カレンダーの数字が切り替わるたび、隣で眠る男の吐息が重く、苦しげに沈んでいくのを肌で感じていた。 「……朱里」 深夜、不意に名を呼ばれて重い瞼を持ち上げると、湊はまるで悪夢の淵から這い上がってきた迷子のように、私のパジャマの裾を強く握りしめていた。 闇に目が慣れるにつれ、彼の苦悶が浮き彫りになる。額には玉のような脂汗が滲み、呼吸は浅く、乱れている。 「ここにいるよ。……湊、大丈夫?」 私が強張った背中を優しくさすると、彼は安堵のため息を漏らし、逃げ込むように私の胸に顔を埋めた。 その身体の震えは、エアコンの効いた寝室の冷気のせいではない。目に見えない巨大な怪物に怯える、魂の震えだ。 もうすぐ、彼の誕生日が来る。 世間では祝福されるはずのその日は、彼にとって、最愛の母を死なせてしまったという「罪」を突きつけられる、残酷な審判の日だ。 二十年もの間、彼は毎年この時期になると、こうして一人で震えていたのだろうか。 誰にも弱音を吐けず、凍えるような孤独の中で、ただ嵐が過ぎ去るのを待つように膝を抱えていたのだろうか。 「……離れないでくれ」 うわ言のように繰り返される、切実な響き。 私は彼の汗ばんだ髪を指で梳きながら、胸の奥で静かに、けれど熱い決意の火を灯していた。 (今年は、絶対にそんな日にはさせない) 彼を縛る罪悪感なんて、私が全部塗り替えてやる。 生まれてきてくれてよかったと、あなた自身に思わせてあげる。 そのためには――「鍵」を手に入れなければならない。 彼が自ら封印してしまった、温かく幸せだった頃の記憶。その扉を開けるための、特別な鍵が。 私は、彼の背中越しに、サイドテーブルに伏せて置いたスマートフォンに視線を投げた。 画面は暗いままだが、そこには昨夜、志保さんと交わしたメッセージの履歴が残っているはずだ。 『湊さんのために、何かしてあげたいんです。彼を救う方法はありませんか』 私の唐突な相談に対し、志保さんからの返信は、意外なほど具体的だった。 『……一つだけ、あります。あの子がまだ笑えていた頃、
最終更新日 : 2026-02-06 続きを読む