「あなたに、あの子の名を呼ぶ資格なんてない!」心美は絞り出すような声で叫んだ。娘を失ったことは、彼女の人生において決して癒えることのない最大の傷だった。その名を愛娘を死に追いやった男の口から聞かされて、平然としていられるはずがない。「私をどう陥れようと、どれほど辱めようと構わないわ。でも、あの子を殺したのは……あなたと詩織よ!人殺しのあなたに、あの子の名前を呼ぶ資格なんてない」目の前でなりふり構わず感情を爆発させる彼女の姿に、哉治の胸は締め付けられるような激痛に支配された。「僕と一緒に帰ろう。やり直せばいい。子供ならまた作ればいいじゃないか。それに、以前のことは全て調べがついた。僕の誤解だったんだ……心美、本当にすまない」これほどまでにプライドを捨て、なりふり構わず下手に出る自分に、彼自身ですら想像し得なかったことだ。「詩織が君をプールに突き落としたことも分かっている。彼女にはもう、相応の報いを受けさせたから」心美は鼻で笑った。「報い?笑わせないで。どうせ、言葉で少し窘めた程度でしょう?沢田さん、私はもう吹っ切れたの。あなたへの想いも、過去のすべてに関してもね」彼女は涙を拭い、冷徹に言い放つ。「以前のことはもう不問にするわ。でも、またあそこに戻って、あなたたちに踏みにじられるなんて真っ平よ。詩織と仲良く暮らせばいいじゃない。あの子と同じ『秋』なんて名前の子を、何人でも授かればいいわ」「違う、秋じゃないんだ」哉治は焦燥に駆られて説明した。「ただの季節の『秋』なんかじゃないんだ。麦の『穂』……あの実りの『穂』なんだよ」心美は顔を上げ、疑念に満ちた眼差しを向けた。哉治は自嘲気味に微笑んだ。「あの年のデザインコンクールを覚えているかい?君が大賞を獲った時のモチーフが麦の穂だった。君の妊娠が分かったとき、僕は迷わずあの子を『穂』と名付けたんだ」心美はそれ以上、何も言わなかった。ただ、虚ろな瞳で、ふらふらと店を出ていった。亮智はたまらず駆け寄り、今にも崩れ落ちそうな心美をその腕で抱きとめた。愛しい彼女の変わり果てた姿への痛切な想いと、煮え繰り返るような憤りが混ざり合い、彼は追いかけてきた哉治を射抜くような眼差しで睨みつけた。「さっさと消えろ」もし心美に「自分の手で決着をつける」と
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