「……寂しい思いをさせて、ごめんなさい。でも、あなたが私の冷たい視線に耐え、血を吐くような努力で這い上がっていく姿を、私は誰よりも近くで見ていた。……あなたの強さは、血の繋がりなんかで証明されるものじゃない。あなたが流した汗と、絶望の中で噛み締めた奥歯の痛みが、今のあなたを作ったのよ」 湊の瞳から、ポロリと。 一筋の透明な雫がこぼれ落ちた。 それは、私が彼と出会ってから、初めて見る涙だった。 彼は、志保の手を自分の手で覆い、まるで子供のように、その熱に縋り付いた。「……志保、さん」 震える声。 二十年間の、巨大な氷の城が、音を立てて崩れ落ちていく。 彼を縛り付けていた「孤独」という名の鎧が、志保の無償の愛によって、完全に溶解していくのが分かった。「泣いている暇はないわよ、湊」 志保は、湊の涙を指の腹で拭うと、再び強い光を帯びた瞳で彼を見据えた。「華枝様は、病院で生死の境を彷徨っている。龍一郎は、今この瞬間も、九龍を我が物にしようと蠢いている。……あなたは、ここで立ち止まっていていい人間じゃない」 志保はローテーブルの上の鑑定書を拾い上げ、それを湊の胸へと押し当てた。「あなたは私の、そして由理子お姉様の自慢の息子です。……この真の鑑定書を持って、あなたの玉座を取り戻しなさい!」 その声は、かつての庭師の影の女のものではない。 一人の、誇り高き『母親』としての、絶対的な号令だった。 湊は、胸に押し当てられた書類を、しっかりと握り締めた。 紙がクシャリと潰れる音が鳴る。 彼は深く息を吸い込み、ゆっくりと、ソファから立ち上がった。 その足取りに、先ほどまでの虚脱感は微塵もなかった。 背筋が伸び、肩の筋肉が再び戦闘状態へと引き絞られる。 彼は斜めになっていた眼鏡を指先で外し、無造作にテーブルへ放り投げた。 剥き出しになった漆黒の瞳。 そこには、かつての冷徹なだけ
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