悠斗が外から入ってきた。いつも表情の乏しい顔に、重い影が差している。足取りは慌ただしく、何かよくない知らせを抱えていることがひと目で分かった。白崎執事はそれを察し、黙ってダイニングを離れた。リビングへ行き、書き終えたばかりのレシピをスマホで撮って莉奈へ送る。悠斗は足早に承也のそばまで来た。「社長、直哉さんの容体がよくありません」……莉奈は朝早く、白崎執事にレシピを頼んでいた。直哉が目を覚まし、二十四時間の峠を越えたら、家に戻ってスープを煮て飲ませるつもりだった。こっそり作って、直哉をびっくりさせてやろう。驚きすぎて言葉も出なくなればいい。莉奈は、自分の料理の腕がひどいことを知っている。もっと正直に言えば、料理の腕などないに等しい。数年前、承也の世話をしていた頃、莉奈はなぜか自信満々に食事を作り、スープを煮込んでいた。承也は毎回食べた。美味しいとも、不味いとも言わなかった。そのせいで莉奈はますます張り切り、ある日、次は千鶴にも作ってあげると言い出した。その時、目の見えなかった承也は莉奈の手を押さえた。冷ややかで澄んだ低い声は、耳に心地よく、それでいて容赦がなかった。「俺ひとりを犠牲にするだけでは足りないのか」莉奈はあとで自分の作った料理を一口食べて、ようやく知った。自分の料理が、どれほど飲み込むのもつらい代物だったのかを。莉奈がぼんやりと思い出に沈んでいた時、直哉のベッド脇から、突然生体情報モニターの警報音が鳴り響いた。莉奈は病室へ飛び込んだ。医師や看護師が慌ただしく駆けつけ、直哉のベッドを取り囲む。「血圧が急激に下がっています。ショック状態です。腹腔内出血の可能性があります」莉奈は全身が氷のように冷えていくのを感じ、その場に立ち尽くした。身体の横に垂れた手から、スマホが落ちそうになる。画面は明るく点いていた。白崎執事から届いた滋養のあるスープのレシピが、そこに表示されている。莉奈はぼんやりと、直哉のベッドを囲む医療スタッフたちを見つめた。彼らは直哉をストレッチャーごと病室から押し出し、どこかへ運んでいく。――直哉をどこへ連れていくの?昨日はまだ話せた。私を安心させようとしてくれたのに。莉奈は魂が抜けたように後を追った。救急処置室の外で、時哉の秘書が莉奈を止める。「医師
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