一方、その頃。萌花は屋敷を出て、静かな中庭へと足を運んだ。少し気持ちを落ち着かせたかったのだ。結局、時雄が言っていた「母さんが重病で、死ぬ前に息子の結婚式を見たい」という話は、すべて真っ赤な嘘だった。萌花は嘘をつかれることが何より嫌いだ。もっとも、時雄との入籍に同意したのは、萌花自身にも思惑があったからだ。それは、小林グループという後ろ盾を利用して、自分のやりたい事業を始めることだ。動機はどうあれ、お互いの利害が一致した上での結婚だ。それでも、なぜか胸のつかえが取れない。すぐに時雄が追いかけてきた。彼は相変わらず両手をズボンのポケットに突っ込んでいて、顔には狐のような狡賢い笑みを浮かべている。スーツを着こなしているくせに、シャツのボタンを二つも開けている。その姿は上品でありながら、どこか不良っぽい色気を漂わせている。「うちの母さん、昔は劇団の看板女優だったなんて言ってたけど、あの大根役者ぶりじゃねえ。一体どうやって舞台に立ってたんだか」萌花は黙って彼を睨みつけた。「そんなに睨むなよ、萌花。目玉が飛び出るぞ」「なぜ嘘をついたの?」「決まってるだろ。早く君と籍を入れたかったからさ。ぐずぐずしてたら、あの元旦那とよりを戻すんじゃないかって気が気じゃなかったんだ」あまりにあっけらかんと認めるので、萌花は呆れて言葉も出なかった。「だからって、そんな口実を使って、家族ぐるみで私を騙すなんて最低よ」怒りを露わにする萌花を見て、時雄は歩み寄り、いきなり彼女を抱きすくめた。「ごめん、僕が悪かった。ほら、殴っていいぞ。気が済むまで殴れ」そう言って、萌花の手を取り、自分の胸を叩かせようとする。萌花は遠慮なく、思い切り叩いた。時雄は胸を押さえるふりをした。「痛っ、本気で殴るなよ」「遠慮なんてするもんか。どうせ私たちは仮面夫婦なんだから」「殴っても罵ってもいいが、その言葉は聞き捨てならないな。仮面夫婦だなんて心外だ。僕たちは役所に届け出た、正真正銘の夫婦だぞ。夜だって同じベッドで寝てるじゃないか」萌花は彼の軽口に取り合わなかった。「一年経ったら離婚するわ。その時になって駄々をこねないでね」一年あれば、自分の事業で新たな天地を切り開けるはずだ。時雄は怒る様子もなく、へらへらしている。「はいはい。
Baca selengkapnya