綾は親しい人もおらず、目立たないように隅で静かに過ごしていた。ケーキ入刀の時間になり、主役が恭平のエスコートで、優雅に螺旋階段を降りてきた。綾が顔を上げた瞬間、体が凍りついた。高橋凛(たかはし りん)?「皆さん、私の大切な親友――凛の誕生日を、盛大にお祝いしましょう!」甲高いその声の主は凪だった。自分の従姉が、凪と親友だなんて。「お、綾ちゃん。久しぶりだな」下品な笑い声とともに、深緑のストライプスーツを着た男が近づいてきた。綾は眉をひそめた。見た瞬間に思い出した。高木充(たかぎ みつる)。高校の時の一つ上の先輩だ。かつて自分が受けたいじめの主犯格が、目の前にいる。「綾ちゃん、相変わらずいい女だな。あのとき俺がもう少しうまくやってたら、最初は俺のものだったかもしれないのにな」充は下卑た笑みを浮かべてそう言った。吐き気をこらえながら、綾は尋ねた。「なんでここにいるの?」「もちろん、友達の誕生日を祝いに来たのさ」充は勝ち誇ったように笑った。綾の中で、すべてが繋がった。「あのいじめ、凛の指示だったのね?」誰にでも優しくしてきた自分が、なぜあれほどの憎悪を買ったのか、ずっと分からなかった。一時は、充たちに命すら脅かされるほどの危機もあった。あの時、健吾がいなければ、今頃どうなっていたか分からない。「お前が凛のお父さんの人生を壊したんだ。凛はあれでも手加減してたんだぞ」充は低い声で、綾の耳元に顔を寄せてきた。「それと、お前の顔が昔からずっと俺のタイプでさ。今でも夢に出てくるよ」綾が逃げようとしたが、数人の男に囲まれ、人の目から遮られてしまった。「綾ちゃん、元気にしてたか?」「久しぶり。俺たちのこと、忘れたなんて言わせないぞ」その顔ぶれは、かつてのいじめの参加者そのものだった。一生忘れることのない、悪夢のような顔だ。昏く絶望的な記憶が蘇り、抑えていた怒りが心の奥で爆発しそうだった。それと同時に、口は乾き、体中に火照るような熱さが広がっていた。飲んだのは、一口だけだったのに……綾は悟った。このパーティーそのものが、かつての悪夢を再現する罠だったのだと。15歳の時に感じた恐怖が、津波のように襲いかかってきた。赤らんだ綾の頬を見て、充の欲望は隠しきれなくな
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