全員の意識が主屋の火に向いていた。その隙に、誰かがそっと車へ乗り込んだことに気づく者はいなかった。莉奈はエンジンをかけた。ドアを閉める直前、将軍が運転席へ飛び乗り、そのまま助手席へ移って、胸を張るようにきちんと座った。車が動き出した瞬間、エンジン音は消火作業の喧騒に紛れた。莉奈はハンドルを強く握った。前方には見張りの詰め所がある。あそこを抜ければ、もう誰も莉奈を止められない。だが、詰め所にいたボディーガードたちは、フロントガラス越しに莉奈を認めると、すぐに全員で飛び出してきた。「将軍!」莉奈は速度を落とす一瞬の隙にドアを開けた。将軍は弾かれたように車から飛び降り、激しく吠えながら数人のボディーガードへ向かって駆けていく。「ワンッ!ワンワンッ!」将軍が切り開いてくれた隙を逃さず、莉奈はアクセルを最後まで踏み込んだ。車は放たれた矢のように、詰め所の脇をすり抜けていく。莉奈はバックミラーを一度だけ見た。将軍はまだ莉奈のために時間を稼いでいる。あの人たちは将軍の顔を知っているから、むやみに傷つけることはないはずだ。そう思い、莉奈は視線を前へ戻した。車は見張りの詰め所を遠く後ろへ置き去りにした。角を曲がれば、外へ続く並木道に出る。その時、莉奈のハンドルを握る手にぎゅっと力が入った。並木道の向こう側に、五台の車が停まっていた。進路を、完全に塞いでいる。五分前。莉奈が車を動かして逃げ出した時、主屋の一階にある大きな窓辺で、漆黒の瞳が車の去っていく方向を静かに見つめていたことに、莉奈は気づいていなかった。将軍が承也に向かって吠えた時、その身体が承也のズボンの裾に触れた。承也が将軍の毛の間へ指を入れると、そこはかすかに湿っていた。火の勢いが増せば、建物の中の温度も上がる。二階から一階へ下りてくるあいだに、濡れた毛はほとんど乾いてしまう。それなのに毛が濡れているということは、火が大きくなる直前に水をかけられた証拠だ。犬の毛を濡らすほどの余裕と冷静さがある人間が、火事の現場から逃げ出せないはずがない。答えは一つだった。莉奈は別の場所から逃げたのだ。並木道で、莉奈は行く手を塞ぐ車と、そのそばに立つボディーガードたちを見つめた。心が一気に底へ沈む。承也の手の者だ。別の道から回り込んで、莉奈を待ち構えていたのだ。背
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