偽善。 そうかもしれない。私は、可哀想なバラを助ける自分に酔っていただけなのかもしれない。あの日記を読んで、彼のお母さんの想いを知った気になって、何かしてあげられると思い上がっていただけなのかもしれない。「……ノートを見たな?」 湊の視線が、ワゴンに置かれた日記帳に向いた。 その瞬間、掴まれた手首にさらに力がこもる。「……見たのか」「ご、ごめんなさい、勝手に……」「……出て行け」 声のトーンが、怒鳴り声から、もっと恐ろしい、絶対零度の響きへと変わった。 彼は汚らわしいものに触れたかのように、私の手首を乱暴に振り払った。 私はバランスを崩し、その場に尻餅をつく。 泥だらけの手、汚れたワンピース。そして、痛みと悔しさで滲む涙。 自分がどうしようもなく惨めだった。「二度とここへ入るな。……僕の目の前から消えろ」 湊は、もう私を見ようともしなかった。 彼は、私が手入れしたばかりのバラに背を向け、まるでゴミでも排除するかのように出口の扉を指差した。 その背中は、怒りで小刻みに震えていると同時に、どうしようもなく小さく、孤独に見えた。「……ごめんなさい」 私は、震える唇でそれだけ言うのが精一杯だった。 涙が溢れて止まらない。 私は逃げるように立ち上がり、温室の扉へと走った。 錆びた扉を押し開け、外の冷たい空気の中に飛び出す。 一度だけ振り返ると、湊はバラの前に立ち尽くしていた。夕暮れの薄闇の中、彼は亡き母の幻影と向き合っているようだった。 私が決して触れてはいけない、彼だけの場所。そこに踏み込んでしまった代償は、あまりにも大きかった。 終わったんだ。 契約という形であっても、少しは心が通じ合ってきたと思っていた。お互いの利害が一致しただけの関係だとしても、そこには奇妙な信頼のようなものが芽生えてい
Terakhir Diperbarui : 2026-01-23 Baca selengkapnya