◇ 地下駐車場から愛車を急発進させる。 タイヤが悲鳴を上げ、車体が地上へと飛び出した。 ハンドルを握る手が、汗で滑る。 どこへ行く? 当てなどない。 でも、じっとしてはいられなかった。(……サロンか?) 最初に向かったのは、彼女の職場だった。 ビルは静まり返っている。 当然だ。休業中なのだから。 それでも、湊は車を降り、ガラス越しに中を覗き込んだ。 無人のフロア。彼女の姿はない。「くそっ……!」 ダッシュボードを叩く。 次はどこだ。 彼女が行きそうな場所。 公園? カフェ? いや、そんな悠長な場所にいるはずがない。 彼女は「逃げた」のだ。僕から。 車を走らせながら、湊は記憶を掘り返した。 彼女との会話。彼女の視線。 昨夜の情事の中で、彼女は何度も「愛してる」と言った。 あれは、別れの言葉だったのか。『今夜は一秒も離れないで』と縋ったのは、最後の思い出を作るためだったのか。「……気づけよ、僕……!」 自分の鈍感さに吐き気がする。 彼女はサインを出していたはずだ。 あの悲しげな笑顔。切実な抱擁。 それらを全て「愛されている証拠」だと都合よく解釈し、彼女の苦悩を見過ごしていた。(……そうだ。詩織さんだ) 唯一の肉親。 朱里が頼るとすれば、姉しかいない。 湊はハンドルを切り、詩織のアパートへと向かった。 道中、何度も朱里のスマホに電話をかけた。 繋がらない。GPSのアプリも消去されたのだろうか、反応はなかった。 完全に、痕跡を消すつもりなのか。「……嫌だ」 運転しながら、湊の目から涙がこぼれた。 視界が滲んで、前の車が二重に見える。
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