Todos los capítulos de 初恋と付き合ったら、車椅子の元夫が立ち上がった: Capítulo 781 - Capítulo 790

823 Capítulos

第781話

綾は小さく頷いた。誠は自分と湊の付き添いで来ただけだ。彼がつまらなそうにしていれば、自分が遊んでいても心から楽しめない。別荘に戻ると、綾は2階のテラスの手すりにもたれかかり、明里にビデオ通話をかけた。画面の向こうの明里は羨ましそうに溜息をつく。「明日から家族で帰省なんだよ。同世代の親戚が一人もいなくて、退屈で仕方ないんだよね」綾は笑って慰めた。「お土産を買ってきてあげるから。東都でいい子にして待ってて」口元は微笑んでいたが、綾の胸は少し切なく沈んだ。明里は綾が海辺のバカンスを楽しんでいることを羨んだ。だが、綾だって明里が親戚の元へ帰省できることが、たまらなく羨ましかった。綾にだって親戚はいる。でも、その人たちは家族と呼ぶにはあまりに他人行儀すぎたからだ。二人が楽しそうに会話している間、湊は自室のソファに身を沈め、テラスから漏れ聞こえてくる笑い声を聴きながら、眉間に深い皺を刻んでいた。昼間も一緒にいたのに、何故夜になってまた1時間も話すことがあるのか?湊には理解できなかった。1時間以上経って、ようやく綾が通話を終えた。湊はふぅと息をつくとドアを押し開け、偶然通りかかったかのような顔をしてテラスに出た。「まだ起きてたのか?」綾がスマホを揺らして答えた。「今、明里とビデオ通話してたの。聞こえなかった?」「ああ、ヘッドホンをしてたんだ」湊は自然な素振りで頭を掻いてみせた。綾が大きなあくびを漏らし、目尻に涙を浮かべる。「眠くなっちゃった。先に部屋に戻るね。湊も早く寝て」朝から慌ただしく動き、飛行機にも乗った。すでにクタクタに疲れ果てていた。湊は微笑んで、「おやすみ」と告げ、綾を見送った。綾の部屋の灯りが消えたのを見届け、湊はゆっくりと視線を戻すと、テラスの手すりに肘を乗せた。海面にきらめく銀色の月光を見つめながら、先ほど綾が言った「海辺で暮らしたい」という言葉を思い返した。二人とも親はいない。大人になったら、どこで生きても同じだ。もし本当に海辺に定住できたとしたら、それも悪くないかもしれない。だが一方で、そんなことはまだ早すぎると自制する自分もいた。綾はまだ中一だ。学校でクラスメイトから別の面白い話でも聞けば、心変わりする可能性だってある。中学生の頃の自分が、意気揚々と砂漠地域に定住す
Leer más

第782話

綾たち一行は南でしばらく過ごし、冬休みが終わる前に東都へ戻ってきた。和子を囲み、休みの最後を賑やかに過ごした。間もなく、新学期が始まった。そんな中、誠が留学を志願した。向こう2年間は、まず帰国するつもりはないらしい。和子はそれを聞いても特に動じる様子はなく、ブラックカードを一枚手渡すと、淡々と告げた。「外で変なことは覚えないようにね」納得できない湊は動揺を隠せず、声を張り上げた。「家に飛行機代がないわけじゃないだろ。なんでそんなに長い間帰ってこないんだ?」誠の返事はあっさりしたものだった。「飛行機で10時間以上もかかるんだ、面倒だろ。連絡したければビデオ通話でもすればいいだろう」「そういうことじゃないんだ」湊はかつてないほど感情的に反論した。「何度電話したって、画面越しに顔を見たって、直接会うことにはかなわないだろ?」湊の心の中に言葉にならない不安が膨らむ。誠は成長するにつれ、家族よりも外の世界へと歩みを進め、自分たちとの距離も少しずつ遠のいていくような気がしてならなかった。両親を亡くしてから、湊にとっての身内は、和子と誠だけになってしまった。その後、綾が加わり、家の中はようやく賑わいを取り戻したのだ。けれど、誠に対する執着は、父親を慕っていた頃と重なるもので、何者にも代えがたいものだった。誠は湊の頭に手を乗せ、困ったように微笑んだ。「あと2年もすれば大人になるのに。いつまで子供みたいに甘えてるんだ?」誠が留学を望んだのは、結局のところ、中野家を離れたかったからに過ぎない。両親が生きていた頃から、この家の家族関係は少し歪んでいた。理由は分からないが、父は決まって湊を可愛がり、母はあからさまなまでに自分ばかりを愛した。両親が揃っていた時でさえ、家庭には微妙なアンバランスさが常に漂っていた。母のえこひいきのせいで気まずい思いをする湊をフォローし、また湊も気を遣ってくれた。そうして二人は互いを思いやる絆を深めていったのだ。両親の亡きあと、今度は和子が湊へ偏った愛を注ぎ続けた。傷つかなかったと言えば嘘になるが、誠は決して表情には出さなかった。湊は実の弟だ。しかも自分より幼い。そんな相手に焼きもちを焼く理由などないはずだ。さらにその後、綾が家に来てからは、和子の中で自分の存在はますます薄れていった
Leer más

第783話

誠は、「分かった」と答えた。綾は繊細で優しい。自分の感情を瞬時に察し、いつも歩み寄ろうとしてくれる。だからこそ、誠にはあとからこの家に加わった綾に対して、どちらかと言えば愛おしさの方が勝っていた。湊が黙り込んだ。しばらくして、沈んだ声で言った。「兄さんはずっと俺たちの大切な家族だ。だから、家を出ないでくれ」誠は留学するだけだ。数年離れるくらいなら問題ない。心の中に、家族への思いが残っている限りは。誠は呆然とした。抱えてる複雑な思いは隠しているつもりだったからだ。湊と綾にそんな不安まで見抜かれ、自分なりのやり方で必死に引き止めようとしていたことには気づかなかった。誠は不意に微笑んだ。「ただの留学さ。二人だって、将来は留学するかもしれないだろ?」二人を優しくなだめると、誠は車に乗り込み、空港へと向かった。湊は見送ろうとしたが、誠に断られてしまった。湊が道端で誠を乗せた車が小さくなるのを眺めていると、遠ざかっていくにつれて心にぽっかりと穴が開いた。綾が湊の腕を取り、囁くように言った。「大丈夫だよ。誠さんは、湊を置いていったりしない。半年もしたら帰ってくるよ」湊は頷いて、ぎこちなく笑ってみせた。「ああ。綾がいてくれて助かるよ」綾は唇をかんで、話題を変えた。「新学期にテストがあるって担任の先生が言ってたの。成績順でクラス分けがあって、明里のいつもの順位を考えると、私たちは絶対離れちゃうよ」湊はからかうように言った。「別々のクラスでいいんじゃないか?二人が一緒にいるとろくなことにならないし、離れれば綾もトップをキープできるだろう」綾は湊を睨みつけた。トップをキープすることより、明里と同じクラスにいることの方が大切だったのだ。残念なことに、予想は当たってしまった。新学期が始まって1週間後、クラス分けの結果が発表された。綾は成績順で上位クラスに振り分けられ、優秀な生徒ばかりが集まるクラスへ移ることになった。明里は予想通りの成績で、普通のクラスに振り分けられた。上位クラスの授業課題と勉強量は、並大抵ではなかった。昼休みの時間さえ、他のクラスと重ならないよう組まれていた。そのため、下校の短い時間以外、明里と顔を合わせることも難しくなった。上位クラスでの生活で、綾の成績は湊の予想通り、安定してトップをキープした。
Leer más

第784話

誠は、自分を咎める湊の態度にもひるまず、静かに言い返した。「帰りたくないわけじゃない。今はとにかく課題が山積みで……大学受験が終わったら、会いに来てくれ」中野家を離れてずいぶん経つ。誠はあの家に何の未練もなく、放浪にも似た暮らしにもすっかり馴染んでいた。東都へ戻るなんて、考えるだけでも、勇気を振り絞る必要があった。今のこの、やっと手に入れた平穏を壊したくはなかった。自分を苦しめるようなことは、もう少し避けていたい。スマホの向こうで少しの間があり、湊がついに声を荒らげた。「本当に帰る時間がないの?それとも、帰るつもりがないの?」誠の顔が強張った。瞳の奥を濁らせ、低い声で問い詰める。「湊、兄に向かって、その口の利き方は何だ。俺がいない間に、少し甘やかされすぎたんじゃないのか」本能的に兄の威圧感を出してしまったが、言い終えた瞬間に、自分でも大人げない言葉だったことを後悔した。湊は、ただ自分の元に帰ってきてほしいだけなのに。湊は冷ややかに笑い、少年らしい隠しきれない失望を滲ませながら、鋭い視線を向けた。「そうだよ。あんたみたいな無責任な兄貴がいたせいで、俺はこんな人間になったんだ!」綾が、二人の間がピリピリしていることに気づいた。ここで止めなければ、一生の後悔に繋がるような言葉をぶつけ合うことになる。綾は急いで画面を覗き込み、湊を宥める。「誠さん、怒らないでください。湊はあと半年で共通テストなので、学業のプレッシャーがすごくて、情緒が安定していないだけですから」そして綾は湊の脇腹を軽く突っついて、声を潜めた。「そんな刺々しい口調で誠さんと話すのはやめなさい」しかし湊は綾の腕を払いのけると、テレビ電話中のスマホを彼女の手に押し付け、大股で書斎を飛び出した。直後、部屋の外から重い扉を叩きつける音が響く。綾は視線を伏せ、スマホの画面に映る眉間に皺を寄せた誠を見た。「湊は本当に誠さんが帰ってくるのを待ってます。1日か2日だけでもいいから、帰ってきてあげられませんか?」誠はため息をついた。「よく考えてみる。じゃあ、切るよ」スマホを置き、誠はソファに身を沈めて、片手で目を覆った。長男というものは、両親がいなくなれば、誰もが「当たり前に」弟の面倒を見る存在だと見ている。本人もまた、ごく自然にその責任感に縛られてきた。けれ
Leer más

第785話

湧き上がるこの気持ちは、誰にも言えず行き場を失っていた。そのくせ兄は冷たくも優しくもない態度を崩さず、湊は兄に当たり散らすことでしか気持ちをぶつけられなかった。綾はスマホを手に取ると、湊の部屋へと向かった。扉を軽く叩き、穏やかな声で呼びかけた。「湊、スマホを持ってきたよ」扉が開き、湊が現れた。もう落ち着きを取り戻していたが、目元だけが赤く、まるで先ほどまで泣きじゃくっていたかのようだった。スマホを受け取った湊は、自嘲気味に口角を上げた。「綾、俺ってずいぶん幼稚だろ?」誠は何も悪くない。ただ自分の未来を追い求めていただけだ。綾は少し考えた後、首を振った。「そんなことないわ。もし私が誠さんの本当の妹で、彼がずっと海外に行ったきりだったら、私だって湊よりずっと怒ると思うもの」湊は呆気にとられたあと、ふっと笑った。すっかり大人びた綾を見つめるその瞳からは、胸につかえていたわだかまりが静かに消えていった。自分には、いつも綾がいてくれる。綾は賢く優しく、自分を置いていくようなことはしないはずだ。湊は綾を書斎へ招き、いくつかの大学名を書き出した紙を見せた。「この中のどこかにしようと思っているんだ」紙に目を落とした綾の指が、迷うことなく東都中央大学という名の上で止まった。「これが私の目標」湊は微笑んだ。「じゃあ、もう迷うことはないな。今日からこれが、俺の目標にもなるよ」綾なら、一番いい高校に入り、最高の大学に合格できると信じている。東都中央大学は、今の綾なら十分狙える大学だ。綾は小指を差し出し、瞳を輝かせた。「約束よ、湊」湊が孤独を感じなくて済むなら、自分には何だってできる気がした。湊も小指を伸ばし、綾の指を軽く引っかけて微笑んだ。綾の指は温かく細く、荒んでいた湊の心をやさしく繋ぎ止めた。「綾が大学に入学したら、俺は研修で忙しくなる。あまり構ってやれなくなるかもしれないな」綾は首をかしげ、きっぱりと言った。「湊、一緒に過ごせるかなんて関係ないわ。私の両親だって天国にいるけど、いつでも一緒にいるって信じているもの」湊は低く笑い、喉元を少し鳴らした。彼は悟った。綾が自分を励まそうとしているのだと。綾なりの言葉で、自分を慰めているのだ。湊も本当は誠が恋しいのだ。だがそれよりも、海外という遠い地で、
Leer más

第786話

湊は綾の素直な様子を見て、たまらずその髪を撫でた。指先から伝わる柔らかい感触に、心が温まるのを感じる。幼い頃から見てきたこの妹が、この家から離れるはずがない。湊はそう信じていた。新学期が始まると、一人は高校受験、もう一人は大学入学共通テストを控え、綾も湊も必死に勉強漬けの日々を送った。この学期中は、ほとんどの時間を勉強に費やした。湊はたまに友人と自転車で出かけることもあったが、綾は学校と家を行き来するだけの生活を送っていた。自分が何を求めているのか分かっていた綾は、それに向かって全力で突き進むことを厭わなかった。深夜、次々と書き殴った課題ノートを破り捨てる。窓の外からは、街灯に照らされた木の影がゆらゆらと映り込んでいた。そんなふうにしてページをめくるうちに月日は流れ、あっという間に試験の日が近づいてきた。大学入学共通テストを目前に控え、1月中旬には通常授業が終わり、3年生は自宅学習期間に入った。大学入学共通テストが終わった日、綾は運転手と一緒に試験会場まで湊を迎えに行った。木陰で待つ間、心臓がどうしようもなく跳ねる。湊が足取り軽く校門から出てくるのを見て、綾はようやく安堵の息を漏らした。「これで湊も私の先輩だね」綾はそう言って顔をほころばせた。湊は眉を上げ、からかった。「俺は東都中央大学に行くつもりだけど、先輩になれるかどうかは、綾の努力次第だぞ」綾がふんと鼻を鳴らすと、「もちろん大丈夫だよ」と言い返した。高校受験までの日々、綾は毎日のように湊に補習をせがみ、最後の追い込みをかけていた。実際には必要な知識はすべて完璧に身についていたけれど、もっと完璧を目指したかったのだ。湊は嫌な顔一つせず、根気よく彼女に付き合った。勉強を教えるだけでなく、感情を落ち着かせる支えのような存在だった。綾が解けない問題に苛立つと、湊はその額を軽く小突いて冷静さを取り戻させてくれた。綾が落ち込んでいる時は冗談を言って、不安にならないよう励ましてくれた。高校受験の間、湊は毎日試験会場まで同行し、綾が終えるのを待って一緒に帰宅した。その日、雪が降っており、湊はカイロを用意して待っていてくれた。最後の試験が終わった瞬間、張り詰めていた綾の神経は一気にほどけた。湊が肩を抱き寄せ、尋ねる。「お祝いだな。何が食
Leer más

第787話

湊は箸を止め、少し考えてから目に光を宿らせた。「兄さんに会いに行かないか?」綾は心の中で揺れ動いた。湊がずっと誠に会いたがっているのを知っていたからだ。特に予定もなかった綾は、その提案をそのまま受け入れることにした。湊は即断即決だった。朝食をかきこむと、すぐに立ち上がって書斎へと向かった。綾は和子と二人、静かに食べ続けた。普段忙しい和子との貴重な二人きりの時間は、綾にとってかけがえのないものだった。穏やかな表情で食事をする和子を見つめながら、綾も胸に広がるぬくもりを静かに噛み締めていた。和子の車が庭から出て行くのを見送り、ようやく綾も書斎へと向かった。ドアを開けながら問いかける。「誠さんは何て?いつ出発するの?」湊の姿を見て言葉が止まった。彼は椅子に深く寄りかかり、暗い表情を浮かべていた。「来てほしくないって?」綾は声を落として尋ねた。湊は皮肉な笑みを浮かべた。「わざとらしい理由を並べてるだけだ。留学中だから不都合だなんて、俺たちを子供扱いして」綾は湊の隣に腰を下ろし、そっと湊の手に自分の手を重ねた。「忙しいのかもしれないよ。海外での一人暮らしなんて、私たちには分からないことも多いはずだもの」そう口にはしても、内心では誠が自分たちを少しずつ遠ざけようとしているのを感じていた。淡々とした短い電話、他人行儀で丁寧な言い回し。すべてが変化を告げていた。誠は血のつながった兄ではない。けれど、言葉少なく不器用ながら、自分をいつも見守り支えてくれた存在だ。昔、自転車を直してくれたり、雨の日に傘を届けてくれたあの優しい誠が、手の届かない場所へ離れていく。そのことがたまらなく切なかった。それでも綾は湊の前では何も表に出さなかった。誠を思う湊の気持ちが痛いほど分かるからだ。「俺たちのことが嫌いなのか?俺は弟なのに」湊の声はどこまでも低く沈んでいた。返す言葉も見つからず、綾はただ握る手に力を込めた。「人は変わるよ。時間がすべてを変えてしまうから。私たちにできるのは、ただそれを受け入れることだけだよ」両親との別れさえ受け入れてきたのだから、今さら恐れることなどなかった。湊がガバッと顔を上げ、射抜くような鋭い視線で見つめてきた。「綾も、変わるのか?」ドキリとして、綾はすぐに穏やかな笑顔を作った。「どんな
Leer más

第788話

大学入学共通テストの結果が先に出た。湊は、予想通り東都中央大学に見事合格した。1000点満点中、972点という驚異的な高得点だった。湊のお祝いをしているとき、綾は嬉しさの裏で、言い表しがたいプレッシャーを感じていた。自分が失敗して、和子や湊をがっかりさせるんじゃないかと不安だったからだ。ほどなくして、綾の中学卒業後の進路結果も出た。綾の心配は取り越し苦労で、希望通り東都のトップ高校への進学が決まった。ただ一つ残念だったのは、明里の結果が振るわず、両親の意向で国際高校へ進むことになった点だ。合格した喜びは、親友と離ればなれになる寂しさでほとんど消えてしまった。街へ出かけた時、綾の様子をすぐに見抜いた明里は、腕を組みながら軽々しくこう言った。「別の学校に行くだけよ。同じ東都にいるんだから、週末になれば遊べるわ」綾は明里の首に両腕を回してすがりつくと、切なげに訴えた。「私、友達作りなんて得意じゃないの。明里がいなかったら、高校で友達なんて絶対にできない。そう考えただけで苦しくなるよ」それは甘えではなく、心からの叫びだった。綾はよく分かっていた。自分と明里がこれほど仲良くなれたのは、当時の明里がぐいぐい距離を詰めてきたおかげなのだと。幼稚園のころ、隅でうずくまっていた綾に、明里が真っ先に駆け寄って、「水飲む?それともすべり台で遊ぶ?」と話しかけてくれたのが始まりだった。食事の時もわざわざ隣の席に座り、自分のスプーンで綾に食べさせようとしたものだ。その後、両家の配慮で小学校も同じクラスとなり、親たちが「血のつながっていない姉妹だね」とからかうほどの仲になった。しかし両親の事故後、綾が千佳の家に引き取られると状況が一変した。千佳は綾が精神的に不安定だと決めつけて、勝手に学校へ休学届を出したのだ。当時の綾にとって、両親の死以上に、親友を失うことがなにより辛かった。もう一生、明里には会えないと思い込んでいた。絶望の中にいた時、和子が綾を中野家に引き取ってくれた。進路を相談した際、綾は勇気を出して、明里ともう一度同じ学校へ通いたいと打ち明けた。和子は何のためらいもなく綾を以前のクラスに戻してくれた。おかげで、また明里と同じクラスに戻ることができたのだ。親のいない綾は周囲から孤立しがちだが、明里がいるお
Leer más

第789話

明里は綾を花市に連れて行き、「これは綾のお母さんが好きだった花よ」と教え、彩花が生前好きだった花や鳥の話をよく聞かせてくれた。明里は他の人のように、亡くなった綾の両親を腫れ物のように扱うことはなかった。明里はいつも自然体で、まるで二人が今もそこにいるかのように話した。「昆虫は鳥の餌でしょ。だから綾のお父さんもお母さんにいいようにされてたんだね」なんて冗談も時々言った。綾は両親を想うたびに切なくもなるが、明里のおかげで胸に広がるのは悲しみよりも温かさと幸福感だった。世界に自分と同じくらい両親の好みを知り、その思い出をずっと大切に覚えてくれている人がいるのだ。綾にとって明里は、親友以上の、何ものにも代えがたい大切な存在だった。明里は綾の背中をポンポンと叩き、幼い子をあやすように優しく言った。「バカね。綾は可愛いし性格もいいんだから、高校に行ってもすぐに人気者になれるよ」そうして明里はわざと溜息をついた。「中学までは私のせいね。私の周りには喧嘩っ早い不良が多かったから、そのせいでみんな怖がって綾に近づけなかったの。本当はみんな綾と仲良くなりたかったのよ」綾はパッと顔を上げ、真剣な眼差しで言い返した。「そんなこと言わないで。たとえ新しい友達ができたとしても、私には明里しかいない。世界で一番の親友だよ」明里はきょとんとした後、今にも泣きそうな顔で溶けるような笑みを浮かべた。「約束よ!私にとっても、綾は親と同じくらい大切な存在なんだから」二人は寄り添い、お互いに一生の絆を誓った。社会をまだ何も知らない二人は、自分たちの友情が絶対に壊れないと信じ、若さゆえの真っ直ぐな言葉で未来を語った。二人は自分自身を信じ、それ以上に相手を強く信じていた。綾は心の中でそっと決意した。もし自分たちの友情が崩れるとしたら、それは絶対に自分がひどいことをしてしまった時だ、と。そんな事態は、何があっても起こしてはいけない。その春休み、綾は塾にも通わず、毎日を明里と一緒に過ごした。二人でバスの終点まで乗り、窓側の座席で頭を寄せ合い、同じイヤホンで曲を聴き続けた。一本のイヤホンが繋ぐその距離感で、二人は曲の世界と感情を共有した。まるで青春ドラマのヒロインになったつもりで、周囲の視線も気にせず大笑いをした。家で一緒にラブストーリー
Leer más

第790話

中学校最後のお休みも、あっという間に終わった。湊はもう授業が始まっていたが、綾の入学初日のため、わざわざ午前休を取って付き添ってくれた。綾としてはそこまで特別なことではないと思っていた。高校は家から通うし、夜間自習があるわけでもない。中学と変わらず、普通に家へ帰る生活だ。運転手が学校近くの駐車場に車を止めると、綾はカバンを背負って車を降りようとした。「湊、大学に戻って。私、もう行くから」湊は学校の中まで送ると、しつこいほどに繰り返した。「ちゃんとご飯食べて、水も飲めよ」「分かったから!早く戻らないと遅刻するよ」綾は手を振り、湊を追い払った。学費はすでに納付済みのため、そのままクラスへ向かった。綾はトップクラスであるAクラスに入っていた。教室はすでに騒がしかった。以前からの知り合い同士が笑い合っていて、初対面の人たちが活発に挨拶を交わしている。綾は窓際の席を選んで座った。静かにしていると、誰も話しかけてこなかった。極度の人見知りの綾は、殻に閉じこもるカタツムリのようで、自分から誰かに近づくなんてとてもできなかった。一限目のホームルームで担任が校則や留意点を説明し、続いて自己紹介の時間になった。「最初に発表したい人はいますか?いなければ指名しましょう」綾はすぐに頭を下げ、心の中で、自分じゃないようにと強く願った。人前に立つことが大の苦手で、いきなり当てられるのが何より怖かったからだ。とはいえ、綾のような人見知りがいるように、当然、誰とでもすぐ仲良くなれる社交的な人もいる。「皆さん、こんにちは……」教壇から聞こえてきた耳馴染みのある声に、綾の呼吸が一瞬止まった。ゆっくりと顔を上げると、記憶の中の曖昧だった顔立ちがくっきりと浮かび上がった。千佳の娘であり、従姉の凛だった。千佳に追い出されて以来、向こうとは一切の連絡を絶っていた。和子も、「もう二度とあんな人たちには関わらせない」と言っていたのだ。なのに、突然同じクラスになってしまった。綾は呆然としたが、次の瞬間、身体に染みついた恐怖が反射的によみがえり、全身が強張った。千佳の家に預けられていた半年間は、まさに地獄だった。その間に味わった苦しみも、耐え抜いた日々も、すべて凛が仕組んだことだった。凛は綾を小さな部屋に閉じ込め、外か
Leer más
ANTERIOR
1
...
7778798081
...
83
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status