「どうした?黒崎?なんか良いことがあったのか?」 退勤時、緑川さんに話しかけられる。「いえ、特に何もないんですが……。どうしてですか?」「なんか表情が柔らかいというか……」「そうですか?」 自分では自覚はしていなかった。 ただ、今朝の女の子のことを考えると心が落ち着くような気がする。 それから一週間ほど時間が経った。 あの朝からあの子に会うこともない。 短期間のうちに見かけたのは単なる偶然、そんな風に思っていた。 その日、違う取引先に行っている緑川さんと途中で合流し、次の取引先に向かおうとしていた。 「まだ約束までに時間があるから、珈琲でも飲んで行かないか?おススメの珈琲店があるんだよ」 連れて行ってもらったのは、落ち着いた雰囲気の昔ながらの珈琲専門店だった。 ガヤガヤしているチェーン店のカフェより、こういう雰囲気の店の方が好みだ。「お前、珈琲好きだろ?ここの珈琲、美味いんだよ」 緑川さんの後ろに続いて、店に入る。 「何名様ですか?」「二名です」「こちらへどうぞ」 若い女性店員に案内をされる。 聞いたことがある声、そう思って店員を見ると、この間の彼女だった。 思わず、立ち止まってしまう。「どうした?」 緑川さんに声をかけられる。「いえ……」 席に案内され、注文をする。 緑川さんおススメのブレンド珈琲を注文した。 注文を聞きに来たのは、彼女ではなかった。 思わず、店内にいる彼女を探してしまう。「お待たせいたしました」 珈琲を運んできたのも彼女ではなかった。 ふと前の席を見ると、彼女が注文を聞いていた。 なぜか残念な気分になる。 珈琲を飲んでみると、確かに美味しかった。「美味いだろ?」「はい」 もともと珈琲は好きで自分の家でも飲んでいるが、やはり専門店のようにはいかない。 美味しいと思いながら、ゆっくり珈琲を飲んでいた。 そんな時ーー。 <ガシャン!!>「熱い!」 珈琲カップが床に落ちて割れる音と、男性の悲鳴が聞こえた。 珈琲をこぼした拍子に、カップも床に落としてしまったようだ。「お客様、大丈夫ですか?」 すかさず近くにいた彼女が男性客に声をかけていた。「大丈夫なわけないじゃん。熱いよ。何か持ってきて!」 自分で
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