Todos los capítulos de 初恋と付き合ったら、車椅子の元夫が立ち上がった: Capítulo 761 - Capítulo 770

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第761話

ビアンカも夜更かしは厳禁。ソフィアに付き添われて寝室へ向かった。冬馬は高齢のため年越しのカウントダウンはせず、リビングには静けさが広がっていった。最後に残ったのは、綾と健吾の二人だけだった。「健吾、私もう限界みたい。先に休むわ」綾は階段のたもとで足を止め、ソファに座る健吾を振り返った。ふと視線が合った。相手の瞳には熱が宿っていて、どれほどの時間ずっと見つめられていたのだろう。綾は口角を上げ、少し赤くなった頬で笑った。「ねえ、健吾。私と一緒に、部屋で年越ししてくれない?」綾が言い終わるか終わらないかのうちに、健吾は静かに立ち上がり、一歩ずつこちらへ歩いてくる。近づくにつれ、彼の放つ気配が空気さえ熱く変えていくようだった。健吾は突然身を屈めると、綾をひょいと肩に担ぎ上げた。綾は思わず健吾の首に腕を回した。衣類越しに伝わる肩の筋肉は驚くほど熱く、力強かった。健吾はふらつくことなく階段を上がり、二人がかつて過ごした寝室へ入ると、鍵をしっかりと閉めた。カチリ、と響いた鍵の音は、静かな部屋の中で異常なほど大きく聞こえた。そして健吾は、綾をベッドに投げ出すようにして覆いかぶさった。ベッドの上で仰向けになった綾は、健吾の青い瞳と視線を絡ませる。その瞳に宿るのは、獲物を見つけた猛獣のような、ひた隠しにしてきた深い欲求だった。綾は視線を逸らさず、真っすぐ見つめ返した。その瞳には隠しきれない熱が宿っていた。すぐ近くで重なる呼吸。顔の距離は、ますます近くなる。時計が新年を告げる鐘の音とともに、二人は再び結ばれた。あまりに長く我慢しすぎていた分、溢れ出した思いはもう止めようもなかった。抱え続けてきた想いも、募らせてきた寂しさも、この長い夜の中で少しずつほどけていった。真っ暗な空が深い群青色へ変わる頃、ようやく健吾は力を使い果たした綾を抱え上げ、バスルームへ向かった。あれこれと過ごした後、再びベッドに戻る頃には、空はすでに薄明るくなっていた。健吾はスイッチ一つでカーテンを閉め、朝の光をシャットアウトする。そして、横たわった綾を強く抱きしめ、自分のあごをその頭の上にそっと置いた。「疲れただろう。ゆっくり眠れ」低くハスキーな声には、愛おしさが滲んでいる。綾は健吾の胸の中に顔を埋め、火照った肌の温
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第762話

凍りつく冬の夜、東都の街角では、冷たい風が狼のように唸りを上げていた。8歳の少女は、裸足のまま寒さに震えて隅に縮こまっていた。赤くなった頬には、乾いた涙の跡が痛々しく残っている。どこへ行けばいいのか分からない。親戚には「悪い子だから、誰にも引き取られない」と突き放されたのだ。意識が遠のく中、暖かい光に包まれた両親が迎えに来てくれたような気がした。でも、もう体は芯まで冷えきり、両足の感覚はすでになかった。ついに、少女は目を開ける力すら尽きてしまった。その時、遠くから必死に名前を呼ぶ声が近づいてきて、温かな腕が少女の体を引き上げた。次の瞬間、凍える寒さが消え、心地よいぬくもりに包まれていく。目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。50代くらいの女性がそばに座り、胸を痛めた表情でこちらを見つめている。「おばあさん……」綾は枯れた声で震えるように呟いた。和子は優しく応え、凍えて腫れ上がった小さな手を握った。「覚えていてくれたのね」綾は小さくうなずいた。「パパとママの、先生ですよね」和子は綾の頬を優しく撫でた。「あなたの両親と同じくらい賢い子ね」和子は綾のやつれた顔を見つめ、胸の奥が締め付けられるのを感じた。かつての教え子だった二人が事故で亡くなり、その娘の綾は親戚に引き取られたと聞いていた。新しい家庭で、穏やかな日々を送っているものだとばかり思っていたのだ。しかし、他の生徒から綾が虐げられているという話を聞いた。和子が慌てて駆けつけると、親戚の女性は悪びれもせず、綾が勝手に飛び出したから探しもしなかったなどと言い放った。もし自分が早く見つけていなければ、綾はそのまま路上で凍死していただろう。両親の死からまだ半年しか経っていないのに、遺された子がこんな惨状にある現実に、和子の胸は張り裂けそうだった。「綾ちゃん。私と一緒に住まない?これからは一緒に暮らすのよ」痩せ細った、綾の黒い瞳には、まだ深い戸惑いと恐怖が宿っていた。身を縮めながら、綾は小さな声で訴えた。「私、泥棒じゃないです……悪いことしませんから」和子は胸が張り裂けそうになり、怒りと涙をぐっと飲み込みながら、綾をそっと抱きしめた。「分かっているわ。そんなの嘘よ。あんな悪い人たちに負けちゃいけない」当時、綾の両親が急
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第763話

綾はこっそり和子を見て、何度も唇を震わせてから、小さな声で言った。「お家には、行けません」パパやママ、そして伯父を死なせてしまったみたいに、これ以上、他の人まで巻き込みたくなかったからだ。和子は少し戸惑った様子で、優しく問いかけた。「私と住むのは嫌かしら?お家には二人の男の子もいるのよ。一緒に遊べるわ」綾は下唇を噛み締め、しばらく沈黙したのち、思い切って告白した。「私は疫病神だから、お家の人まで不幸にしちゃいます」和子は呆然として、すぐにその言葉の意味を理解した。驚きよりも先に、胸を締め付けられるような切なさがこみ上げた。この8歳の子が、過去半年間でどれほどの傷を負ってきたら、一人ですべての罪を背負おうとするのか?それを考えると、胸が潰れそうだった。「そんなことないわ。綾ちゃんは誰も不幸になんかさせない」和子はその小さな背中を優しくさすり、毅然とした声で言い聞かせた。「うちに来てくれたら、幸せを運んできてくれるだけよ。うちには、あなたみたいな小さな福の神が必要なの。私のお願い、聞いてくれる?」この人は、パパやママの先生だ。そんな人が嘘をつくはずがない。綾は和子の真剣な眼差しを見て、小さな声で、「うん」と頷いた。退院の日、和子は新しい服に靴、手袋やマフラー、それに帽子まで揃えてくれた。綾はふわふわのマフラーに触れながら、戸惑いを隠せなかった。自分だけの新しい服をもらうのは、ずいぶん久しぶりだったからだ。中野家の屋敷に着いて車を降りると、話に聞いていた二人の兄弟が駆け寄ってきた。背の高い方と低い方。どちらも肌が白くて、驚くほど美しかった。「こちらがお兄ちゃんの誠。こっちが弟の湊よ」和子はさらに二人に重々しく言い含めた。「今日からこの子はうちの家族よ。しっかりと守ってあげなさい。分かった?」二人は、「分かりました」と返したが、綾にはどうしても近づき難かった。凜のように、さっきまで笑っていたのに、次の瞬間には冷たい態度が変わって、からかったりいじめたりするんじゃないかと怖かったからだ。中野家に来た初日、綾はほとんど口を開かなかった。和子は仕事で忙しく、綾は二人の兄と一緒に過ごすことになった。綾が話しかけない以上、二人からも特に近づいてくることはなかった。年長の誠は落ち着いた様子で、静かに本を
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第764話

綾は頭から布団を被り、ウサギのぬいぐるみをきつく抱きしめていた。ドアが静かに開いた音にも気づかなかった。その時、被っていた布団が勢いよく剥ぎ取られた。「あ!」驚いて声を上げ、綾は身をすくませた。「しーっ」湊は人差し指を口に当てて、綾の顔をのぞき込んだ。「こっそり泣いてるんじゃないかと思ってさ」綾は鼻をすすり、涙に潤んだ瞳で湊を見つめた。まつ毛には涙の粒が残っている。鼻にかかった声で、「何……」と尋ねた。湊は答えず、ベッドの反対側へ回り込むと、布団の端をめくって自然な足取りで潜り込んだ。彼は後頭部で両手を組み、天井を見上げながら言った。「こっちも、パパとママがいなくて寂しいときはよく泣いてた。でも空の星を見ると落ち着くんだ。綾のパパとママも、俺のパパとママも、飛行機に乗って星になったんだよ」半信半疑のまま、綾は体を横に向けて湊を見た。抱えたウサギの耳が、手の中でしわくちゃになっていた。「どうして星になったの?」湊は少し考えて、いかにも大人のように答えた。「本で読んだんだけど、誰でもこの世に生まれたからには使命があるんだって。星になるのが、綾のパパとママの使命だったのさ」意味が分からなかった綾はつぶやいた。「お空にはたくさん星があるのに。私たちには、パパとママが必要なのに」言葉に詰まったのか、湊から先ほどのような余裕が消えた。彼はそのまま体を起こし、カーテンを開けた。「二人で探そうぜ」綾も立ち上がり、ウサギのぬいぐるみを抱えて湊のそばに寄った。頬にはまだ乾いていない涙の跡がある。顔を上げて夜空を見上げると、星は見えなかった。代わりに、暗闇の中を雪が音もなく舞い落ちていた。湊が嬉しそうに言った。「やった!雪だ!」綾は唇を尖らせた。「雪なんて寒いだけでしょ」舞い散る雪を見つめながら、もし和子が自分を引き取ってくれなかったら、今夜自分は雪の中に放り出されていたかもしれない、と考えた。そんな不安が浮かぶと、もっと恐ろしい想像が浮かんできた。もし明日、和子が考えを変えたらどうしよう?自分を疫病神だと思って、追い出したら……綾の胸の内など知る由もなく、湊は話を続けた。「本に書いてあったんだ。『瑞雪は豊作の兆し』っていう言葉があって、大雪の降る冬は豊作になるんだって」綾は何も答えず、ただひらひらと
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第765話

湊は綾が微笑んだのを見て、カーテンを閉めた。「さあ、おやすみ。明日は早く起きて雪だるまを作ろう」綾はウサギのぬいぐるみを抱いて布団に潜り込んだ。顔を覗かせた大きな瞳はまだ赤かったが、先ほどのような悲痛な色は消えていた。「おやすみ」と告げて部屋を出てから、湊がドアから再びひょっこりと顔を出し、小声で真剣に言った。「隣の部屋にいるから。壁をドンドンと叩いてくれれば、すぐに聞こえるよ」綾は布団の中で頷いた。けれど、壁を叩くなんてしない。良い子は何かに頼ったりしないからだ。湊がドアを閉めて去った少し後、綾のベッド横の壁を小さく叩く音がした。コン、コン、コン。続いて、辺りは再び静まり返った。壁を叩く音で綾は目を覚ました。ベッドサイドの時計は朝の6時半を指している。起きるべきか迷っていると、ドアが静かに開いた。湊が入ってきて、さっとカーテンを開け、常夜灯を消して言い放った。「早く歯を磨いて顔を洗って着替えろ。マスクと手袋、マフラーも忘れずに。風邪でも引いたら、おばあさんに怒られるからな」その急かすような真剣な口調に、綾は考え込む間もなく、体が自然と反応していた。大急ぎで身支度を済ませ、厚手のダウンを着てブーツを履き、帽子と手袋、マフラーで完全防備した。その姿はまるでおぼつかない子熊のようだった。着替え終えた湊が戻り、綾の全身をぐるりと確認してから満足げに合図を送った。「よし、出発!雪だるま作りだ!」湊に続いてリビングに向かう途中、窓の外の真っ白な景色が目に飛び込んできた。雪は止み、世界がまぶしいほど輝いていた。雪かきをしていた使用人が二人を見つけ、慌てて作業の手を止めた。「お二人、外に出るのは危ないですよ。体が冷えてしまいます」すると湊は即座に大きな声で言った。「綾が家を恋しがって泣くから、気を紛らわせようと思って雪だるまを作ることにしたんだ!」それを聞いた綾は焦って顔を赤くし、そんな理由じゃないと口を開きかけたが、言葉が出てこなかった。弁解する隙も与えず、湊は綾の手を引いて雪の積もる空き地へ駆け出した。「ちょうどいい場所だ。ここで作るぞ!俺が雪を丸めるから、綾は雪を集めてきてくれるか?」そう言って、湊は素手で雪を丸め始めた。その指示に従ううちに先ほどまでの動揺もどこへやら、「分かった!」と綾は
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第766話

和子は縁側に立ち、雪遊びをする二人を見守っていた。綾が湊を慕う姿に、ふうっと溜息をつき、安堵の表情を浮かべる。幸子が笑いながら言う。「湊様が朝から綾様を叩き起こして、雪だるまを作ろうと誘っていたんです。二人とも本当に仲がいいですね」湊は綾よりも頭一つ分背が高く、目鼻立ちもはっきりしている。子供らしい表情の中に、妹を想う時だけ時折、大人びた色が浮かぶ。和子は心温まる思いで二人を見つめた。「湊には事前に、綾ちゃんを頼むって言っておいたの。湊、いたずらっ子だけど根は優しいから」家にいて綾を構ってあげられない今、幼い湊を頼りにするしかなかった。中野グループの仕事は多忙を極める。目を離せば、中野家の重鎮たちが歳をとった者や若すぎる者を見くびり、権力争いを仕掛けてくるからだ。朝食を終えると、和子は綾を呼び寄せた。「綾ちゃん、これからおばあさんは仕事に行かなきゃならないの。お家では湊といてね。何かあったら山下さんを呼ぶのよ」綾は賢く頷いた。ほっそりした頬と、やけに大きく見える黒目が健気さを強調している。「おばあさん、パパとママはお星様になったんですか?それなら、お星様はずっとそこにいますか?」和子は絶句した。半年前に息子夫婦を亡くした時、同じ言葉で湊をなだめた覚えがあったからだ。湊は逆にそれを「嘘つき」と言った。人が死んだら何も残らず消える、と。この子は幼い頃から本ばかり読んでいて、哲学的な現実主義者だ。そんな嘘で誤魔化せるはずもなかった。自分の信じてもいない嘘で綾をなだめようとする湊を思い浮かべ、和子は苦笑いした。「ええ。ずっといるわよ」和子は身をかがめて綾の頬にキスをし、湊のところへ行かせた。綾が来たことは、案外湊にとっても良かったのかもしれない。両親を亡くしてからというもの、もともと大人びた性格だった誠はますます口数が減り、人を寄せつけなくなった。一方、湊は遊び相手もいなかったため、本ばかり読んで過ごしていた。子供向けの本ならまだしも、11歳にして哲学書を広げる日々だった。人生経験のない歳で哲学にのめり込むのは、いいこととは言えなかった。綾が呼ばれ、書斎の床に座り込んでいた湊に近づいて言った。「ねえ、山下さんが帽子とマフラーを持ってきてくれたの。雪だるまさんに着せてあげよう」「いいよ。そうし
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第767話

「前を見て、真っすぐ進みなさい。きっと良いことが待っているから」和子が言ってくれたその言葉を、綾は大切にしていた。先になにがあるというのだろう?パパとママと過ごす日々より、素晴らしいことなんてあるの?でも、綾は和子を信じていた。和子は自分に可愛い服を買い与え、お正月の贈り物まで用意してくれるからだ。自分を大切にしてくれる人は、決して嘘をつかない。捨てられるのではないかと怯えていた綾だったが、中野家で三度目のお正月を迎える頃には、そんな不安はすっかり消え去っていた。和子は自分を愛し、兄たちが持っているものは自分にも用意してくれたし、それ以上のものまで贈ってくれるのだ。特に湊は、良いものを何でも分け与えようとしてくれた。中野家に来た最初の年、二人は同じ小学校に通うことになった。湊のおかげで、学校中の生徒が綾を「湊の妹」として知っていた。小学校最後の授業を終えて校門へ向かうと、遠くで白いTシャツに黒いズボン姿の湊が、こちらに向かって大きく手を振っていた。降り注ぐ陽射しを浴びて、その姿はひときわ輝いて見えた。明里が綾の肩を小突いて、照れくさそうに笑った。「ねえ、私が綾の『お義姉さん』になってもいい?」「いいよ。でも、もう少し大きくなってからね」小学6年生の綾は中野家に守られて育ち、まだ「少女の淡い恋心」など知らなかった。ただ、明里が家族になってくれるのは嬉しいことだと思っていた。「約束だよ!ゆびきり!」明里が小指を突き出すと、ちょうどそこに湊が駆け寄ってきた。湊は背負っていた綾のランドセルをさらりと取って、自分の肩に掛け直した。「陽射しが強いな。車に乗れよ。日に焼けるぞ」「明里、またね!」湊に手を引かれ、綾は車へと乗り込んだ。制服姿の湊を見て、綾は不思議そうに尋ねた。「まだ学校は休みじゃないはずでしょ?」「昼休みだけ抜け出してきたんだ。送ってから戻るよ」「だからそんなに急いでるの……別に大した日じゃないし、わざわざ迎えに来てくれなくてもよかったのに」「自分の妹の小学校最後の授業だぞ。来ないわけないだろ?ほら、ジャジャーン!」湊は手品のように背中から花束を取り出し、綾に差し出した。綾は目を輝かせて両手でそれを受け取った。「ありがとう!」「それと、一つ残念なお知らせがある。俺
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第768話

中学校に入学した初日、湊はわざわざ綾を学校まで車で送ってくれた。綾は守られていることが実感できた反面、派手すぎて気恥ずかしくもあった。学年が上がるにつれ、湊は家では物静かな性格になったが、学校では予想外なことに交友関係が広いようだった。実は彼らの大半が、湊にお金を貰って綾の周囲を固めるために集まった学生たちだと、綾は知らなかった。彼らは本来、1年生になんて興味はない。だが湊が払う額は大きく、それに綾は愛くるしくて誰からも好かれる雰囲気を持っていた。そのおかげで、明里は一足早く先輩たちと仲良くなれたようで、後の豊かな恋愛遍歴の布石を打っていた。中学校に入ると、学習内容も一気に難しくなった。綾は東都最高峰の高校を目指していた。学力で自分の価値を証明したい一心で、とにかく勉強に打ち込んだ。出された課題はもちろん、出されていない問題集も進んでこなした。この中学校は何かと競争が激しく、普段の勉強はもちろん、さまざまな大会やコンクールにも力を入れていた。綾は努力を惜しまなかった。模試ではいつも学年トップ3に入り続けた。成績が出るたび、綾以上に喜んでくれたのが明里だ。「綾、同じ教室にいるはずなのに、どうしてそんなに頭が良いの?うちの親も今まで成績なんて気にしなかったのに、綾の入学後の順位を知ってから、急にうるさくなったのよ。いっそ名前を書き換えて提出してもいい?」綾は困り果てた笑顔で返した。「明里のご家族を騙すなんて無理だよ。冬休みにうちに来なよ、教えてあげるから」明里は顔を綻ばせた。「やった!湊も冬休みは家にいるの?」綾は頷く。「うん。私と湊の二人に教えてもらえるよ」明里は待ってましたとばかりに、冬休み2日目の朝、早速車で中野家へやってきた。綾は驚きを隠せず、目を丸くした。「信じられない、あんなに朝寝坊だったのに!」休みになると昼まで寝ているのが当たり前だったのに。明里から誘いがあっても、いつも午後からが定番だったからだ。明里はリュックを背負って一言。「勉強は早いほうがいいの。ところで、湊はどこ?」綾は眉をひそめた。「ねえ、勉強しに来たの?湊に会いに来たの?」明里は真顔で返した。「もちろん勉強だよ。綾と一緒の高校に行くの」「明里、本当に優しいね」綾は胸が熱くなり、すぐさま書斎
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第769話

綾は満足げに笑うと、冬休みの課題を広げて静かに書き始めた。綾は課題を大急ぎで終わらせて、その後は難易度の高い問題に挑むつもりだ。学校の課題は基礎的すぎて、百冊やったところで成績の伸びは期待できないからだ。明里の方は、どの問題も解けないのか、質問攻めが続いている。湊は呆れた表情を見せながらも、一問ずつ丁寧に解説を続けていた。綾にとって明里は大切な友達だ。成績が悪くて騒がしいが、義理堅く学校ではよく世話を焼いてくれる。だから、これは自分なりの恩返しだった。1時間ほどして、湊は首を揉みほぐし、水を飲んでから黙々と課題に取り組む綾の方を向いた。お団子ヘアに結った綾は、襟足から少しだけ毛先が跳ねていて、性格と同じくらい愛らしい。「綾、分からないところはないのか?」「ないよ」綾は顔を上げると、冬休みの課題なんて簡単で、目を瞑っていても解ける、と言いかけた。でも、明里があれほど苦労している姿を見て、言葉を飲み込んだ。覗き込んできた明里が、綾の書き込んだ丁寧なページを見て羨ましそうに声を上げる。「綾、なんでスラスラ答えを書けるの?」「ちゃんと頭で考えてるよ。パッと分かるわけじゃないから」明里は唇を曲げた。同じような年頃なのに、なんで綾はこんなに賢いのかしら?でも、根が勉強熱心な明里は質問を続ける。「湊、続きを教えて」嬉しそうに見つめる明里と、白いニットを着た湊。垂れ下がった髪の間から覗く横顔は骨格がきれいで、淡い石鹸の香りを漂わせている。中学生にはない落ち着きと、大学生より若々しい瑞々しさを感じさせた。「そろそろ昼飯だ。座りっぱなしだと体に悪いから、外の空気でも吸いにいこう」湊は立ち上がると、綾の後ろに回り込み、その手からペンを取り上げた。「午後綾たちは泳ぐんだろ?プールの水も換えさせておいたから」「分かってるよ、湊ってばおばあさんより小言が多いんだから」綾は手首を軽く回すと、明里を立たせた。「明里、明日からは午前中に来て課題をやって、お昼を一緒に食べて、午後はプールで遊ぼうよ」綾はここが中野家だと気づき、恐る恐る湊の顔色を窺った。「湊、いいよね?」湊はさらりと返した。「ここは綾の家だ。好きなようにすればいい」課題のストレスで瀕死状態だった明里の目が、一気に輝いた。「なら、明
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第770話

綾は慌てて遠慮した。「お小遣いは、おばあさんからいただいているから」前にも家族カードを渡されそうになったことがあったが、綾は断った。まだ中学生だし、食費や教材代以外にそれほどお金を使う機会はない。湊はそんなことはお構いなし、というふうに家族カードを綾に押し付け、聞く耳を持たない口調で言った。「それとは別だ。これは俺から綾に渡す分。何に使おうと自由だ」綾が口を開く前に、さらに追い打ちをかける。「拒否権はないぞ。他の女の子みたいに髪を染めたり、ネイルをしたり、可愛い服やぬいぐるみを買ったり、好きに使いな」湊の性格をよく知っている綾は、これ以上反論しても無駄だと悟った。彼女は渋々といった様子で、黙ってその家族カードを受け取った。ただ、おしゃれにあまり興味はない。冬休みにしたとしても、新学期に注意されるのは面倒だし、ぬいぐるみなら湊が既に山ほどプレゼントしてくれたので、これ以上必要ない。服や靴についても、和子が専属の若い秘書を通して次々に買ってくれるため、自分で選ぶことすら滅多にない。それに和子からいただくお小遣いだけで十分すぎるほど足りていて、貯金までできているくらいなのだ。明里は時間さえあれば、毎日のように午後から綾の元へ遊びにくる。そのため、綾は勉強時間を午前と夜に詰め込まざるを得ず、夜更かしも珍しくなかった。冬休みの宿題は2週間で片付けた。今は市販の応用問題集を解いているのだが、意地悪なひっかけが多く、頭を使う難問ばかりだ。その晩もいつも通り、湊が自分の学習を終えて顔を上げると、綾がペン先を噛み、難しい顔をして考え込んでいた。湊は椅子から立ち上がり、背後から身を乗り出して、問題集を覗き込んだ。「教えようか」前触れもなく耳元で響いた声に、綾は肩をびくりと震わせた。彼女は口をきゅっと結んだまま、振り返りもせずに答えた。「ううん。もう少し自分でやってみるから、先に寝て」湊は再び椅子に戻り、読みかけの本を広げてゆっくりとページをめくった。「昼寝をしたから眠くないんだ。焦らなくていい、分からなかったら聞きな」「分かった」と綾はぼそりとつぶやき、ボールペンを握り直して猛然と計算を始めた。前にやったことのある問題のはずなのに、どうしても答えが出ない。自分自身に負けたくなかった。計算用紙は何枚もクシャク
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