目的である私が自ら姿を消したことで、彼の手の中には空っぽの手段だけが残された。 だから、戦うのをやめたのだ。「……なんてこと」 膝の力が完全に抜け、その場にへたり込んだ。 フローリングの床に手をつき、ポタポタと落ちる自分の涙の染みを見つめる。 とんでもない思い上がりをしていた。 自分が彼を守れると思っていた。自分が彼から離れることが、彼にとっての救いになると思い込んでいた。 傲慢な自己犠牲が、彼を一番残酷な形で殺しかけている。「……あんた、どうして敵である私たちのところに来たの」 ずっと黙って聞いていた詩織が、鋭い声で口を挟んだ。「あんたの父親が九龍グループを乗っ取ろうとしてるんでしょ? 湊がこのまま戦意喪失して自滅してくれた方が、あんたたちにとっては都合がいいはずじゃない」 指摘はもっともだった。 剛造が湊を追い落とせば、次期当主の座は息子の征司に転がり込んでくる可能性が高い。 わざわざ惨状を教えに来る義理などないはずだ。 征司は、詩織の方へ視線を移し、ふっと自嘲気味に口角を上げた。「……親父のやり方は、美しくないんだよ」「美しくない?」「ええ。身内を罠に嵌め、女をダシにして週刊誌に売る。……そんな泥水みたいな手で手に入れた椅子に座らされても、気分が悪いだけだ」 ポケットに手を入れたまま、部屋の天井を仰ぐ。「それに……」 声のトーンが、少しだけ下がる。「僕は、兄貴が君と一緒にいる時だけ、普通の人間みたいな顔をして笑うのを知っているからね。……ずっと氷みたいに冷たかったあの男が、君に執着して、焦って、人間らしく変わっていくのを見るのは、悪くなかったんだ」 ライバルであり、憎み合う血族でありながら、同じ九龍家という鳥籠の中で育った者同士にしかわからない、奇妙な連帯感。 彼なりに、湊が初めて見つけた『光』が消えてしまうのを、見
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