ディリアン公爵様、奥様が離婚を望んでいます! のすべてのチャプター: チャプター 371 - チャプター 380

545 チャプター

第371話

部屋は、死に絶えたように静まり返っていた。ラミアは再びセレーネの遺体を見つめた。今度は、先ほどよりもさらに長く。その瞳の奥に浮かんでいたのは哀れみなどではない。極めて深く、冷徹な計算と見極めの光だった。ラミアはその息詰まるような静寂を破った。極めて低く、慎重に言葉を選ぶような声音で。まるで一言でも間違えれば、取り返しのつかない破滅を引き起こしかねないかのように。「ディリアン・レヴェンティス」ラミアはゆっくりと口を開いた。「あなたは実際のところ、あの古代の魔女からどんな呪いを受けたの?」ディリアンはすぐには答えなかった。彼はセレーネの棺の傍らに立ち、ひび割れた木枠に片手を置き、胸の内で爆発しそうな何かを必死に堪えるかのように指先を強張らせていた。彼の目は妻の亡骸を見つめていたが、それは単なる死を見つめる者の目ではない。永遠に修復不可能な、絶対的な過ちを凝視する者の目だった。そして、これから口にする残酷な真実にはあまりにも不釣り合いなほど静かな声で、ディリアンはようやく告げた。「俺の子を宿した女は誰であろうと……必ず非業の死を遂げる」その言葉は静かに落ちたが、それがもたらした衝撃は天地が崩れ落ちるかのように凄まじかった。ラミアとセレーネは同時に息を呑んだ。ラミアは息を詰まらせ、驚愕に目を見開いた。その動揺を隠すことすらできなかった。彼女はカラカラになった喉を鳴らして、重い生唾を飲み込む。「なんてこと……」ラミアは掠れた声で呟いた。ディリアンが彼女を振り返った。「知っていたのではないのか?」冷徹な問い。「お前たち魔女は、いつだって真実の半分しか知らないのだろうが」「知っていたよ」ラミアは偽りなく答えたが、その声は弱々しかった。「血の繋がりについて……愛が引き金になることについてはね。だが、そこまでだとは思わなかった。まさか、そんな――」ディリアンが鋭く遮った。「俺が死ねば、あの魔女も死ぬ。そしてあの魔女が死ねば……」彼は言葉を切り、顎を固く引き締めた。「俺の妻が、死ぬ」セレーネは完全に釘付けになった。もし今の彼女の魂が震えることができるなら、まさにこの瞬間、完全に砕け散っていただろう。彼女は虚ろな目でディリアンを見つめた。その言葉が、彼女のこれまでの人生を、彼女
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第372話

ディリアンはゆっくりと頷いた。「これだけだ」彼は答えた。「死体も、他の血痕も、争った形跡すらもなかった。牢獄には何一つ残されていなかった。まるで奴が跡形もなく消え失せたかのように」ラミアは一瞬目を閉じ、深く息を吸い込んでから再び目を開けた。「それは不味いね」彼女は隠すことなく断言した。「何が不味いというんだ」ディリアンは冷徹に問いただした。ラミアはディリアンを長く見つめ、ようやく口を開いた。その瞳から冷淡さは消え失せ、代わりに極度の警戒が宿っていた。まるで、決して目覚めさせてはならない何かの前に立たされているかのように。「ディリアン」ラミアは低い声で言った。「モルウェンナは、死んではいないよ」その言葉は、重く脅迫的な響きを伴って宙に吊るされた。「何だと?」ディリアンはハッとした。「お前……奴の名前を知っているのか?」ラミアは長く、ひどく疲れたようなため息を吐いた。「当然よ。なぜなら、モルウェンナというのは個人の名前じゃないからね」ディリアンは息を呑んで絶句した。「あれは称号」ラミアは続けた。「古代の魔女たちを統べる長に与えられる、絶対的な尊称。世代を超えて受け継がれる王冠のようなもの。一人のモルウェンナが倒れれば、必ず次の者が立ち上がり、その名を冠することになる」ディリアンの顔色が変わった。これまで彼を支えてきたあらゆる確信――たった一人の魔女、たった一人の宿敵、呪いの唯一の源という前提が、この瞬間に音を立てて崩れ去った。セレーネもまた、衝撃に凍りついた。彼女はずっと、モルウェンナとは一人の女の名前だと思い込んでいたのだ。憎み、責め、抗うことのできる一個の存在だと。しかし真実は……モルウェンナとは個人ではなく、継承される役割だったのだ。「つまり……」ディリアンの声はひどく低く、微かだった。「だからお前は、モルウェンナが死んでいないと断言できるのか?」ラミアは静かに首を横に振った。「それだけが理由じゃないよ」彼女は視線を動かし、ディリアンの手にある小さなガラス箱を――自然の理に反して生き続ける、あの足の指を見つめた。ラミアは告げた。「モルウェンナほどの強大な魔女なら、時間を巻き戻す術を知っているはずだからね」ディリアンは完全に硬直した
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第373話

セレーネは背筋に冷たいものが這い上がるのを感じた。ラミアの言葉が、彼女の存在そのものを根底から揺さぶっているかのようだった。ラミアは続けた。「死神から奪い返したものは、決して元の完全な状態では戻ってこない」ディリアンは喉を鳴らした。「代償が伴う」ラミアは言葉を重ねた。「そしてその代償は、あなたが死から奪い返そうとする『愛』の重さに等しい」彼女はようやく振り返り、ディリアンの目を真っ直ぐに見据えた。「あなたは、自分の命よりも大切なものを失うことになるかもしれない」だがディリアンは退かなかった。「何でも持っていけ」彼は毅然と言い放った。「爵位も、権力も、俺のいわゆる高貴な血筋も――」「そんなものじゃないわ」ラミアが遮った。沈黙が落ちた。ラミアは一歩近づいた。その声はさらに低くなり、危険な響きを帯びた。「求められるのは、あなたが容易く手放せるようなものじゃない」彼女は言った。「あなたの魂に永遠に刻み込まれているもの」ディリアンは眉をひそめた。「何だと?」彼は問うた。ラミアはセレーネの遺体をもう一度見つめ、囁いた。「記憶、真実。そしておそらくは……あの子自身の自我」セレーネは息を呑み、ディリアンは石のように固まった。ラミアは続けた。「この儀式を執り行えば、あなたはもう、今のようにはセレーネを記憶していないかもしれない。なぜ愛しているのかも分からないまま、ただ彼女を愛し続けることになるかもしれない。あるいはさらに最悪なことに……」彼女は言葉を切り、その言葉の重みが男を打ち据えるのを待った。「あなたは彼女と共に生きることになる」ラミアは静かに告げた。「自分がかつて彼女を完全に壊してしまったという事実を、永遠に知らないままね」ディリアンは目を閉じた。ほんの一瞬、セレーネは彼の中に躊躇を見た。鋼の決意に走った、微かな亀裂を。だが、再び目を開いた時、ディリアンの眼差しはすでに決意を取り戻し、恐怖は完全に消え去っていた。彼は低く言った。「もしそれが俺の支払うべき代償だと言うなら、払ってやる」彼は棺の傍らへと歩み寄り、冷たい木枠に掌を触れた。「セレーネが孤独に死ぬことなど、あってはならない」彼は続けた。「俺が俺自身を失って生きねばなら
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第374話

正直なところ、セレーネはここに留まりたくなどなかった。ディリアンをゆっくりと呑み込んでいく狂気も、冷徹で計算高いラミアの眼差しも、これ以上見てはいられなかった。彼らが交わす言葉の一つ一つが、錆びた釘のように彼女の魂の奥へ打ち込まれていった。どこかへ行ってしまいたかった。目を閉じ、完全に消え去りたかった。だが、それは叶わなかった。彼女の意志よりも遥かに強い力が、彼女をここに繋ぎ止めていた。セレーネは絶望的な事実に気づいていた――自分が、ディリアンに縛り付けられているのだと。彼がどこへ行こうと、彼女は引き摺られていく。彼が何時間も微動だにせず棺を見つめ続ける時、彼女もその傍らに立たされる。彼が重い足取りで城の回廊を歩く時、彼女もまたその後を追う。姿を消すことはできない。決して解放されることはない。それが、彼女を底知れぬ恐怖に陥れた。この混乱の中で、セレーネは疑念を抱き始めた。ラミアは外で一体何をしたのか?なぜ自分はこの姿のままここに囚われ、なお全てを見聞きし、感じ取ることができるのか?日付を数える意味すら失われた日々が過ぎ去った。セレーネの目から見て、ディリアンはほとんど睡眠をとっていなかった。目は落ち窪み、顔つきはさらに険しさを増し、その肉体はただ一つの目的のみによって無理やり動かされているようだった。毎朝、そして毎晩、ディリアンは必ずあの塔へと登った。あの塔だ。三日月の夜、セレーネが身を投げたあの場所。その塔の頂で、ラミアは準備を進めていた。冷たい石の床には、幾重にも魔法陣が刻み直されていた。古代のルーンの輪郭が、血と骨灰によって埋め尽くされていた。黒い蝋燭が低い祭壇を囲むように立ち並び、三日月が昇る方角へ向けて整然と配置されていた。魔法薬が煮えたぎり、金属の錆びた匂いと湿った土の悪臭を放っている。赤い糸で吊るされた細かな獣骨が、夜風に揺れて微かな音を立てていた。セレーネはそこに立ち尽くし、何も触れることも止めることもできないまま、その全ての狂気を見届けていた。ディリアンは常にそこにいた。彼は塔の端に立ち、一言も発することなくラミアの動作を監視していた。その眼差しは鋭く、圧倒的な重圧を放っている。もし一歩でも間違えれば、即座にラミアの首を撥ね飛ばすぞと脅しをかけているかのように。だが、セレーネには別のものが
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第375話

その夜、レヴェンティス城は完全な静寂に包み込まれていた。長い回廊には使用人の足音一つなく、扉の開閉音も、人々の微かな囁き声も、生命の息吹すら一切感じられなかった。普段なら石窓の隙間から吹き込むはずの夜風でさえ、今夜ばかりはこの場所に近づくことを拒むかのように鳴りを潜め、まるで城そのものが息を殺して怯えているかのようだった。セレーネは未だ、ディリアンの傍らに縛り付けられたままだった。これが運命の呪いなのか、過酷な罰なのか、それとも死すら断ち切ることのできなかった愛の残滓なのか、彼女には分からなかった。ただ一つ確かなのは、胸を圧迫する恐怖がどれほど膨れ上がろうとも、この男の傍から逃れることは絶対に叶わないという事実だけだった。中庭では、ジェイ、エリック、エドワード、ピーターの四人が、セレーネの遺体が納められた重い棺を担ぎ上げていた。分厚い無垢の木材で造られた棺の表面には、防御のルーンが乱雑に、急いで刻み込まれていた。それは信仰によるものではなく、未知なるものへの恐怖に駆られ、急ごしらえで彫られたものだった。ウルフが先頭を歩いていた。彼はラミアが古代の神殿から取り寄せた聖水を、棺が通る石畳や階段に惜しげもなく振り撒いていた。聖水は青白い月光を反射して不気味に光り、血錆と香が混ざり合ったような異様な匂いを後に残した。セレーネは、自分の葬列を眺めているような奇妙な感覚に囚われていた。だがその目的は、死そのものよりも遥かに深く、昏いものだった。彼らはついに、最も高い塔の頂へと辿り着いた。そこは松明の火ではなく、最盛の刻を迎え、夜空高く懸かる三日月の光によって、白日のように照らし出されていた。月光は石の床の中央へと真っ直ぐに降り注ぎ、まるで月自身が今夜の禁忌の立会人となることを望んでいるかのようだった。ディリアンは声もなく立ち尽くした。彼の目の前に、ラミアが昼間から準備していたものの全貌があった。冷たい石の床には五つの巨大な円陣が刻まれ、それぞれが細い溝で繋がれていた。その溝の中には、血と骨灰と魔法薬を混ぜ合わせた黒ずんだ液体が満たされている。全体として砕け散った星のような形を成していたが、その中心には、互いの交わりを意図的に遮断するかのように、閉じ切っていない二つの不完全な円陣が配置されていた。五つの円陣の左右
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第376話

セレーネはハッと息を呑んで跳ね起きた。荒い息を吐き、胸を激しく上下させている。まるで底なしの暗闇の淵から、力ずくでこの世界へと引き摺り戻されたかのように。視界が一瞬激しく回転し、やがて焦点が合った時、彼女が最初に目にしたのはラミアの顔だった。魔女は、先ほどと同じ場所に立ち尽くしていた。顔面は蒼白で、こめかみには玉の汗が浮かんでいる。その唇は絶え間なく動き、大気を震わせる古代の呪文を紡ぎ続けていた。だが、意識を失って倒れ伏す人々の中で、彼女の視線だけは真っ直ぐにセレーネを射抜いていた。全てを知悉し、セレーネが目を開くこの瞬間を待っていたとでも言うように。ドクン。セレーネは震えながら周囲を見渡した。魔法陣は未だ微かな光を放って脈打っている。月光が静かに降り注ぎ、空気を圧迫するほどに重く、深く、途切れることのない鈴の音と完全に同調していた。まるで、時間そのものが強引に前に押し進められているかのように。そして……ディリアンの姿が目に入った。彼は冷たい石の床の上で、静かな寝息を立てていた。その顔はひどく穏やかで、セレーネが先ほどの絶望の淵で目撃した狂気や崩壊の欠片など、微塵も残されていなかった。髪はわずかに乱れ、片手はセレーネのすぐ手の届く場所に投げ出されている。その瞬間、セレーネの心は決壊し、涙がとめどなく溢れ出した。押さえようのない大粒の涙が次々と頬を伝い、両肩が激しく震える。嗚咽が漏れるのを防ぐために両手で口元を強く覆ったが、胸は張り裂けんばかりに痛み、苦しかった。二つの人生で積み重なった全ての悲劇、誤解、そして絶望が、一気に彼女を呑み込んだのだ。彼女は、ディリアンの手を掴んだ。強く、痛いほどに握り締める。手を離してしまえば、目の前の全てが悪夢のように消え去ってしまうのではないかと恐れながら。温かい。紛れもなく現実だ。その指先からは、確かな脈動が伝わってきた。今すぐにでも彼に抱きつきたかった。その広い胸に顔を埋めて、涙が枯れ果てるまで泣き叫びたかった。全部聞いていたと、全部知っていると。私もあなたを愛していると、そう伝えたかった。しかし、手が激しく震えながらも、彼女はその衝動を必死に抑え込んだ。怖かったのだ。たった一度の接触で呪文が破綻してしまうかもしれない。一度の抱擁が、血と犠牲によって辛うじ
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第377話

魔女の一人がラミアの姿勢を慎重に整え、彼女が安全に寄りかかれるようにし、その呼吸が安定しているかを確認した。「生きています。回復するための時間が必要なだけです」セレーネは深く息を吐き出した。まだ目には涙が浮かんでいたが、強張っていた両肩の力が微かに抜けた。ディリアンはラミアを普段よりも長く見つめていた。その表情は、警戒と安堵、そして借りを負ったような複雑な感情が入り混じり、読み取ることができなかった。静寂を取り戻したこの森で、血が乾き、魔法の光が完全に消え去った後に残されたのは、底知れぬ疲労と……時間によって強引に巻き戻された、一つの「命」だけだった。セレーネとディリアンは今、冷たい石の床に並んで跪き、ラミアを囲む五人の魔女たちと共にいた。魔法陣はすでに光を失い、そのシンボルはくすんだ傷跡のように色褪せていたが、辺りの空気はまだ重く、完全に消え去っていない強大な魔力の残滓で満ちていた。円陣の中央で、ラミアは魔女に支えられ、ぐったりともたれかかっていた。呼吸は規則的だが、ひどく浅い。顔は死人のように青白く、こめかみには冷汗が浮かび、まるで肉体の最後の一滴まで生命力を絞り尽くされたかのようだった。少し離れた場所から、ビョルン、シグ、エリックの三人がその様子を静かに見守っていた。彼らの目にも、儀式が終わったことは明らかだった。もう眩い光も、重々しい鈴の音もない。しかし同時に、ラミアが支払った代償がどれほど凄まじいものであったかも明白だった。セレーネが沈黙を破った。「彼女……本当に、疲れ切ってしまったのね?」ラミアを囲む魔女たちに向かって、彼女は静かに問いかけた。魔女の一人がゆっくりと頷いた。「当然です。この儀式は決して短いものではありませんでしたから」「どれくらい……続いたの?」セレーネはまだ微かに震える声で尋ねた。「三日間です」魔女は答えた。セレーネとディリアンは同時に息を呑んだ。「三日?!」二人の声が重なり、その驚愕は隠しきれなかった。「ええ」別の魔女が落ち着いた声で答えた。「丸三日間、一度の休息もなしに、一睡もせずに行われました」その事実を聞き、セレーネは胸が詰まる思いだった。彼女はラミアを見つめ、そして魔女たちへと視線を向けた。「あなたたちも……とても疲れて
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第378話

翌日、ラミアはようやく意識を取り戻した。気絶から回復したというよりも、極めて生々しい悪夢の底から力ずくで引き摺り上げられたような目覚めだった。彼女は鋭く息を吸い込み、胸を激しく上下させ、最初の数秒間はただ虚ろな目で天井を睨みつけていた。現実と夢の境界線をまだ掴みきれていないかのように。だが、驚くべきはラミアだけではなかった。オデット、デイジー、モナ、ディヴリオ、そしてダグニーも……次々と目を開いたのだ。パニックもなく、悲鳴を上げることもなく。彼らはただ、少し長く寝すぎた者のように目を擦り、欠伸をして、困惑した様子で体を起こした。あの恐るべき夜から、すでに一週間以上が経過しているというのに。セレーネは扉の敷居に立ち尽くし、心臓を早鐘のように打たせていた。膝から崩れ落ちそうになるほどの強烈な安堵感が、彼女を打ち据えた。ディリアンは彼女の傍らに立ち、彼自身も無意識のうちに、彼女の指先をそっと、だが力強く握り締めていた。今、彼らは小屋の外に座っていた。朝の空気は冷たく、葉の先にはまだ朝露が光っていた。太陽は完全には昇りきっておらず、青白く躊躇うような光が地上を照らしている。まるで世界そのものが、今日という一日を始めるべきかどうか迷っているかのように。ラミアはセレーネ、ディリアンと共に石のベンチに腰を下ろしていた。顔は青白く、唇は乾ききっていたが、その瞳だけは異様なほど澄み切っており、深く、残酷なほどに覚醒していた。他の魔女たちは向かいのベンチに座り、それ以外の者たちは小屋の中に留まっていた。これから交わされる会話が、全員に聞かせるべきものではないと察してのことだろう。ラミアは両手で器を握り締めていた。その指先は微かに震えている。「気を失うはずではなかったわ」ラミアはようやく口を開いた。低く、掠れた声だった。「あんなこと……今まで一度もなかったのに」魔女の一人が身を乗り出した。「眠りの最中に、何か異変でもあったのですか?」ラミアは長く沈黙してから答えた。器の中の揺れる水面を見つめるその視線は、周囲の世界よりも、水面の影の方が真実を映し出しているとでも言いたげだった。ラミアはゆっくりと告げた。「なぜだか分からないけれど、私の中に、本当の自分が戻ってきたのよ」その一言が、静かな水面に落とされた石の
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第379話

セレーネは鋭く顔を向けた。「どういう意味よ?」彼女は問い詰めた。その呼吸はまだ荒かった。「あなた、本気で言っているわけじゃ――」「大真面目よ」ラミアは静かに、だが毅然と遮った。「この呪いは、他人の直接的な手助けで解けるような代物ではないのよ。重荷を分かち合おうとするいかなる試みも、契約の核心に近づきすぎるいかなる言葉も、彼に極めて残酷な罰を下すわ」彼女は視線をディリアンへと移した。「あなたたちが、たった今その目で見た通りにね」ディリアンは僅かに俯き、顎を固く引き締めた。唇を汚していた血はすでに拭い去られていたが、その顔には名状しがたい苦痛の残滓が、未だにはっきりと刻み込まれていた。「それじゃあ……」セレーネの声は力なく掠れた。「彼は……たった一人でやり遂げなければならないっていうの?」ラミアはゆっくりと頷いた。「選択において、彼は完全に孤独でなければならないわ」彼女は告げた。「でも、その勇気において孤独だというわけじゃない」彼女はセレーネを少し長く見つめ、その声音を僅かに和らげた。「あなたは彼を導くことはできないわ。彼に説明を求めることもできない。そして、その時が来ても……あなたは彼を止めることすら許されないのよ」セレーネはゆっくりと首を横に振り、再びその瞳に涙を溢れさせた。「そんなの、残酷すぎるわ……」「ええ」ラミアは容赦なく同意した。「呪いというものは、いつだってそういうものよ」ディリアンがようやく顔を上げた。彼はセレーネを見つめた。ほんの一瞬、その名に付き纏っていたあらゆる冷酷さと暴虐の影が、完全に鳴りを潜めた。そこにあるのは、ただ死を恐れるのではなく、自分に残された唯一の宝物を守り抜けないことを恐れる、一人の男の顔だった。「セレーネ」彼は静かに呼んだ。まるでその一音一音が、引き裂かれた傷口であるかのように。「俺は……お前をこれ以上、深く巻き込みたくない」セレーネは彼を鋭く睨みつけ、堪えきれない涙を零した。「そんなこと言わないで!」彼女は泣きじゃくりながら叫んだ。「一緒に乗り越えられるはずよ。私、あなたが一人で死地へ向かうのをただ黙って見ているなんて、絶対に嫌よ!」ラミアは深く息を吸い込んだ。「彼は嘘をついていないわ」彼女は真
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第380話

ディリアンは微笑んだ。それは絶対的な権力者の笑みでも、世界中から恐れられる軍司令官の笑みでもなかった。罪悪感に苛まれることなく、ようやく呼吸を続ける理由を見つけ出した、ただの一人の男の微笑みだった。彼はセレーネを引き寄せ、力強く抱きしめた。たとえ今この瞬間に世界が崩壊しようとも、絶対にこの腕を離すものかと言わんばかりに。セレーネも強く抱きしめ返した。彼女の腕がディリアンの広い背中に回り、その顔は彼の胸元に深く埋められた。耳に響く心臓の鼓動は、あまりにもリアルで、力強く生気に満ちていた。焦りも、痛みに歪む乱れもない。長い長い時間の中で、セレーネは初めて心からの安堵を覚えた――それは世界が安全になったからではない。彼らが共に立ち向かえると確信できたからだ。ラミアは深く、安堵の息を吐き出した。他の魔女たちも視線を交わし合い、ある者は薄く微笑み、ある者は深い敬意を込めて頭を垂れた。彼女たちは、極めて稀有な光景を目の当たりにしていた。自分たちですら全貌を掴みきれていない恐るべき宿命に対し、互いを支え合いながら立ち向かおうとする二人の人間。退路もない。保証もない。ただ、絶対的な信頼だけがそこにあった。ディリアンはようやく腕を解いたが、その手はセレーネの肩に置かれたままで、ほんの僅かな距離さえも引き離すのを躊躇っているかのようだった。彼は彼女を見つめた。その瞳は静かで、揺るぎなかった。「行くぞ」彼は低く、だが確固たる声で言った。「帝都へ戻る」セレーネは一瞬、ハッとした。戻るという言葉が、ひどく重く響いた。そこには無数の責任、危険、秘密、そして全てを根本から覆してしまうような決断が隠されているように思えたからだ。だが、セレーネは逃げなかった。ディリアンを見つめ返し、ゆっくりと頷いた。「ええ」彼女は答えた。その返事一つで十分だった。これから先にどんな地獄が待ち受けていようとも、決して彼を一人きりにはしないという、何よりの証明だった。彼らが実際に歩み出す直前、ディリアンはもう一度セレーネを見つめた。彼の声は珍しく柔らかく、微かな躊躇いすら滲ませていた。「セレーネ」彼は声を潜めて尋ねた。「お前は……あの儀式の中で視たものを、俺に話すつもりはないのか?お前自身が言っていたな……お前が視たものは、ラミアも
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