「それに、あなた方もです。権威ある研究誌で名前を見たことがないし、一体どなたなのわかりませんが。学術界で何の実績もないのに、私を貶める権利はないと思います」言い終えると、綾は視線を戻して背筋を伸ばした。男たちは顔を真っ赤にして憤慨していたが、反論はできなかった。彼らは自分の能力がないのではなく、ただチャンスがないだけだと信じ込みたかったのだ。そこへ、スタッフの一人が近寄ってきた。「誠に申し訳ございませんが、席を後ろに移動していただけますでしょうか?」2列目には名前プレートがなく案内もなかったが、そこは本来、VIPのための席だった。男の一人が咎めるように言った。「なぜです?」「ここは、私の席なのでね」高齢ながらも威厳ある声が響いた。男たちは相手を見るなり、慌てて立ち上がった。「先生……まさか、お越しになるとは存じませんでした」「綾さんは私の誇らしい弟子で、来ないわけがないよ」もともと控えめに後ろへ座るつもりだった亮太は、男たちのさっきの言葉を聞いて、いたたまれないほど恥ずかしくなった。できることなら、この男たちが自分の教え子であることを認めたくもなかった。「君たちがいつか、綾さんと同じような功績をあげることができたなら、その時は私も駆けつけよう」男たちは気まずそうに顔を見合わせ、言われるままに後方の席へと移動した。亮太は科学界の権威であり、多くの門下生を抱える泰斗である。どれだけ不満があろうと、亮太の前で醜態をさらすことはできなかった。美羽は、その光景を穏やかな笑みで見守った。綾には家族を離れ、社会へ出るべきだと分かっていたからだ。本来は安らぎの場であるはずの家が、綾にとって一番の孤立無援の場所だったのだから。皮肉にも社会に出たことで、綾は本物の支援者を得ることができた。樹や亮太は、社会において揺るぎない地位と影響力を持つ人物だ。彼らに守られている限り、綾が酷い目にあわされる心配はない。健吾は、スタッフの先頭への案内を辞退し、最後列の隅の席にひっそりと座った。ここに座る綾は、夜空に浮かぶ清らかな満月のように輝いていた。これこそが、綾本来の姿だ。湊はいつも通り暗いオーラを漂わせ、綾の斜め後ろで今にも消え入りそうな影のように佇んでいた。輝く綾を見て、心の中には得
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