私はソファから立ち上がり、手早く身支度を始めた。 コートを羽織り、バッグを手にする。 その時、スマートフォンが再び短い振動を立てた。 画面には、『詩織ねえちゃん』の文字。 ビクッとして、画面を見つめる。姉の詩織は、昔から勘が鋭い。私が何か隠し事をしていると、すぐに匂いを嗅ぎつけてくる。 出ない方がいい。そう思ったが、もし父の容態が急変したという知らせだったらと思うと、無視することはできなかった。 深呼吸をして、通話ボタンを押す。「……もしもし、お姉ちゃん?」『朱里。今、どこ?』 挨拶もなしに、単刀直入に切り込んでくる声。そのトーンは、普段の軽口を叩く時とは違う、硬く冷たいものだった。「アパートにいるけど。お父さんのこと、お母さんから聞いた?」『聞いたわ。今、病院に向かってる途中よ。……で、あんたはどうするつもり?』「どうするって……。私も、後で病院に行こうかと」『嘘ね』 ピシャリと、詩織の言葉が空気を切った。『あんたのその声、昔から一人で何か無茶なことをしようとしてる時の声よ。お父さんの会社の取引先に、私が知り合いの弁護士経由で探りを入れてみたわ。……見事なまでに、九龍の息がかかったところばかりが一斉に手を引いてる』 私は息を呑んだ。姉はすでに、裏で動いていたのだ。『あんた、まさか一人で九龍本家に乗り込もうなんて思ってないでしょうね。相手はヤクザも同然の連中よ。あんたみたいな小娘がどうにかできる相手じゃないわ』「……お姉ちゃんには関係ない。これは、私の問題だから」『家族が倒れてるのに、関係ないわけないでしょうが! あんたねぇ……』「ごめん、切るね」 これ以上話せば、ボロを出してしまう。 私は詩織の怒鳴り声を遮るように通話を切り、スマートフォンの電源を落とした。 静寂が戻ったリビングで、バスルームから聞こえるシャワーの音だけ
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