All Chapters of 復讐のために彼をレンタルしたら、まさかのCEOに溺愛契約で雇われました: Chapter 221 - Chapter 230

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第221話 志保の懺悔④

 堂々巡りの絶望。 出口のない迷路の壁に頭を打ち付けているような錯覚。 志保さんは、ゆっくりと顔から手を離した。 涙で濡れたその顔には、もう迷いはなかった。一度すべてを壊してしまった者が、最後に残されたたった一つの希望にすがりつくような、凄絶な光が宿っていた。「いいえ。……まだ、道はあります」 彼女は、濡れた手で自分のバッグを探り、一枚の厚紙を取り出した。 そして、それをテーブルの上、私の目の前に滑らせた。 裏返しにされたそれは、上質な和紙のような手触りのカードだった。「……これは?」「明日の、臨時株主総会の入場パスです。……私の権限で、特別枠として用意しました」 息を呑む。 株主総会の、入場パス。 剛造さんが牙を剥き、湊がそれに無抵抗で噛み殺されようとしている、あの戦場への切符。「これを、私に?」「ええ」 志保さんは、私を真っ直ぐに見据えた。「あの子の目を覚まさせることができるのは、もう私ではありません。……あなたしかいないのです」 ◇「ちょっと待ってください」 お姉ちゃんが、冷ややかな声で割って入った。「朱里がその会場に行けば、それこそ剛造の思う壺じゃないですか。あの契約書を突きつけられて、『ほら見ろ、金で雇われた女だ』って吊るし上げられるんですよ。湊の傷口を広げるだけです」 正論だった。 私がノコノコと姿を現せば、世間の好奇の目はさらに九龍家に集まり、スキャンダルの炎は天井知らずに燃え上がる。 だが、志保さんは首を横に振った。「……ええ。理屈の上ではそうです。あの契約書が存在する限り、何を言っても言い訳にしか聞こえないでしょう。世間はあの子を非難し、失脚を求めるかもしれません」 彼女は、カップの隣にある私の手を、両手で包み込んだ。 氷のように冷たかった彼女の手は、今は微かに熱を帯びている。「
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第222話 志保の懺悔⑤

 彼女の言葉は、理屈や計算をすべて投げ捨てた、ただの母親の叫びだった。 私が悪女を演じれば彼を守れるという、緻密な盤上の戦略はもう通用しない。 盤ごとひっくり返し、血みどろになっても彼の手を掴む。それしか、彼の魂を引き戻す方法はないのだ。「……でも」 私は唇を噛んだ。「私が彼を裏切ったことは、彼にとって確信に変わっています。……私が行っても、彼は私の言葉を信じてくれないかもしれない」『お前も、僕を騙すのか』 あの雨の夜の、傷ついた瞳。 そして、テーブルの上に並べてきた宝石たちと、冷酷な書き置き。 私が彼に与えた傷は、そう簡単に塞がるものではない。「信じさせなさい」 志保さんが、きっぱりと言い切った。「あなたは、あの子の凍った心を一度溶かした人でしょう。……もう一度、力ずくでこじ開けなさい。泣いて、叫んで、殴り飛ばしてでも、あの子に『私はここにいる』とわからせるのよ」 彼女は私の手を離し、姿勢を正した。「私ができるのは、あなたをあの部屋に入れることだけ。……その先、あの子の心臓を動かすのは、あなたの役目です」 テーブルに置かれた入場パスが、まるで重力を持っているかのように、私の視線を吸い寄せる。 黒いカードに刻まれた、インペリアル・ドラゴン・ホテルの紋章。 これを手に取れば、私はもう逃げられない。 世間の好奇の目に晒され、剛造さんの悪意の的にされ、そして何より、傷ついた湊の拒絶と真っ向からぶつかり合わなければならない。 沈黙が、部屋を満たした。 雨の音だけが、遠くで響き続けている。「……朱里」 お姉ちゃんが、ぽつりと私の名前を呼んだ。 振り返ると、彼女はいつもの呆れたような顔ではなく、どこか覚悟を決めたような、静かな目で私を見ていた。「あんたは、どうしたいの」 どうしたいか。 問われて、私は自分の胸の奥に意識を向けた。
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第223話 志保の懺悔⑥

 私の声は、もう震えていなかった。 志保さんが、深く、長く息を吐き出した。 それは、重い十字架を一つ下ろしたような、安堵の吐息だった。「……頼みましたよ、朱里さん」 彼女は立ち上がり、静かに頭を下げた。「あの子を……私の、大切な息子を、どうか救ってください」「はい。……必ず」 私が答えると、志保さんは一度だけ弱々しく微笑み、そして振り返ることなくアパートを出て行った。 ◇ 志保さんが帰った後、部屋には私とお姉ちゃんだけが残された。 私は手の中の入場パスを見つめたまま、動けずにいた。 明日。 泣いても笑っても、すべてが終わるか、始まるか。 その境界線に立つことになる。「……覚悟は決まったみたいね」 お姉ちゃんが、腕を組んで私の前に立った。「ええ。……もう迷わない」「そう。……なら、こんなところで座ってウジウジしてる暇はないわよ」 彼女は私の腕を掴み、強引に立ち上がらせた。「え? お姉ちゃん?」「顔、洗ってきなさい。……それから、クローゼットを開けるわよ」 お姉ちゃんは、私の背中を洗面所へと押しやりながら、小気味良い声で言った。「戦場に行くのに、そんなみすぼらしい借り物の服で行くつもり? 相手は九龍の重役たちよ。……舐められないように、最高の鎧を着て乗り込むのよ」 洗面所に押し込まれ、鏡の前に立つ。 そこに映っていたのは、泣きはらして瞼が赤く腫れ上がり、髪もボサボサになった、惨めな自分の姿だった。 蛇口をひねり、冷たい水をすくい上げて顔に叩きつける。 ピシャリという音とともに、肌が粟立ち、頭の芯が急激にクリアになっていく。 滴る水をタオルで拭い、もう一度鏡を見る。 目はまだ赤いけれど、その奥にある光は、数時
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第224話 断罪の法廷①

 洗面所の鏡に映る自分は、数十分前の、泣き腫らして惨めだった姿とは別人のようだった。 お姉ちゃんがクローゼットの奥から引っ張り出してきたのは、仕立ての良い漆黒のセットアップスーツだった。無駄な装飾を一切削ぎ落としたタイトなシルエットが、背筋を強制的に伸ばさせる。「……戦場に行くのに、丸腰じゃ舐められるわよ。最高の鎧を着ていきなさい」 その言葉通り、この服は今の私にとって、弱さを隠すための完璧な装甲だった。 首元には、一粒パールのネックレス。足元は、床を高く鳴らすピンヒール。 深く息を吸い込み、冷たい空気を肺の底まで満たす。 指先の震えは、もう止まっていた。「行くわね、お姉ちゃん」「ええ。……思いっきり、引っ叩いてきなさい」 送り出す姉の声は、頼もしく、そして少しだけ震えていた。 アパートの外に出ると、空は白み始め、夜半まで降り続いていた雨は完全に上がっていた。湿ったアスファルトの匂いが、鼻腔をツンと刺激する。 大通りに出てタクシーを拾い、「インペリアル・ドラゴン・ホテルまで」と告げる。 シートに深く身体を沈めると、革の冷たい感触が背中越しに伝わってきた。 窓の外を流れる東京の街並みは、まだ眠りから覚めきっていない。けれど、私の心臓は、これから始まる激しい嵐を予感して、早鐘のように脈打ち続けていた。 バッグの中には、志保さんから託された黒い厚紙の入場パスが入っている。 これを使えば、彼がいるあの部屋に入れる。 彼の絶望の淵に、私が直接手を伸ばすことができる。『あの子は明日、自分が傷つくことで、あなたを守ろうとしています』 志保さんの悲痛な声が、耳の奥で蘇る。 湊は、私のためにすべてを捨てる気だ。 彼が幼い頃から、血の滲むような思いで守り抜いてきた玉座。母の無念を晴らすため、そして自分自身の存在証明としてしがみついてきた九龍の頂点を、私の平穏と引き換えに、自ら手放そうとしている。「……馬鹿な人」 私は、膝の上で両手を強く握
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第225話 断罪の法廷②

第225話 断罪の法廷② しかし今日、その重厚な扉の向こうに待っているのは、華やかな宴ではない。 彼を断罪し、社会的に抹殺するための、冷酷な法廷だ。 ◇ 特別席のエリアは、会場の後方、一段高くなった場所にあった。 案内された席に座り、私は息を殺して眼下の光景を見下ろした。 数百人を収容する広大な空間は、重苦しい熱気と、ざらついた緊張感で満たされていた。 スーツ姿の株主たちがひしめき合い、ひそひそと交わされる囁き声が、巨大な蜂の羽音のように不気味に共鳴している。 午前十時。 定刻を知らせるチャイムが鳴り響き、会場の照明が一段落とされた。 正面の巨大なステージが白く照らし出され、司会者の事務的なアナウンスと共に、役員たちが次々と入場してくる。 そして、最後の一人。 九龍湊が、壇上に姿を現した。「……湊」 私は、思わず身を乗り出し、手すりを強く握りしめた。 彼の姿を見た瞬間、胸の奥が締め付けられるような痛みに襲われたからだ。 ダークネイビーの完璧なスリーピーススーツ。髪は一糸乱れず撫でつけられ、姿勢は定規を当てたように真っ直ぐだ。 どこから見ても、隙のない若きCEOの姿。 けれど、その顔には血の気がなく、まるで精巧に作られた蝋人形のように生気が感じられなかった。 客席を一瞥するその瞳は、焦点が合っていないように虚ろで、暗い深海のように光を吸い込んでいる。 彼は、ここにいながら、ここにはいない。 心を、どこか遠くへ切り離してしまっているのが、痛いほどにわかった。 湊が中央の席に腰を下ろすと同時に、最前列に座っていた巨漢の男が、重々しい音を立てて立ち上がった。 九龍剛造。 湊の叔父であり、このスキャンダルの火付け役だ。「議長! 緊急動議の提出を求めます!」 マイクを通さない地声が、広大な会場の隅々にまで響き渡った。 その声には、長年溜め込んできた野心がようやく実を結ぶという、隠しきれない歓喜が混じっている。
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第226話 断罪の法廷③

 怒号が飛び交い始める。「説明しろ!」「会社の金を私物化するな!」 株主たちの非難の声が、波のようにステージへ押し寄せる。 私は、手すりを握る爪が白くなるほど力を込めた。 違う。会社の金なんかじゃない。彼は自分の個人の資産から払うと言っていた。 それに、あの契約は……始まりは嘘だったかもしれないけれど、今の私たちは違う。 心の中で叫んでも、その声は誰にも届かない。「それだけではありません!」 剛造は、さらに声を張り上げた。「先日、彼が強引な手法で買収した南青山のビル。あれは、グループの資産拡大などという名目で行われましたが、その実態は、この『契約愛人』が経営するサロンを保護するための、個人的な貢ぎ物だったのです!」「なっ……」 私は息を呑んだ。 そんな、無茶苦茶な論理の飛躍。 あのビルは、剛造さん自身の不正な借金の担保になっていたものを、湊が正当に買い取ったものだ。剛造さんは、自分の尻尾を切り離しつつ、その事実を丸ごと湊の「公私混同」へとすり替えたのだ。「一人の女にうつつを抜かし、九龍家の品格を地に落とし、あまつさえ会社の財産を私物化する。……このような男に、これ以上九龍グループの舵取りを任せるわけにはいきません!」 剛造の演説は、熱を帯びていく。 彼の言葉は、真実を知らない株主たちの怒りを巧みに煽り、会場の空気は完全に湊への弾劾へと染まっていった。「辞任せよ!」「責任を取れ!」 怒号が、物理的な圧力となってステージ上の湊に降り注ぐ。 私は、湊を見た。 彼は、どう動くのか。 剛造の不正の証拠を持っているはずだ。それを出せば、今の論調は一気にひっくり返る。 だが。 湊は、動かなかった。 ◇ ステージの中央に座る湊は、降り注ぐ罵声とフラッシュの光を、まるで遠い世界の出来事であるかのように無表情で受け止めていた。 反論しようとマイクに手を伸ばす気配もない。 
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第227話 断罪の法廷④

 彼の横顔が、ひどく白く、透き通って見える。 彼の中にあった、あの燃えるような闘争心も、すべてを支配しようとする傲慢さも、今は欠片も残っていない。 私という存在が、彼からすべての武器と防具を剥ぎ取り、丸裸のまま戦場に立たせている。「……静粛に! 静粛にお願いします!」 議長がマイクを叩き、荒れ狂う会場を必死に鎮めようとする。 しばらくして、怒号が低く響くざわめきへと変わった。「……それでは、提出された解任動議に関しまして、湊社長。……何か、弁明はありますか」 議長の声が、重苦しい静寂の中に響いた。 全員の視線が、湊に突き刺さる。 剛造は、勝利を確信したような下卑た笑みを浮かべ、腕を組んで湊を見下ろしている。 湊は、ゆっくりと立ち上がった。 その動作は、まるで錆びついた機械のように、ひどくゆっくりとしていた。 彼は、演台の前に立ち、マイクに向かって少しだけ顔を近づけた。 会場の空気が、ピンと張り詰める。 彼の口から、どんな言葉が飛び出すのか。反撃か、それとも謝罪か。 私は、手すりから身を乗り出し、彼の声を聞き逃すまいと息を詰めた。 湊は、一度だけ、深く息を吸い込んだ。 そして、静かに、温度のない声で口を開いた。「……弁解の余地は、ありません」 その一言が、マイクを通して会場全体に響き渡った。 どよめきすら起こらない。あまりにもあっさりとした「降伏宣言」に、株主たちも一瞬、言葉を失ったのだ。「スクリーンに提示された契約書は、本物です。……私が、彼女と交わしたものです」 湊は、淡々と事実を認めた。 その声には、恐怖も、悔しさも混じっていない。ただ、決められた台本を読み上げるような、無機質な響き。「会社の資産の運用に関しても、私個人の感情が全く介入していなかったと言えば、嘘になります。……トップとしての自覚に欠け、皆様の
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第228話 愛の乱入者①

 扉が壁に激突する鈍い音が、静まり返っていた飛竜の間に爆発のように響き渡る。 壇上で「辞任」という言葉を紡ごうとしていた湊の唇が、空中で静止したのが見えた。数百人の株主たち、そしてカメラの放列が一斉に振り向く。 私は特別席の階段を、転がり落ちるような勢いで駆け下りていた。 漆黒のタイトスーツが膝の動きを制限し、ピンヒールが厚い絨毯に引っかかりそうになる。息が上がり、心臓が喉から飛び出しそうなほど激しく脈打っている。「なっ……なんだ、あの女は!」「警備員! つまみ出せ!」 剛造の怒声がスピーカーを通して会場を震わせる。 出入り口に控えていた数人の警備員たちが、慌てて私の前に立ち塞がろうと動き出した。 黒い壁のような男たちの群れ。 普通なら足がすくむ。でも、今の私には立ち止まるという選択肢は存在しなかった。「退いてっ……!」 突き出された警備員の腕を潜り抜け、強引に前へ進む。肩が激しくぶつかり、鈍い痛みが走ったが、構わずヒールで床を蹴った。「異議あり! !」 肺の底に溜まっていた空気をすべて吐き出すように、私は叫んだ。 マイクなどない。それでも、声は天井のシャンデリアを揺らすほどの鋭さを持って、広大な宴会場の隅々にまで届いた。 ザワッ、と会場全体が波打つようにどよめく。 無数のフラッシュが、まるで真夏の雷雨のように私を撃ち抜いてくる。視界が白く飛び、目が眩む。汗が額に滲み、整えたはずの髪が頬に張り付いているのがわかった。「お前……」 壇上の湊と、視線が絡み合った。 先ほどまで、焦点の合わないガラス玉のようだった彼の瞳が、限界まで見開かれている。 血の気が失せていた顔面に、サッと赤みが差すのが、遠目からでもはっきりと見て取れた。 驚愕、混乱、そして……隠しきれない焦燥。 彼が自ら死刑台に上り、すべてを終わらせようとしていた完璧な盤面が、私の乱入によってめちゃくちゃに叩き壊されたのだ。
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第229話 愛の乱入者②

「……どうして来たんだ」 振り返った彼の声は、怒りと恐怖がないまぜになって震えていた。「来るべきじゃないだろう! 帰れ、今すぐここから立ち去れ!」 彼は私の両肩を掴み、来た道を戻らせようと強い力で押す。 指が肉に食い込むほどきつく握りしめられ、痛みが走る。 彼自身が一番、今のこの状況を恐れているのだ。 自分が泥を被ることで私を守ろうとしたのに、私が自ら火の粉の中に飛び込んできた。「君が傷つく! これ以上、世間の目に晒されたら……君の人生が滅茶苦茶になるんだぞ!」 悲鳴のような声。 その顔には、今まで見たこともないほどの狼狽が浮かんでいた。 私を守りたいという、ただ一つの純粋で不器用な願い。「……嫌よ」 私は、肩を掴む彼の手首を、両手で強く握り返した。 彼の脈打つ血管の熱が、私の冷たい掌に伝わってくる。「あなたを一人になんてさせないって、約束したじゃない」「朱里……っ」「勝手にすべてを終わらせないで。……私を置いていかないで!」 私は彼の腕の拘束を強引に振り解くと、彼を追い越し、ステージの階段を駆け上がった。「おい、待て……!」 湊が手を伸ばすが、私は止まらない。 剛造が驚いたように後ずさるのを尻目に、私は演台に置かれたマイクを鷲掴みにした。 金属の冷たい感触が、汗ばんだ掌に吸い付く。 ハウリングの甲高い音が、キィィィンと会場に鳴り響き、株主たちが一斉に耳を塞いだ。 ◇「その契約は、もう無効です! !」 マイクを通した私の声が、会場の空気をビリビリと震わせた。 スクリーンにデカデカと映し出されている『婚約者業務委託契約書』を、指差して叫ぶ。「たしかに、最初は契約でした! お金で雇われて、婚約者のフリをしていました!」 静まり返っていた会場に、怒号が爆発する。
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第230話 愛の乱入者③

 それでも、伝えなければならない。「彼が会社の資金を私物化したなんて嘘です! 彼は、誰よりもこのホテルを、九龍の看板を大切にしてきた人です!」「ふざけるな!」 剛造がマイクを奪い取ろうと近づいてきた。「貴様のような売女の言葉など、誰が信じるか! 警備員、早くこいつを……!」「触るなと言っているだろう! !」 壇上に駆け上がってきた湊が、剛造の腕を力任せに弾き飛ばした。 重い体格の剛造が、バランスを崩してよろめく。 湊はそのまま私の横に立ち、私の手からマイクを奪い取ろうとした。「朱里、もうやめろ! これ以上は……!」「やめない!」 私はマイクを両手で死守し、湊と引っ張り合いになった。 ◇「どうして来たんだ! 僕の計画が台無しじゃないか!」 マイクが私たちの声を拾い、会場中に巨大な音量で響き渡る。「あなたの計画なんて知るもんですか! 一人で勝手に終わらせて、自己満足に浸らないでよ!」「自己満足だと! ? 君を守るためだ! 君がここにいれば、剛造の標的になる!」「そんなのどうでもいい! あなたがCEOを辞めたら、あなたが今まで頑張ってきた意味がなくなるじゃない!」 壇上で、何百人もの株主とカメラの放列に囲まれながら。 私たちは、マイクを通して激しい口論を繰り広げていた。「僕の地位なんかより、君の安全の方が大事に決まっているだろうが!」 湊が叫ぶ。 その声は、マイクが割れるほどの音量で、彼の魂の底からの本音だった。 会場の空気が、奇妙な静けさに包まれ始める。 怒号を飛ばしていた株主たちも、マスコミも、壇上で繰り広げられる「痴話喧嘩」に毒気を抜かれ、呆然と見守っている。「だからって、私を置いていく理由にはならないわ! 『愛してる』って言ったのは嘘だったの! ?」「嘘なわけないだろう! 愛しているからこそ、手放そうとしたんだ!」「そんなの愛じゃない! ただの逃げよ!」 私は、マイ
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