白と黒とグレーで統一された広い部屋で、承也の左ポケットのスマホが震えた。茶碗の飯は空になり、皿の料理は半分ほど減っていた。承也は箸を置いた。口元から剥がした特殊メイクの偽の傷痕が、そのすぐそばに置かれている。口角に貼りついていたその傷痕のせいで、食事をするだけでも口がほとんど開かなかったのだ。悠斗は仕事が堅実だ。だが、ときどき妙なところまでやりすぎる。それでも、ここまで徹底されると、承也も文句のつけようがなかった。承也はスマホを取り出し、表示された名前を見た瞬間、目つきがすっと沈んだ。昨日の一件が起きてから今まで、相手から初めてかかってきた電話だった。親指で画面をスワイプし、承也はいつも通りの声で電話に出た。「叔父さん」電話の向こうから、椎名景仁(しいな かげひと)の穏やかな声が聞こえた。「昼飯は食ったか」承也は短く返した。「ああ」今、椎名邸に常住している椎名家の人間は景仁だけだった。亡き父の実の弟であり、承也にとって血の繋がった本当の叔父でもある。その性格は、この家の中でもっとも温厚だった。情であれ義理であれ、承也もあまり冷酷な真似はしたくなかった。だが景仁には、会社を切り盛りする能力はあっても、子を真っ当に育てる能力はなかった。「尚南のことで、口利きでも頼むつもりですか」景仁の手が、スマホを握ったままかすかに震えた。景仁は一晩中、眠れなかった。これまでの尚南への接し方を振り返るたび、恥と悔いで胸が塞がった。とりわけ、尚南が椎名家の名を汚すような凶行をしでかした昨夜は、先祖の位牌の前に膝をつき、ただひたすらに頭を下げた。景仁は琴音にも言った。尚南は椎名家の面汚しであり、一族の恥だと。この件には誰も手を出してはならない、最初からあんな息子はいなかったものと思うしかないのだと。だが琴音は、人づてに拘束施設での尚南の様子を探らせていた。そして今朝早く景仁へ電話をかけ、泣き声を必死にこらえながら告げたのだ。尚南は高熱を出して意識を失い、全身にひどい傷を負っている、どうか承也に頼んでくれないか、と。夫婦の形はすでに冷え切っていても、尚南が二人の子であることに変わりはない。息子を思う親心は同じだった。父親として、自分の子がそこまで惨い目に遭っていると聞かされて、平然としていられるはずがなかった。
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