飛行機が着陸し、ロビーに降り立った哉治は、無意識に辺りを見渡した。だが、そこには見慣れた人影などどこにもなかった。以前なら、心美は必ず早めに空港へ駆けつけ、人混みの中でも一目でわかる場所に立っていたものだ。そして、彼が反応する間もなく駆け寄り、力いっぱい抱きついてきた。胸の奥に、得体の知れない寂寥感がふわりと湧き上がった。隣にいた詩織は、彼の視線の揺らぎも、わずかな情緒の変化も見逃さなかった。だが、彼女は何も口にしない。その瞳の奥に計り知れない思惑を秘め、何かを画策しているようだった。半月ぶりの帰国後、山積していた仕事を片付け、哉治が屋敷に戻ったのはさらに三日後のことだった。玄関に着くなり、彼は疲れた様子で眉間を指先で揉んだ。執事が歩み寄り、スリッパを差し出す。だが、それは彼がいつも愛用しているものではなかった。名家という誇り高い家柄に育った哉治は、幼い頃から、自分の嗜好を容易に露わにすべきではないと厳格に教え込まれてきた。表向きは温厚で礼儀正しく、仕事では一切の隙を見せず、非情なまでの決断を下す。彼は常に仮面を被り、剥き出しの自分をその奥に隠し続けてきた。この数年、そんな彼の本質を真に理解していたのは心美だけだった。彼女は驚くほど察しの良い女性だ。結婚してからの三年間、彼の身の回りの世話を完璧にこなし、何一つ口に出さずとも、彼の好みを隅々まで把握していた。例えば、たかが一足のスリッパにしてもそうだ。全く同じデザインの色違いが並んでいても、彼が薄紫の一足だけを偏愛していることなど、彼女以外の誰も知る由もなかった。哉治は数秒ほど呆然とした後、我に返った。表情を引き締め、手渡されたスリッパを履きながら、何気なさを装って尋ねた。「心美はまだ戻られないのか?」「はい、まだ左様でございます」執事の答えに、哉治は再び言葉を失った。数えてみれば、もう二十日が経過している。ふと、ある懸念が哉治の脳裏をよぎった。出張の翌日は、提出済みの離婚届が正式に受理され、すべての事務手続きが完了してしまう最終期限日だったはずだ。もし、彼女があの日家を出たまま戻っていないのだとすれば、離婚の取り下げの手続きに行っていないのではないか。そこまで考えが至った瞬間、哉治は言いようのない焦燥に駆られた。心美と離婚す
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