Todos os capítulos de ディリアン公爵様、奥様が離婚を望んでいます!: Capítulo 351 - Capítulo 360

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第351話

安堵と恐怖が激しく綯い交ぜとなり、セレーネの膝は崩れ落ちそうになった。「ラミア……」セレーネの声は微かに震えていた。「この子たちを……助けて……」しかし、ラミアは即座に慰めの言葉をかけることはしなかった。ラミアは冷然とした面持ちで一歩前へと進み出た。ラミアの背後では、長衣を纏った魔女たちが円陣を組み、その掌に淡い魔力の光を宿らせていた。ラミアはディリアンの顔を、底知れぬ深さで見据えた。「問題はそこではないわ」ラミアは冷ややかに告げた。「あなたにこれを止めるための代償を支払う覚悟があるのか……それとも、この炎に獲物を選ばせ続ける気なのか、ということよ」周囲に凝固していた炎が、再び不穏な爆ぜる音を立て始めた。死の包囲網は……未だ完全に停止してはいなかった。ディリアンが一歩前へ踏み出した。大気の中で静止していた炎が、未だ任務の続行を渇望するかのように微かに脈打っている。「ラミア」ディリアンは低く、だが鋭い声で言った。「魔女であるお前たちは、俺から何も奪わないと以前言っていたはずだ」ラミアは彼を長く見つめた。その眼差しは敵に対するものでも、味方に向けられたものでもない。あまりにも多くの破滅を見届けすぎた者特有の冷徹な光だった。「ええ、その通りよ」ラミアはようやく答えた。声は静かで、どこまでも平坦だった。「私たちはあなたから何も奪わないわ」セレーネは胸を撫で下ろしかけたが、ラミアの宣告はまだ終わっていなかった。ラミアは言葉を継いだ。その瞳に冷ややかな光が宿る。「けれど、この炎も、この死の円環も、私たちのものじゃないわ。いかなる魔女の創造物でもないのよ」冷たい風が吹き抜けた。凍りついていた炎が微かに軋み、ガラスのように脆い亀裂を走らせる。「これは古の意志よ」ラミアは告げた。「調和と均衡を要求する力だわ。そしてあらゆる均衡には……必ず相応の代償が伴うものよ」セレーネの心臓が激しく跳ね上がった。セレーネは駆け寄り、ディリアンの傍らに並び立った。セレーネの手は激しく震えていたが、これから起きるいかなる厄災からも引き離されまいと、夫の逞しい腕を必死に掴み締めていた。ディリアンは微塵の躊躇もなく告げた。「なら言え。その代償とやらを」この絶望的な状況において、ディリアンの
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第352話

ラミアは、黒焦げになった森、ひび割れた大地、そして熱気を孕んで唸る風を見渡した。「火、水、地、風――自然の四大元素は、時に最も残酷な凶器となり得るわ」ラミアは言葉を継いだ。「そしてあなたたちの場合……そのすべてがすでに動き始めているのよ」ディリアンは深く息を吐き出した。ディリアンはラミアを真っ向から見据えて告げた。「これが終わったら、約束通り、この呪いを解く手立てを探し出すために全力を尽くせ。中途半端な真似は許さんぞ」ラミアは見つめ返した。一瞬、器の中で封じられた炎が激しく脈打つ。「勿論よ」ラミアはようやく応じた。「初めからそれが、私たちの目的なのだから」ラミアは器の蓋を固く閉ざした。「けれど……」ラミアは低く言い添えた。「まずは……あなたたちを殺そうと蠢く全ての脅威を、排除するのが先決よ」焼け焦げた森を冷たい風が吹き抜けた。遥か彼方から、長く低く、激しい憤怒を孕んだ狼の遠吠えが木霊した。セレーネは背筋を凍りつかせた。ディリアンはその咆哮が響いた方角を睨み据え、顎を強張らせた。「いいだろう」ディリアンは静かに言った。「あの畜生、まだ息があるということだな」そして今夜初めて、ディリアンの目から一切の迷いが消え失せた。「俺が、全てを終わらせてやる」セレーネは蒼白な顔でディリアンを見つめた。「ディリアン……」セレーネの声が震える。「あなたは死なないわよね?」しばしの沈黙が場を包み込んだ。ラミアが先に口を開いた。その声は淡々としていたが、告げた内容は残酷なまでに容赦がなかった。「これまでのところ、ディリアンは決して死なないわ」セレーネは安堵の息を吐きかけた――だがその安堵は、たった一秒しか続かなかった。「けれど……」ラミアはセレーネと二人の幼子を真っ直ぐに見据えて続けた。「標的にされているのは……あなたたちよ」セレーネの全身から血の気が引いた。「何……ですって?」唇が小刻みに震える。ディリアンは低く毒づき、奥歯をギリリと噛み鳴らした。「クソが……」ラミアは隠すことなく正直に告げた。「単刀直入に言うわ。あらゆる予兆がただ一つの真実を示している――モルウェンナはあなたが自ら奴の巣へ赴くことを望んでいるのよ、ディリアン
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第353話

その問いは、容赦なくセレーネを打ちのめした。セレーネは息を呑み、言葉を詰まらせた。だが、その記憶はあまりにも鮮明で、逃れることなど到底できなかった。セレーネは一瞬だけ目を閉じ、再び開いた。「私は……三度目の流産の後、目を覚ましたあの朝に戻ったのよ」セレーネは掠れた声で答えた。ラミアは、あらかじめ察していたかのように小さく頷いた。ラミアは言葉を継いだ。「なら、前の人生で……あなたがいつ命を落としたのか、覚えているかしら?」セレーネの顔から血の気が引いた。セレーネは覚えていた。あの冷たい夜を。石畳の凍てつく冷気を。全身の骨が砕け散ったあの瞬間と、尖塔の上から見下ろしていたディリアンの絶望の眼差しを。喉の奥が焼けつくように痛む。「全てが壊れて……あの後よ」セレーネは囁いた。「何もかもを知ってしまった後に、私は死んだの」ラミアは深いため息を吐いた。「それこそが、モルウェンナの真の狙いよ。ディリアンの命だけでなく、子供たちだけでもない。時間そのもの――あなたが死に、運命が固定されるはずだった『その瞬間』を狙っているのよ」セレーネは震えた。「どういう……こと?」「あなたは本来、その刻限を越えて生きていてはならない存在なのよ」ラミアは容赦なく真実を告げた。「そしてあなたが生き延びてしまったがゆえに、世界の均衡が、失われた『死』を取り戻そうと暴走しているのよ」セレーネは自らの体を抱き締めた。その瞬間、セレーネはようやく全ての仕組みを理解した。これは単なる呪いではない。世界そのものが、最も残酷な手段で己を修復しようと足掻いているのだ。そしてその混沌の中で、セレーネが祈ることはただ一つだけだった。運命が真の代償を徴収し尽くす前に、ディリアンが無事に戻ってきてくれること。ラミアはセレーネをさらに真剣に見つめ、覚悟を確かめるように口を開いた。「正確に思い出してみて。あの時……あなたは具体的に、いつ死んだの?」セレーネは唾を飲み込んだ。胸を締め付ける苦痛に耐えながら、封印したはずの過去へ思考を潜らせる。「五度目の流産の後よ……それが、私の命の終わりだった」「三度目の流産から、どれくらいの歳月が経っていたのかしら?」ラミアの静かな問い。セレーネは目を閉じ、震える息で数えた。「3年
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第354話

その答えは、二人の間に重くのしかかった。ラミアはあらかじめ悟っていたかのように小さく頷いた。「いつかしら?」セレーネは目に涙を浮かべ、口元に苦い笑みを刻んだ。「ディリアンを憎もうとした時よ」セレーネは消え入りそうな声で告白した。「彼がいない方が、私の人生はどれほど楽だろうと自分に言い聞かせようとした時よ」セレーネは痛む胸元を強く押さえた。「けれどそんな時ですら……胸に湧き上がったのは憎しみなんかじゃなかった。ただただ疲れ果てて……痛くてたまらなかったのよ」遠方で再び咆哮が轟き、その直後に走った強烈な閃光がセレーネの顔を真っ白に照らし出した。大粒の涙が、遂に零れ落ちる。セレーネは掠れた声で泣き叫んだ。「もし本当に愛していなかったら、私、今こんな場所に立ってなんかいられないわ。こんな風に怯えたりなんてしない!」ラミアは底知れぬ眼差しでセレーネを見つめた。ラミアは静かに言った。「愛はね、死の円環において最も強固な盾であり、同時に最大の急所でもあるのよ」セレーネは顔を上げた。「それは……私がディリアンを失うという意味なの?」ラミアは即答しなかった。ラミアは、最後の咆哮が響き渡った暗黒の森へと首を巡らせた。炎と過酷な宿命が、今まさに激突しているあの場所へと。「必ずしもそうとは限らないわ」ラミアはようやく答えた。「けれどそれは、死を運ぶ炎が、どこを狙えば最も深くあなたたちを傷つけられるかを熟知しているという意味よ」ドォォォンッ!!大気を引き裂く凄まじい地鳴りが轟いた。先ほどまでとは比較にならぬ破壊の衝撃。大地が波打ち、もはや狼とは思えぬ異形の断末魔が木霊して、全身の毛を逆立たせる。セレーネは息を呑んだ。遥か彼方で、天を突くほど禍々しい紅蓮の光柱が立ち昇った――何かが覚醒したのか、あるいは何かが討ち滅ぼされたのか。「双子を産んだ時も、あなたはあの男を愛していなかったのかしら?」ラミアが唐突に問いかけた。セレーネは眉をひそめた。その問いはあまりにも唐突で、魂の深層を抉るものだった。セレーネは口を開きかけ、そして閉じ、やがて力なく呟いた。「……覚えていないわ」ラミアは驚愕を露わにして振り返った。「自分の感情を忘れるなんてことが、あり得るのかしら?」セレーネは俯き、無
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第355話

魔女たちは直ちに治療に取り掛かった。シグ、エリック、ビョルンの三人が先に魔力で宙へと抱え上げられ、淡い治癒の光がその全身を包み込んでいく。微弱な呻き声が漏れ聞こえた――重体ではあるものの、三人が未だ息を繋ぎ止めている証拠だった。ディリアンはようやく木製の担架へと横たえられた。だが、疲労困憊で肉体が崩壊しかけているその瞬間ですら、ディリアンの左手はあの心臓を決して離そうとはしなかった。セレーネは両手でディリアンの指先を強く包み込んだ。冷たい。あまりにも冷え切っていた。「生きているわ……」セレーネは現実を確かめるように囁いた。「あなたの心臓は、まだ動いている」ディリアンはセレーネを見つめ、それから手の中の心臓へと視線を落とした。「ああ」ディリアンは静かに言った。「約束通り、脈打っているさ」セレーネは深く項垂れ、額をディリアンの冷たい手へと押し当てた。堪えきれなくなった涙が、男の荒れた皮膚へと零れ落ちる。ラミアは二人の姿を見つめ、低く重々しい声で告げた。「業火は封じられたわ。代償は支払われた」ラミアはその心臓を見据えた。「いよいよ……モルウェンナの真の遊戯が幕を開けるわね」セレーネは顔を上げた。胸の奥を再び恐怖が締め付ける。これが終わりなどではないことを、セレーネ自身が誰よりも痛感していたからだ。これは、過酷なる始まりに過ぎない。魔女たちは迅速に行動を起こした。煙の立ち込める焦土の中央に、魔女たちは新たな巨大な器を設置した――ラミアが持っていた小器を遥かに凌駕する巨大な器だった。赤黒い筋の走る漆黒の玄石で作られたその大器には、古の紋様が刻まれ、石そのものが呼吸しているかのように淡く脈打っていた。数名の魔女が地面へ杖を突き立てて防護結界を張り巡らせ、他の者たちは空間を震わせる低い詠唱を紡ぎ続けた。ラミアの器の中に封じられた炎は、未だ檻の中の凶獣の如く荒れ狂い、暴虐に身悶えしていた。ラミアはその玄石の器の前に仁王立ちした。ラミアは両手を天へと掲げ、魔力の輝きによってその瞳を赤く染め上げた。古の呪文が唇から滑り落ちる――セレーネすら一度も耳にしたことのない、大地を無理やり咆哮させるかのような重厚で無骨な言語。パキリと音を立て、小さな水晶の器が開かれた。炎は解き放たれた瞬間、自由を得た
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第356話

その一言は、静かな水面に落とされた巨石のように、重く響き渡った。セレーネは全身を硬直させた。呼吸が喉の奥で詰まる。「何ですって……?」唇が小刻みに震える。ディリアンは鋭い眼光でラミアを睨み据えた。「何を企んでいる?」「この呪いが執拗に追撃を仕掛けてくるのは、あなたたちの間に強固な絆が存在するからよ」ラミアは一切の誤魔化しを排して説明した。「あなたたちの愛は、呪いを繋ぎ止める錨であり、同時に死を招き寄せる極上の撒き餌なの。その絆が存在する限り、元素は延々とあなたたちを狙い続けるわ」セレーネはゆっくりと首を横に振った。その残酷な論理を必死に拒絶するかのように。「そんなの……何の解決にもならないわ」「ええ、解決にはならないわ」ラミアもそれは認めた。「けれど、死の到来を遅らせることならできる」ディリアンは拳を固く握り締めた。そのあまりの力に、塞がりかけていた指の傷が再び裂け、血が滲む。「俺たちに……この地獄のような日々を生き抜くための、たった一つの拠り所を捨てろと言うのか」ラミアは真っ直ぐに見据え返した。「可能性の一つを提示しただけよ」セレーネは深く項垂れた。胸が内側から握り潰されるように苦しい。「もう、とっくに試したわ」セレーネは掠れた声で囁いた。「前の人生でも。この人生でも。私たちは足掻いたけれど……結局、どうにもならなかったのよ」ラミアは沈黙した。朝の風が静かに吹き抜け、湿った土と煙の匂いを運んでくる。遥か遠くからは鳥の囀りすら聞こえ始めていた――世界は何事もなかったかのように日常を取り戻そうとしている。彼らがここで、愛と呪い、そして迫り来る死について語り合っていることなど意にも介さずに。「無理強いはしないわ」ラミアはようやく口を開いた。「私はただ警告しただけ。残された時間は少ないわ。そして愛とは……最も眩い炎よ。闇の中において、これほど見つけやすい標的はないわ」ディリアンはラミアを長く、じっと睨みつけていた。胸の内で爆発しそうな激情を、必死に抑え込んでいるかのように。業火はすでに鎮火し、焦土は朝露に濡れていたが、この場の張り詰めた空気は先ほどよりも遥かに濃密だった。ディリアンはようやく低い、だが断固たる声で告げた。「俺たちに愛し合うのをやめろと宣う
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第357話

ディリアンは卓上で拳を固く握り締めた。「俺がお前を愛するのをやめれば、死の円環も弱まるんじゃないかと思ったんだ。あの呪いが、狙いを見失うんじゃないかと」セレーネは息を呑んだ。「ヴィヴィエンヌに愛など微塵もなかった」ディリアンは隠すことなく告白した。「あいつは単なる実験台だった。俺がお前を愛していない振りができるかどうかを確かめるための、ただの証明に過ぎなかったんだ」ディリアンは顔を上げ、セレーネを真っ直ぐに見据えた。「そして……俺は無残に失敗した」セレーネは胸を刃で抉られるような痛みを覚えた。「失敗って……どういうことよ?」ディリアンは消え入りそうな声で呟いた。「お前を傷つけているその瞬間すら、お前一人に、我が子を失う絶望を背負わせていたその時ですら、俺はお前を愛し続けていたからだ。頭の中はお前で満たされ、お前を失う恐怖に怯え続けていた」ディリアンは小さく首を横に振った。「お前を守っているつもりで……実際には、俺自身の手でお前を最も深い奈落へと突き落としていたんだ」重苦しい静寂が二人を包み込んだ。ディリアンの声がかすれ、ひび割れた。「そして何より残酷なのは、前の人生でお前が死に果てて初めて、俺がその取り返しのつかない事実に気づいたということだ」セレーネは絶句した。呼吸が止まり、瞳が熱く潤む。「なら、あの全ては……」「ああ」ディリアンは深く頷いた。「俺の罪だ。俺の愚断だ。あの地獄を創り出したのは、他でもない俺自身だ」ディリアンは重い体を引きずり、セレーネの前に跪いた――強要されたからではない。ディリアンの肉体と心が、もはや直立を維持する気力すら失っていたからだ。ディリアンは低く誓った。「俺たちの愛が破滅を加速させるのだとラミアが言うなら、好きにさせればいい。俺は二度と同じ愚行を繰り返さん。わずかに生き長らえるためだけに、お前を愛するのをやめるなどという真似は絶対にしない」ディリアンの目は赤く充血していたが、その眼差しは揺るぎなくセレーネを見上げていた。「お前を愛したまま果てるというなら、甘んじて受け入れる。だが、お前を傷つけることで生き延びる道など、二度と選ばん」セレーネは瞳を閉じた。震える手先が、ディリアンの髪へとそっと触れる。「ねえ……あなたのそういうところ
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第358話

ラミアが「小屋に手立てを講じる」と言った真意は、壁を補強することでも追加の結界を張ることでもなく――小屋そのものを空間転移させることだった。それも、何の前触れもなく。ラミアが再び木製の扉を開け放った時、最も近くに立っていたセレーネは反射的に息を呑んだ。隙間から流れ込んできた空気は、先ほどまでの肌を刺すような冷気を完全に失っていた。雪の匂いも、凍てつく霜の気配もない。そこにあったのは湿った土の芳香と青葉の匂い、そして肌を優しく撫でる、どこか馴染みのない、穏やかで暖かな風だった。一歩外へ踏み出すと、世界は一変していた。眼前に広がる森は、先ほどまでのそれとは根本から異なっていた。青々とした深緑の葉を茂らせた巨木がそびえ立ち、肥沃な黒土からは太い木の根が力強く隆起している。雪もなければ、氷もなく、先ほどまでの焦土の痕跡など微塵も存在しない。木漏れ日が優しく降り注ぎ、その場所はまるで……奇跡のような平穏に包まれていた。セレーネは背後を振り返り、次いで周囲を見渡して目を見開いた。「ここ……」セレーネの声が詰まった。「私たち、どこにいるの?」隣に立つオデットもまた、信じられないといった面持ちで見渡した。「明らかに先ほどの場所ではないわね」オデットは呆然と呟いた。ラミアは何食わぬ顔で扉を閉めた。世界の理をたった今ねじ伏せたことなど、意にも介さない様子で。「あなたたちが今いるのは、東部と北方の境界に位置する森林地帯よ」ラミアは淡々と説明した。「二つの領域が交わる緩衝地帯だわ」ディリアンは眉根を寄せた。「東部境界だと?」ディリアンは問うた。「俺の領地の近くなのか?」「いいえ」ラミアは即座に否定した。「ここも依然として北方の東端に属しているわ。あなたの支配領域ではないわよ」ディリアンは静かに首肯した。ディリアンはその意図を察した――自らの権勢から遠く離れ、自らの名に長年こびりついてきた呪いの中心からも遠い場所を、ラミアが意図して選んだのだと。デイジーとモナは顔を見合わせ、ほぼ同時に尋ねた。「どうしてここには雪がないのですか?」ラミアは頭上の木々を見遣り、足元の土へと視線を落とした。「乾燥地帯と肥沃な大地が交差する境界だからよ。雪が長くとどまることはないわ。降ったとしても一瞬のこ
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第359話

パチパチと薪が爆ぜる音が一段と高まり、まるでセレーネの胸の内の祈りに応えているかのようだった。周囲の森は依然として静まり返っていた――警戒を解くには、あまりにも不気味な静けさだった。しかし今夜ばかりは、揺らめく炎と香ばしい食事、そして生き残った者たちの確かな息遣いの中で、彼らは束の間の平穏を享受することを選んでいた。過酷な運命が再び己の存在を主張し始める前に。ラミアは再び天空へと視線を向けた。夜霧の彼方に隠れたあの三日月が、自らの声を聞き届けてくれていると信じているかのようだった。「三日月を待っているのは、私だけではないわ」ラミアは静かに、だが確固たる重みを含んだ声で告げた。「世界中の魔女がその刻限を待っているのよ。世界の境界が最も薄まり……古の根源たる力へと干渉できる唯一の時なのだから」セレーネの身体が微かに強張った。セレーネはラミアの横顔を見つめ、その言葉の裏にある真意を掴み取ろうとした。「モルウェンナも……含まれているのかしら?」セレーネはようやく問いかけた。ラミアは即答しなかった。ラミアは視線を落とし、それからゆっくりと首肯した。ラミアは偽りなく答えた。「私たちが待っているのなら、モルウェンナもまた、同じ刻限を待っている可能性は極めて高いわね」セレーネの心臓が早鐘を打った。「あの魔女は……さらに強大になるの?」「奴はすでに、かつて持っていた強大な魔力の大半を喪失しているわ」ラミアは言った。「自らを悪魔への生贄に捧げて以来ね。あの禁忌の契約は、奴の魂も、肉体も、そして自由すらも貪り食い尽くしたのだから」ラミアは顔を向け、かつてないほど真剣な目でセレーネを見据えた。「けれど……だからといって、奴を侮っていい理由にはならないわ」セレーネは静かに頷いた。セレーネもそれを理解していた。あまりにも多くの死線を潜り抜けてきた今、事態が容易に片付くなどとは微塵も思っていなかった。「古代の魔女……」セレーネは呟いた。「普通の魔女とは、やはり根本から違うのね?」「全く違うわ」ラミアは躊躇なく断言した。「普通の魔女は自然の力を借り受けるに過ぎない。けれど古代の魔女は……自然そのものよりも遥かに古い深淵の意志と、直接取引を交わす存在よ」その言葉は、セレーネの胸を鉛のように重く
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第360話

セレーネは思わず笑みをこぼした。胸の奥に温もりと、それと表裏一体の痛みを覚えながら、セレーネはその光景を見つめていた。屈託なく笑い合う二人の子供と、無愛想を装いながらも細やかな気配りを欠かさない父親。揺らめく焚き火、焦げた肉、他愛のない会話の中で、セレーネはこの瞬間がいかに脆く、どれほど尊いものであるかを痛感していた。そして一瞬だけ、時がこのまま止まってくれればいいのにと願った。まるで世界が束の間の猶予を与えてくれたかのように、日々は偽りの穏やかさの中で過ぎていった。だがその平穏はあまりにも脆かった。ラミアの小屋から数メートルの場所に、以前にはなかった簡素な祭壇が築かれていた。低く積まれた石が歪な円陣を形作り、その周囲には、まだ乾ききらぬ鮮血でスティグマがくっきりと描かれていた。近づく前から、セレーネはその異変を感じ取っていた。生血の鉄臭さと湿った黒土の臭気が混ざり合い、感覚を刺激して首筋を粟立たせる。祭壇を取り巻く大気は重苦しく、まるで何者かが息を潜め、沈黙の中で時を待っているかのようだった。ディリアンがセレーネの傍らに歩み寄ったちょうどその時、ラミアが足早に近づいてきた。ディリアンは抱き上げていたダグニーを地面に下ろしたばかりで、短く顎をしゃくって、少し離れた場所にいるディヴリオとオデットの元へ行くよう促した。ディリアンは祭壇を一瞥し、すぐにラミアへと視線を戻した。ラミアは低く、反論を許さぬ声で告げた。「これからの数日間、あなたたちは小屋から一歩も出ない方がいいわ」その声に、セレーネは鋭く振り返った。「何が起きているの?」ラミアは即答しなかった。ラミアは木々の合間を見上げ、青白く異様な色合いを帯びた天空を見つめた。その眼差しには、あのラミアですら滅多に見せぬほどの警戒の色が宿っていた。「おそらく……」ラミアはようやく口を開いた。「不吉な何かが、胎動を始めているわ」セレーネの心臓が早鐘を打った。「私たちが執り行う儀式と関係があるの?」「いいえ」ラミアは短く、だが断固として否定した。ラミアは再び天空を仰ぎ、常人の目には見えぬ何かを読み解こうとしていた。「異常な現象よ。三日月になるまでの月相の変化が……急激に遅くなっているわ。あまりにも遅すぎる」セレーネは深く息を吐き出し、己を落ち着か
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