娘の誕生日だった。彼女はわざと、みんなの前で言った。「ママはくたびれた顔のおばさんなんだから、ケーキは食べなくていいよ。これ、父さんがすごく高いのを買ったんだもん」胸の奥が、すとんと沈んだ。振り向くと、娘は一番大きなケーキを皿にのせ、家庭教師に差し出していた。「小山ママ、このケーキのイチゴ、すごく甘いの。早く食べて」夫は私の居心地の悪さなど気にも留めず、笑いながら娘と家庭教師の頬にクリームを少し塗った。「長生きして、元気でいられますように」三人が楽しそうに笑い合う姿は甘くて幸せそのものに見えた。その瞬間、私はすべてを諦めた。そして私の先生に電話をかけ、国の極秘プロジェクトに参加することを選んだ。この人たちのために夢を捨てるなんて、あまりにも割に合わなかった。……私の話を聞くと、先生は数秒黙り込み、やがて少し落ち着いた声で言った。「行かないって言ってたよね?子どもも、まだ小さいし。どうして急に気が変わったの?」荷造りをしていた手が止まり、私は一度唇を引き結んでから答えた。「大丈夫ですよ、先生。もうちゃんと考えました。七菜ちゃんには、私みたいな母親はいらないんです。家で専業主婦をしているより、国のために力を使いたいんです」電話を切ったあと、私はベランダのソファに座り、することもなく外の景色を眺め続けていた。頭の中では、今夜レストランで起きた出来事が自然と何度も蘇っていた。今日は娘・内川七菜(うちかわ なな)の誕生日だった。お祝いのため、私は都内の高級レストランで個室を予約していた。朝早くから休みを取り、定時よりも早く帰宅し、手作りでイチゴのケーキを焼いた。最初は終始、和やかな雰囲気だった。けれど、ケーキを切り分ける段になって、七菜はわざと私を何度か見てから口を開いた。「ママはくたびれた顔のおばさんなんだから、ケーキは食べなくていいよ。これ、父さんがすごく高いのを買ったんだもん」胸の奥が、すとんと沈んだ。振り向くと、娘は一番大きなケーキを皿にのせ、家庭教師の小山愛海(こやま まなみ)に差し出していた。「小山ママ、このケーキのイチゴ、すごく甘いの。早く食べて」その言葉が落ちた瞬間、場の空気が一瞬止まり、友人や親戚たちは黙って私たちに視線を向けた。やがて小さなざわめきが
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