裕也は、頑なで決然とした彼女の後ろ姿を見つめていた。相変わらずの意地っ張りだ。あの頃と同じように、眩しいほどに輝いている。彼女は本来、それほどまでに誇り高い女なのだ。和也の前にいる時だけ、彼女は優しく物分かりが良くなり、彼のために尽くそうとする。車内の空気は凍りついたかのように重苦しい。助手席から振り返った健は、裕也の陰鬱で冷え切った顔色をちらりと盗み見ると、慌てて前を向き直し、息を潜めた……その様子は、まるで社長が帰国する前の三年間を彷彿とさせた。氷のように感情を閉ざし、ただの一瞥で人を震え上がらせていた、あの頃を。飛行機に乗り込んだ絵里は、腕にはめられた時計を睨みつけ、苛立たしげに素早く外すと、手元のバッグに乱暴に突っ込んだ。わざと家に置いてきたというのに。よりによって裕也がわざわざ持ってきて、ご丁寧に腕にまで着けさせたのだ。私が時計に困っているとでも?そんなもの、ちっとも欲しくない。彼女が求めているのは、時計を贈ってくれるのに相応しい相手だ。たとえそれが、飴玉一つであったとしても。そういう相手がいないのなら、いっそ何もいらない。……二時間後、飛行機はT市に降り立った。到着したのはまだ昼時だった。ホテルに落ち着いた後、絵里は制作スタッフとの食事を断り、一人でホテル近くの店で適当に食べ物を買った。部屋に戻ってからは、その夜は一歩も外に出なかった。翌日、スタッフの段取りで台本の読み合わせが行われ、進行は概ね順調だった。役者たちは絵里と台詞のニュアンスや感情の乗せ方などを熱心に話し合った。コミュニケーションも円滑で、和やかな空気が流れていた。午後六時を過ぎた頃、監督の古川覚(こがわ さとる)が揃って食事に行こうと提案した。絵里は断るつもりだったが、役者たちの熱烈な誘いをむげにもできず、結局は頷くしかなかった。一行は地元の有名店へと足を運び、名物の郷土料理に舌鼓を打った。皆で和気あいあいと歓談し、宴は楽しく進んだ。「絵里さん、この本なら絶対に大ヒットするわ。またいい作品を書いた時は、ぜひ私を呼んでね」主演女優の角倉綾子(すみくら あやこ)が、冗談めかして笑いかける。彼女が口火を切ると、他の役者たちも次々と便乗した。主演男優の神山元紀(こうやま もとき)が感嘆の声を漏らす。
閱讀更多