詩織は火を止め、手早く皿に肉炒めを盛り付けると、私の向かいの席にドカリと腰を下ろした。 湯気を立てるお茶を啜り、大きなため息を一つ吐く。「……お姉ちゃん」「何よ」「私……頭がおかしくなりそう」 自分でも驚くほど、掠れた弱い声が出た。 両手で顔を覆うと、手のひらから生ぬるい自分の息が跳ね返ってくる。「別れたんだよ。私が、彼を捨てたの。最低な嘘をついて、彼を深く傷つけて……だから、これでいいの。連絡が来ないのが、彼が私を忘れて闘いに集中してくれてるっていう、何よりの証拠なんだから」 言葉にするたびに、肋骨の裏側が鈍く軋む。「彼が迎えに来るはずなんてない。来ちゃダメだって、わかってるの。……なのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。ドアの音がするたびに、彼じゃないかって、バカみたいに期待してる自分がいるの」 指の隙間から、熱い雫がこぼれ落ちた。 フローリングにポタリと染みを作る。「彼を破滅させたくないのに、彼に会いたい。……忘れられたら困るのに、忘れられないと辛い。……私、自分が何をしたいのか、もうわからないよ」 矛盾だらけの感情。 自分で選んだ道なのに、その痛みに耐えきれず、誰かに助けを求めている。 こんな惨めな姿、湊には絶対に見せられない。 詩織は何も言わず、ただ静かに私のお茶を注ぎ足した。 トクトクという水音が、耳に優しく響く。「……馬鹿じゃないわよ」 ふと、詩織が低い声で呟いた。「それだけ、あいつのことを好きだったんでしょ。頭で割り切れるくらいなら、誰も恋愛なんてしないわ」 彼女はマグカップを両手で包み込み、湯気の向こうから私を真っ直ぐに見据えた。「それにね、朱里。……あいつが連絡してこないのは、あんたを忘れたからじゃないわ」「……え?」
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