湊が凪をかばうのはいつものことだ。もう慣れっこで、悲しみも湧かない。けれど今回は動かぬ証拠がある。簡単には引き下がらない。「綾さんを助けるためだけじゃない。念花の威厳を守るためでもある。中野グループがうちの社員をゴミのように扱うなんて、断じて許されない。綾さんが寝食を惜しんでプロジェクトを進めていたのに、恩を仇で返されるなんて。念花として、もう黙って見過ごすわけにはいかない!」樹は激怒し、青筋を立てて拳を握りしめていた。「太田、録音データを中野会長に送れ」裕也が戸惑いながら忠告した。「社長、中野会長は今、調査中なので……」「なら中野社長に送りつけろ。1時間以内に説明と対処法を持って来い。ここで待っている」樹はベストを脱いで裕也に投げ、綾の向かいに腰を下ろした。「解決案が出ても公表する。中野グループの不正も全部暴いてやる。思い切り鬱憤を晴らしてやるからな」「本当にありがとうございます。心強いです」綾は心から感謝した。もし樹の圧力がなかったら、中野グループは事態を隠蔽していただろう。録音を送って間もなく、綾のスマホが鳴った。湊からの着信だ。綾がスマホを差し出すと、樹がそれに出た。「綾、お前の潔白は証明されただろう。凪は俺のために魔が差したんだ。俺に免じて許してやってくれないか?公になれば俺の評判も下がる。俺への協力だと思ってさ」湊は優しい声で話していたが、言葉の端々から凪をかばう気持ちが透けていた。その言い草に、樹は険しい表情で綾を見た。「どうしてこんな恥知らずな夫と一緒になったんだ」という呆れた眼差しだった。「それが中野社長の言い訳ですか?」電話越しに樹の声を聞いた湊の表情が一瞬で凍りついた。「杉本社長、妻と代わってください」「横にいるよ。でも、その申し出はお断りだわ」綾は冷静に返した。もう湊のために犠牲になりすぎた。潮時という言葉があるのに、湊はどこまでも強欲だ。湊は穏やかな口調で言った。「綾、俺たちは夫婦なんだ。何事も家で話そう。赤の他人に迷惑をかけるな」「これは夫婦の私事ではなく、公事よ。念花グループに関わることだから、杉本おじさんにも口を出す権利があるわ。凪を引き渡して謝罪させれば、あなたは何も失わずに済む。そんなに難しい話じゃないでしょ?」綾は両手
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