこれほど温かみのある言葉をかけてくれたのは、もう何年ぶりのことだろう。しかし、傍らにいた栞は激怒した。「母さん、なんでこんな赤の他人に優しくするのよ。どこの馬の骨とも知れない男との間にできたガキじゃない。どうせまたウチから何か巻き上げるつもりでしょ?」理香子が口を開くよりも早く、弘武が娘を叱りつけた。「栞、言葉を慎みなさい。はなは血こそ繋がっていなくとも、小林家の娘であることに変わりはない。二度とそんな口をきくんじゃないぞ」両親が揃ってはなを庇うのを見て、栞は怒りに任せて部屋を飛び出していった。理香子はそれを追いもせず、逆にはなの子供を抱き上げた。「まあ、色白でぷくぷくして、本当に可愛いわね」しばらくの間、皆で子供をあやした。やがて弘武が言った。「来希君、書斎で少し話しましょうか。母と娘で、水入らずの時間も必要だろう」来希は礼儀正しく、そつのない態度で応じた。「お義父様のご指導をいただけるなんて光栄です」来希が部屋を出て行くと、理香子はそれとなく彼の家柄について探りを入れ始めた。はなは多くを語らず、ただ彼の実家は只者ではないと匂わせるに留めた。それにより、理香子は彼が謎多きの御曹司だと勝手に思い込んだようで、すっかり満足した様子だ。突然、彼女は言った。「後で来希さんと一緒に、この子をお義母様に見せに行きなさい。小林家にとって初めてのひ孫よ。きっと喜ばれるわ」はなは驚いた。この子がお祖母様に会わせてもらえる資格などないと思っていたからだ。すると、理香子がふと溜息をついた。はなはすぐに彼女の機嫌の変化を察知した。「お母さん、何か悩み事でも?」理香子の腹の底には、不満が渦巻いていた。長男の嫁なのに、実権を握る光代や時雄の顔色を窺いながら生きて行かなければならない。懸命に家を取り仕切り、忙しく立ち回っても、須恵からはただの便利な道具としか思われていないのだ。会社での利益も与えられず、長男一家の持ち株はわずか。配当金など、他の兄弟たちに比べれば雀の涙だ。はなを会社に入れて長男一家の勢力を拡大しようとしていたのに、十五年も育てた後で血の繋がりがないと分かった。かといって、実の娘である栞は甘やかされて育ったせいで、何の役にも立たない
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第68話

はなは未婚で子供を産んだことが家族にバレて顔に泥を塗るのを恐れ、来希に父親役を頼んだのだ。家の面汚しにさえならなければ、小林家は彼女を空気のように扱うだけだ。だが先ほどの様子を見る限り、その養父母は彼女をそれなりに大切にしているように見えた。はなは満面の笑みを浮かべた。「これも全部来希さんのおかげよ」「俺のおかげ?」「お父さんとお母さんはきっと、来希さんが只者じゃないって見抜いたのよ。私たちの将来が有望だって分かったから、態度も変わったのね」はなの瞳には、悲しみと感謝の色が入り混じっていた。「名家なんて、結局はそんなものよ。権力や利用価値があって初めて一目置かれる。親でさえも例外じゃないの。来希さん、今日顔を立てられたのはあなたのおかげだわ。ありがとう」その言葉は、来希の自尊心を大いに満たした。萌花はあれほど自分に惚れ込んでいたが、こうして能力を認めてくれたことは一度もなかった。それどころか、会社のことにまで口を出してくるのが常で、来希はそれにずっと苛立ちを感じていたのだ。はなの崇拝と称賛は、毎回彼の心に火を点け、何よりの活力となっていた。とはいえ、今はデリケートな時期だ。来希の胸にはどうしても漠然とした不安が残っていた。「だが、こうして顔を出して、俺たちの関係が知れ渡ったりしないか?」はなは答えた。「来希さん、何を心配してるかは分かってるわ。大丈夫、お祖母様はプライバシーを重視するから、誕生会にメディアを入れたことは一度もないの。萌花さんに知られることはないわ。招待客のことだって心配いらない。みんなが興味あるのはこの家の本当の舵取りをする者、つまり時雄叔父様だけよ。長男の養女である私なんて眼中にないわ。お父さんとお母さんのことも大丈夫。お父さんは慈善事業以外に興味がないし、お母さんはこの広い屋敷の中で、女主人の地位を守ることだけで頭がいっぱい。それに、栞のことで手一杯だから、私にまで構ってる余裕なんてないわ」それを聞いて、来希は少し安堵した。今日ここに来ていることを、萌花に知られるわけにはいかないのだ。彼は三日以内に、復縁をしようと考えていたのだから。やがて、二人は須恵のいる館に到着した。玉枝が出てきて言った。「奥様は今、時雄様とそのお嫁さんとお話し中でございます。お会いになるなら、しばら
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第69話

萌花は隣にいる時雄をちらりと見た。何かがおかしいと、うすうす感じ始めていた。向こうでは須恵が片手を伸ばし、切実な声で呼びかけている。「こっちへ……早く顔を見せておくれ……」萌花は仕方なく歩み寄ったが、その足取りの中で、周囲を慎重に観察している。モニターの血中酸素濃度は90パーセントを切っているのに、大奥様の顔色は血色が良くて艶々している。白衣の医師たちは忙しそうに見えるが、実際は忙しいふりをしているだけだ。使用人の女性は泣いているように見えるが、大奥様と目が合うたびに口元が緩んでいるのがバレバレだ。演技が下手すぎる。そうこうしているうちに、萌花はベッドの脇まで来た。須恵は玉枝に支えられて身を起こし、萌花の手をぐっと握りしめた。「来る日も来る日も待ち望んで、やっとこの日が来たわ。やっと来てくれたのね」「ゴホッ、ゴホッ……」と言い終わると咳き込んでいる。玉枝が慌てて洗面器を差し出した。すると、須恵は血を吐いた。さすがに時雄も見ていられなくなり、大股で近づいて声をかけた。「母さん、いくらなんでもやりすぎだろ」祝いの席だというのに、危篤だの吐血だの、救命措置の演技なんて縁起でもない。時雄の呆れ果てた軽蔑の眼差しを受けても、須恵はまだシラを切るつもりだ。「何を言っているのか分からないわ」時雄は玉枝の手からある物をひったくった。それはケチャップの小袋だ。「いい加減にしてくれよ」完全にバレたと悟り、須恵はようやく演技をやめた。「だって電話で弱ってるふりをしてくれって言ったじゃないか。それなのに自分からバラすなんて、私をコケにする気かい?」時雄は言葉を失った。母は普段、素手で熊でも倒せそうなくらい元気なのだ。だから彼は、少しはお淑やかにしていてくれと言っただけなのに。その様子を見て、萌花は眉をひそめた。しかし須恵はすでに彼女の手を握りしめている。「時雄が母さんは重病で、死ぬ前に結婚式を見たいと言っているなんて嘘をついたから、あなたは籍を入れてくれたんでしょ。本当に単純な……じゃなくて、優しい子ねえ」萌花は尋ねた。「お体は、大丈夫なんですか?」「時雄の言ったことも、あながち嘘じゃないわよ。体は元気だけど、心の病は治しにくいもの。でも二人が結婚してくれて、やっと肩の荷が下りたわ」萌花も、仮病だと
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第70話

「はな?こちらの男性は?」実のところ、時雄と来希は以前に一度会ったことがある。それは萌花の実家でのことだ。ビジネスの提携を結んだ仲だが、その時二人の間ではなの話題が出たことは一度もなかった。ここで時雄に出くわしてしまい、来希は得体の知れない動悸に襲われた。萌花の実家で顔を合わせたとはいえ、時雄が自分と萌花の関係を知らないことは確信していた。あの晩、彼は萌花と言葉を交わさなかったからだ。萌花の実家の人間は、外部の者に彼を婿として紹介することは決してなかったし、執事でさえ彼を他人行儀に来希様と呼ぶだけだった。だからあの日、時雄の目には、自分は単に挨拶に来ただけの若手実業家としか映っていなかったはずだ。そう頭では分かっていても、来希の心にはやましさがこびりついて離れなかった。自分と萌花の関係がバレているのではないかという恐れと、今日を境にいずれ知られてしまうのではないかという不安に襲われた。何しろ、彼は遠からず萌花と復縁するつもりなのだから。その時、はなが間髪入れずに答えた。「叔父様、こちらは私の子供の父親、幸田来希です」時雄の切れ長の目が、すっと細められた。「子供の父親?」時雄の視線が、はなの腕の中にいる赤ん坊に落ちる。「いつの間に子供なんて産んでいたんだ?」はなが何か説明しようとするが、時雄は瞬時に来希の方へ向き直った。「幸田さん、以前お会いした時は、はなの夫だなんて一言もおっしゃいませんでしたね?」来希は瞬時に、窮地に立たされた気分になった。はなもまた、不思議に思っている。まさか来希と時雄が知り合いだとは。来希は冷や汗を隠し、硬い表情で答えるしかなかった。「はなのコネを使って小林家に取り入ろうとしていると思われたくなかったので、以前は黙っていたんです」来希の手のひらは汗でじっとりと濡れていた。今はもう、なりふり構っていられない。しかし、今日が過ぎれば二人が顔を合わせる機会も減るだろうし、彼自身、萌花の実家に行くことは滅多にない。この前のように実家で鉢合わせるような偶然は、もう二度と起こらないはずだ。時雄は頷いて、来希の肩をポンと叩いた。「幸田さんのそういう潔いところ、嫌いじゃないですよ。これからは家族で、小林グループとしても、あなたたちを無下にはしません」そう言って、彼は
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