一歩、屋敷の奥へと足を踏み出すごとに、志保の心臓が肋骨の内側を激しく叩き始めた。 二十年。 この家に嫁いできてから、彼女が庭師として、そして憎まれ役の「母」として耐え忍んできた、永遠にも似た歳月。 湊が彼女に向けていた、凍りつくような拒絶の視線。『……あなたなんか、僕の母親じゃない』 遠い昔、まだ幼かった湊が、涙を堪えながら彼女にぶつけた言葉が、静寂の廊下に幻聴となって蘇る。「……湊。あなたをあんなに寂しい目をした、孤独な王様に育ててしまったのは、私の最大の罪ね」 口に出すことはなかったが、その想いは、彼女の指先にできた無数のタコや、何度洗っても爪の間に微かに残る土の色となって、彼女の身体そのものに深く刻み込まれている。 志保は、湊の実母であり、彼女が誰よりも敬愛していた由理子との「最後の約束」を守るためだけに生きてきた。『あの子を……九龍の呪いから、守って。たとえ、あなたが憎まれることになっても』 その約束を果たすため、志保はあえて湊を突き放し、彼が自らの足で立ち、冷酷な一族の中で誰にも隙を見せない強さを身につけるよう、心を鬼にして冷遇を装い続けた。 志保は階段を上らず、一階の奥、最も日当たりの悪い北側に位置する部屋へと向かった。 そこはかつて、亡き夫であり湊の父である、宗一の書斎だった場所だ。 宗一が急死した後、その部屋は華枝の命によって長く封鎖されていた。しかしここ最近、本邸を我が物顔で闊歩するようになった龍一郎が、「分家の自分が本流の歴史を引き継ぐ」などという不遜な理由をつけて、勝手に鍵を壊し、自身の執務室として占拠し始めていた。 志保は、その重厚なオーク材の扉の前で立ち止まった。 彼女は懐から、古い真鍮製の鍵を取り出した。 ここ数週間、龍一郎がレセプションの準備や、朱里への嫌がらせの工作で深夜まで家を空けている隙に、彼女が庭の道具小屋の万力とヤスリを使い、夜な夜な自分の指を血だらけにしながら削り出した、手製の合鍵だ。 震える指先。 冷たい金属が、鍵穴の縁
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