◇ サロンは、台風が過ぎ去ったあとのような静けさに包まれていた。 入り口のベルが鳴ると、スタッフたちが一斉に顔を上げ、私が来たことに目を丸くした。すぐに「チーフ! ドレス、ニュースで見ました! すごかったです!」と口々に言いながら駆け寄ってくる。 どうやら麗華の会見は無事に終わったらしい。あの大胆なリメイクは「斬新なデザイン」として、世間からは好意的に受け入れられたそうだ。「よかった……」 心の底から安堵のため息が漏れる。 私はスタッフたちを業務に戻らせると、一人アトリエに入った。床に散乱したレースの切れ端や、ビーズ、糸くず。それらを一つひとつ拾い集め、元の場所へ戻していく。 無心で手を動かしていると、頭の中のごちゃごちゃした雑音が消えていくような気がした。 一通りの掃除を終え、まとめたゴミ袋を持って裏口から外に出た、その時だった。 不意に、膝の力が抜けた。 張り詰めていた糸がプツリと切れ、私は裏口にある古びたベンチへとなだれ込むように座り込んだ。 秋の風が、火照った頬を冷たく撫でていく。薄手のカーディガン一枚では心許ない寒さが、疲弊した身体に染みた。「……お疲れ様」 頭上から、甘く柔らかな声が降ってきた。 驚いて顔を上げると、そこには缶コーヒーを二つ持った男が立っていた。 九龍征司だ。「……征司、さん」「やあ。やっぱりここにいた」 彼は私の隣に腰を下ろすと、持っていた温かい缶コーヒーを、私の頬にぴたりと押し当てた。「ほら。温まるよ」「……どうして、ここに」「君のことだ。真面目だから、自分でした仕事の後片付けに来るんじゃないかと思ってね」 彼の笑顔は、春の日向のように穏やかで、裏表がないように見える。 先日、去り際に投げかけられた『君の味方は一人じゃない』という言葉が、脳裏に蘇った。「……何の用ですか」 無意識に身体を強張
Terakhir Diperbarui : 2026-02-13 Baca selengkapnya