あの絶対的な自信に満ちたCEOが、初めて見せる弱音。 その背中が、私の知っている彼よりもずっと小さく、脆く見えた。 志保はもはやパニックで役に立たない。総支配人もおろおろするばかり。 麗華は高みの見物を決め込んでいる。 誰も、動けない。 ――カッ、と。 私の腹の底で、熱い火種が爆ぜた。 冗談じゃない。 こんな、しょうもない悪意に負けてたまるか。 私の雇い主を、私の「婚約者」を、こんな形で笑い者になんてさせてたまるか! これは結婚式じゃない。 でも、状況は同じだ。 一生に一度の晴れ舞台。楽しみにしているゲストたち。そして、予期せぬトラブル。 それを何とかして、「最高の時間」に変えるのが、私たちプロの仕事じゃないの! 私は、ドレスの裾を強く握りしめると、ヒールの音を高く鳴らして前に出た。「――まだ、終わってません」 私の声は、騒然とするバックヤードの空気を切り裂くように、凛と響いた。 全員の視線が、私に集まる。 湊が、驚いたように目を見開いて私を見た。 志保が、呆然と顔を上げる。 麗華が、不快そうに眉をひそめる。「朱里……? 何をしている、ここは関係者以外……」「関係者です。あなたの婚約者ですから」 私は湊の言葉を遮り、まっすぐに彼を見据えた。 今の私は、ただの「雇われ人」じゃない。 数々の修羅場をくぐり抜けてきた、ブライダルコーディネーター・茅野朱里だ。「総支配人さん、今の厨房にある食材のリストと、すぐに動けるスタッフの人数を教えてください。それと、冷蔵庫にあるドリンクの在庫表も」「は、はい……? いや、しかし……」「急いで! 時間がないの!」 私の剣幕に押され、総支配人が慌ててタブレットを差し出す。 私はそれをひったくるように受け取り、高速で画面をスクロールさせた。「…
最終更新日 : 2026-01-26 続きを読む