浩平は、承也が剥がした傷跡の特殊メイクを軽く放るようにゴミ箱へ捨てるのを見て、理由もなくまた腹が立ってきた。――信じてくれる人がいれば、それで十分だ。承也の、すべてを見透かした上で何ひとつ意に介していないような余裕のある態度が、どうにも癇に障る。「そりゃ、君を信じてる人間はいるだろうよ。美月が君に連絡がつかないって、俺のところに電話してきたんだ。君がそんなことをするはずがないってな。いやあ、無条件で信じてくれる人がいて、さぞ気分がいいだろうな」浩平はこらえきれず、皮肉っぽく言った。「俺には関係ない」承也は取り合わなかった。立ち上がって蛇口をひねり、顔を洗う。水滴が鋭い顎の線を伝い、洗面台へ落ちていった。その脳裏に、ある光景がよぎる。助手席に座った莉奈が、温かい牛乳の入ったタンブラーを両手で包み込み、ゆっくりと、けれど揺るぎない声で口にした言葉。――あの人は、そんなことしない。背後で、浩平がさらに煽る。「君、あの子が電話で何て言ったか知らないだろ。もし君が濡れ衣を着せられて牢に入ることになっても、一生外で待ってるってさ」――あの人には、今回の危機を乗り越える力があると分かっている。助手席に座っていた莉奈の言葉が、まだ耳の奥に残っている。ふいに、承也は両手を洗面台の縁についた。ゆっくりと目を上げ、鏡越しに浩平を見る。「美月に話したのか」浩平は承也の深く鋭い目とぶつかり、今がふざけていい場面ではないとすぐに悟った。さっきまでの軽さも、皮肉めいた口調も消える。浩平は冷静に答えた。「言ってない」浩平は、承也の何年経っても変わらない冷たい顔をからかうのが好きだった。取り乱すところを見たかったのだ。この数年で、承也が分かりやすく怒ったところを見られたのは、あの島で、直哉に嫉妬しているのかとからかった時くらいだった。だが、からかうのはからかう時だけだ。真面目にすべき場面で、浩平は決して適当なことをしない。「誰にも漏らすなって君が言ったんだ。俺が美月に話すわけないだろ」浩平にとって、美月はかつて承也を救った女というだけだった。それ以上でも、それ以下でもない。しかも美月が人を雇って莉奈を殺そうとしたと知ってからは、彼女の声を聞くことすらうんざりしていた。耳が汚れる気がした。それから浩
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