湊は、胸ポケットから取り出した万年筆を、テーブルの上で弄るように指先で転がした。 コロ、コロと、樹脂製の軸が木材の表面を滑る小さな音。 「……さて。ここで、皆様に確認したいことがあります」 湊の視線が、テーブルの右側に座る、白髪の初老の男の顔でピタリと止まった。 男の肩が、目に見えて跳ね上がる。 「西崎常務。あなたは先週の取締役会で、龍一郎の当主就任に最も強く賛同し、彼の提案した不透明な海外投資案件を推し進めようとしていましたね」 「そ、それは……! わ、私はただ、会社の利益を第一に考え……龍一郎氏の言葉を信じて……」 西崎常務の口から、脂汗にまみれた震える言い訳が漏れ出す。 湊は視線を外し、今度は左側に座る恰幅の良い男を見た。 「高島専務。あなたは、私の婚約者である朱里の実家の印刷所に対し、銀行に圧力をかけて融資を停止させるよう、裏で手を回していましたね」 「ち、違います! あれは龍一郎の指示で、逆らえば自分の首が飛ぶと脅されて……!」 「なるほど。指示されたから、罪のない人間の生活を破壊しようとしたと」 湊の指先が、万年筆の動きをピタリと止めた。 会議室の空気が、一瞬にして凍りつく。 「九龍グループは、長年、血の繋がりや一族のしがらみという名の下に、腐敗を溜め込んできた。権力を持つ者にすり寄り、己の保身のためなら平気で嘘に加担し、他者を蹴落とす。……龍一郎はその腐敗の象徴にすぎない」 湊の両手が、テーブルの縁を力強く掴む。 スーツの肩から腕にかけての筋肉が隆起し、生地が悲鳴を上げるのが見えた。 「九龍を食い物にする寄生虫は、一族から、そしてこの会社から、永久に追放する」 その言葉は、冷たい刃となって、テーブルを囲む役員たちの喉元に突きつけられた。 「龍一郎の不正に加担し、会社の資産を私物化した者は、責任を明らかにしたうえで解任の手続きを進めます。辞表一枚で済ませるつもりはない。従業員としての懲戒処分が必要な者は規程に従って処分し、法的な損害賠償請求も検討します。単に方針へ賛同した者についても、調査と説明責任から逃れることはできません」 悲鳴のような声が、あちこちから上がりかけた。 だが、湊の深い色の瞳がそれを完全に制圧する。 「……反論がある者は、今ここで口に出しなさい。法廷で争う準備は、すで
Last Updated : 2026-05-14 Read more