(……諦めない) 私は暗闇の中で、彼の指に自分の指を絡め、握り返した。 どんなに冷たく突き放されても、どんなに拒絶されても。 私は、この不器用で傷だらけの王様を見捨てたりしない。 いつか必ず、二人の間にそびえ立つ氷の壁を溶かしてみせる。 そのためには、まず私自身が足を踏ん張らなきゃいけない。 泣いてばかりじゃダメだ。 この閉塞した日々の中で、私にできることを探そう。 彼が疲れて帰ってきた時、少しでも空気が柔らかくなるように。 乱れたクッションを整え、サイドボードに一輪の花を飾り、強張った笑顔でもいいから「おかえり」と言おう。 無視されても、言い続けよう。 それが、今の私に残された、たった一つの戦い方なのだから。 ◇ そんなある日の午後だった。 ピンポーン、と無機質な電子音が静寂を引き裂いた。 時計を見る。まだ湊が帰ってくる時間ではない。 ルームサービスのスタッフだろうか。それとも、定期配送の荷物か。 私は少し警戒しながら、モニターの通話ボタンを押して画面を覗き込んだ。 そこに映っていた人物を見て、呼吸が止まる。「……え?」 カメラのレンズ越しでもわかる、鮮烈な真紅のドレス。 美容室帰りたてのような、完璧な巻き髪。 そして、獲物を見つけた肉食獣のような、不敵な笑みを浮かべた唇。 綾辻麗華だった。 彼女はカメラに向かって、まるで友人の家を訪ねたかのように優雅に手を振ってみせた。 その細い指先には、黒いカードキーらしきものが摘まれている。 あれは、湊が持っているはずのスペアキー?『ごきげんよう、朱里さん。……少し、お話ししましょうか』 スピーカーから響く声は、砂糖菓子のように甘く、そして致死量の毒を含んでいた。 どうして彼女がここに。 湊は「僕が許すまで、誰とも会うな」と言い置いていたはずだ。 まさか、湊自身が
最終更新日 : 2026-02-11 続きを読む