Todos os capítulos de 初恋と付き合ったら、車椅子の元夫が立ち上がった: Capítulo 771 - Capítulo 780

823 Capítulos

第771話

湊は部屋のドアの前まで綾を見送り、優しくドアを閉めた。書斎に戻った湊は、乱れていたデスクの上を丁寧に片付け、綾が書き散らした計算用紙を一枚ずつ揃えて積み直した。ようやく綺麗になった机を眺めて、もうすぐお正月だな、と思った。そういえば、まだ綾への贈り物を何も用意していないことに気づいた。翌朝、綾が目を覚ますと、すでに湊は出かけていた。幸子から、友人と出かけたと聞いた。綾はふと、湊も一人の高校生なのだと気づかされた。湊には彼自身の生活や人間関係があるのだ。湊がいつも自分の側にいたせいで、そのことを忘れかけていた。一人で留守番をするのは退屈だったため、綾は明里を誘って、お正月の贈り物を買いに出かけた。和子には何でも揃っているので、綾は雅な雰囲気の植木を吟味して選んだ。大学生になった誠には、何が必要か分からず悩んだが、勇気を出して自分の貯金を使い、高級なスニーカーを贈ることに決めた。そして湊には、本を読むのが大好きな彼のために、手作りの陶磁器の栞を作ることにした。粘土をこねて、成形して、釉薬を塗って……納得のいくものができるまで何度もやり直した。大晦日の夜、綾は用意していたプレゼントをみんなに渡した。和子や誠は喜んでくれたが、湊だけは栞を手に持ち、くるくると回しながら毒づいた。「なんでおばあさんと兄さんにはちゃんとした物で、俺のはこんなダサい栞なの?」綾は納得できず、目を丸くして抗議した。「ダサくないでしょ!」自分の手先の器用さには自信があったのだが、陶磁器作りは初めてだった。縁は少し歪んでいるし、釉薬の色も濃淡ができてしまっている。湊は栞を真剣な面持ちで見つめて頷いた。「まるで失敗した二流品みたいだね」綾は不服そうに唇を尖らせた。「手作りなんだから仕方ないでしょ」その言葉を聞いた湊は、栞を見下ろして一度息をつくと、小さく微笑んだ。「実際、そんなに悪くないよ。よく見れば、かなり個性があっていいかもね」少し間を置いて、彼は言った。「わざわざ俺のためだけに作ってくれたの?」「そうよ!みんなの分も作ってたら、どれだけ時間があっても足りないからね」湊は目線を下げて静かに栞を読みかけの本に挟むと、代わりにずっしりと重そうな箱を取り出し、両手で綾に差し出した。「手作りじゃないけど、喜んでくれると嬉しい。
Ler mais

第772話

湊は何も言わず、一歩前に進み出ると、箱を閉じようとする綾の手の上に自分の手を重ねた。「綾には最高のものが必要だ。それで、好きな木や花、それから……変な虫でも何でも撮ればいい。綾の目に見えている世界は、俺にとってかけがえのない宝物なんだから」綾が顔を上げると、湊の穏やかで静かな瞳に吸い込まれた。言葉に詰まりながらも、拒否しようとしていた口からは、かすかな声で、「ありがとう、湊」という言葉が漏れた。綾はカメラを慎重に箱から取り出し、胸元にしっかりと抱き寄せた。本体の金属は冷たかったが、胸の奥が熱く焼けるようだった。自分はずっと不幸だと思っていたけれど、今は世界で一番幸せな人間になれた気がした。湊という、どんな時も変わらず愛してくれる兄がそばにいてくれたから。その日の夜、綾は待ちきれずに、もらったばかりの一眼レフでたくさん写真を撮った。湯気が立つ年越しのご馳走、和子の嬉しそうな笑顔、誠の背中、そして、凛とした湊の横顔を。夜10時過ぎまで起きていたが、和子は年には勝てず、一足先に休むことにした。年越しそのものに関心の薄い誠も、早々と自分の部屋に引き揚げてしまった。だだっ広いリビングには、綾と湊の二人だけが残った。湊は綾を連れ、一番高い屋根へと登った。冷え込む夜風の中で肩を並べて座り、夜空を眺めた。綾は手袋をした手で頬を支え、瞳の中に夜空いっぱいの星を映していた。「湊、これからもずっと一緒に年越しをしようね」湊は首をかしげて綾を見つめ、どこまでも優しい笑みを浮かべた。「綾がいつか誰かのお嫁さんになったら、その時は違う相手と迎えることになるんだろうな」その言葉に綾はカッと頬を赤らめて言った。「嫌だ。お嫁さんに行っても湊がいい。ずっと一緒がいい」そう言って、顔半分をマフラーに埋め、くぐもった声でそう呟いた。湊は短く笑った。まだ幼い綾の本音など真に受けるべきではないと分かっていたが、それでもその言葉は自然と胸の中に刻まれた。綾が必要としてくれるなら、これからもずっとそばにいようと思った。「綾がこの家にやってきた時は、まだ8つで、あんなに細くて小さくてさ。無事に育つのかって心配したんだ。それが、あっという間に大人っぽくなっちまって」湊は遠くの光を眺めながら、どこか感慨深げに語った。綾は、あの頃
Ler mais

第773話

服を脱いだ瞬間、綾は思わず息を呑んだ。下着が真っ赤に染まっていたからだ。これが何か、綾にはなんとなく分かった。けれど学校で保健の授業を受けるのはまだ先だし、母親も早くに亡くなっていたから、どう対処すべきかなんて誰からも教わっていなかった。突然のことに呆然とし、綾にはどうしようもない恥ずかしさと恐怖が胸に込み上げてきた。とにかく蛇口を全開にして必死で洗ったけれど、汚れはちっとも落ちなかった。疲れ果ててバスルームの隅にしゃがみこむ。濡れた髪が頬に張りつき、頭上のシャワーからは水の音が鳴り続けている。膝を抱え込み、綾はついに我慢できずに泣き出した。声を押し殺しながら、ひたすら心の中で思った。母がいてくれたら、よかったのに。泣き疲れてふと床を見ると、血の跡が少し薄くなっていた。涙を手で乱暴に拭い、立ち上がってシャワーを止めた。その時、扉がノックされた。バスルームから濡れた顔を覗かせ、綾は涙声で返事をした。「誰?」「明かりがまだ点いているから心配で。お風呂で滑ったりしてないか?」ドア越しに湊の声が聞こえた。その響きは、心から心配するものだった。綾は唇を噛み締め、平静を装って言った。「ううん、大丈夫」「声が変だぞ。中に入って確認してもいいか?」と湊が重ねて問う。綾は慌てて、ほとんど叫ぶように返した。「だめ!今、お風呂だから」「分かった。じゃあ先に洗って」湊はその場を去ろうとせず、ドアに背を預けたまま静かに待っていた。綾は普段そんなに長風呂をするタイプじゃない。湊の中では不安が膨らんでいた。部屋の中では、バスタオルに身を包んだ綾がスマホを握りしめていた。その指はかすかに震えている。検索バーに「生理どうすればいい」と打ち込み、動画をいくつか見比べながら、なんとか対処法を学んだ。しかし、新たな絶望が綾を襲う。肝心のナプキンがない。近くのスーパーはここから離れているし、今の精神状態で一人で出かけるのは不可能だった。それに今日は大晦日だ。店が開いている保証もない。悩み抜いた末、勇気を出してパジャマに着替え、部屋のドアを開ける。すると、目の前にちょうど湊が立っていた。「綾、大丈夫か?」綾は何か言おうと口を開くより先に、喉の奥が詰まった。涙がぼろぼろとこぼれ落ち、湊の顔さえ霞んで見えなかった。
Ler mais

第774話

街を30分ほど探し回り、ついに開いているコンビニを見つけた。棚に並んだ大量のナプキンを前に、湊は耳を赤く染めながら、何を買えばいいのかさっぱり分からず立ち尽くした。迷った末に、とにかく高ければ間違いないだろうと判断し、一番高いやつを選んだ。昼用と夜用のパックを急いで手に取り、会計を済ませると、自転車を飛ばして帰宅した。まだ免許がない自分を呪いながら、とにかく急いで自転車を漕いだ。部屋で待っていた綾は、一人静かにその時を過ごしていた。最初に襲ってきた動揺は消え、不安の中に不思議な安心感が広がっていた。これが誰にでも訪れる自然な変化であり、自分も大人へと成長している証なのだと知ったからだ。それに、この予期せぬ変化と一人で戦っているわけではない。湊が必ずなんとかしてくれるという信頼があった。1時間ほど経った頃、予想通りドアを叩く音がした。「綾、帰ったぞ」聞き慣れた声にはまだ息が上がっていた。ドアを開けると、湊が額に汗を浮かべ、少し荒い呼吸をしていた。彼は視線をそらし、手提げ袋を渡しながら努めて平静を装った。「これ……使い方はわかるか?」綾は小さくうなずいた。「うん」「俺はすぐそこにいるから、何かあったら呼べよ」と言い、湊は遠慮がちにドアを閉めようとした。綾はドアの縁を掴み、小さく声をかけた。「湊、もう休んで。私は大丈夫だから」湊は不安げに確認した。「本当か?無理しなくていいんだぞ」綾は口元を緩め、胸の奥がじんわりと温まるのを感じて、目元が熱くなった。「うん、大丈夫。さっきはただ少し驚いただけだから」湊は胸を撫で下ろすと、優しい口調で言った。「分かった。何かあったらすぐ呼べ。さっきみたいに一人で泣くなよ」恥ずかしくなった綾は顔を伏せ、強がって一瞬睨みつけた。「泣いてなんかないわよ。早く行って」「はいはい、泣き虫だってことは内緒にしとくよ」湊は茶化すように笑い、静かにドアを閉めた。自室へ戻る際、水を飲んでいた幸子を見つけ、湊は声をかけた。「山下さん、綾が生理になったんだ。少し見ていてやって」それを聞いた幸子は目を輝かせ、嬉しそうに微笑んだ。「綾様、もう大人の仲間入りなんですね。素晴らしいです。すぐ様子を見に行ってきます」幸子はコップを置き、綾の部屋へ駆け足で向かい、ドアを叩いた。
Ler mais

第775話

幸子は綾が何か言う前に、そのままドアを閉めて出ていった。綾がここで暮らし始めて4年になるが、相変わらずどこか「厄介者」という自意識が抜けていないのは幸子にも明らかだった。無理もない。実の伯母に捨てられた過去の傷は、そう簡単に癒えるものではない。綾は常に周囲の顔色を窺い、控えめに生きていたのだ。翌朝、綾が目を覚ますと、和子が人を使って買いに行かせた花束が届いていた。淡いピンクの花束に添えられたカードには、丁寧な筆跡でこう書かれていた。【綾へ。大人への一歩を踏み出したね。おめでとう】綾は照れくさそうに微笑み、言った。「おばあさん、ありがとうございます」「何を言っているんだい?綾はいくつになっても、私の大切な宝物だよ」和子は優しい声でそう告げた。天国で見守っているはずの綾の両親も、今の綾を見ればきっと喜ぶだろう。綾の胸には、感謝と同時に気恥ずかしさが込み上げた。皆の優しさは嬉しいけれど、湊があんなふうに騒ぎ立てるから、生理のことまで中野家中に知れ渡ってしまった。だが幸い今は正月。騒がしい日常の中で、皆の意識はすぐに別のことへと向いた。明里から近くの公園で今夜、新春イベントが開かれると聞き、綾はすぐさま湊にそれを伝えた。「湊、一緒に見に行ってくれない?」綾は期待に満ちた目で、じっと湊を見つめた。湊がついてこなければ、和子が夜に友人との外出を許してくれるはずがないと分かっていたからだ。和子は優しいけれど、身の安全に関わることにはとても厳しかった。特に、まだ未成年である以上、夜遊びや酒などは厳禁とされている。珍しく何かをせがむ綾を見て、湊は心の中では承諾をしつつも、意地悪く返した。「あんな人だらけの場所より、家で過ごそうよ」慌てた綾が湊の袖を引っ張って頼み込む。「たまには賑やかな場所もいいじゃない?お願い、湊、写真も撮りたいの」湊は笑いをこらえ、咳払いを一つした。「まあ、いいよ。代わりに、この冬休みはどこに行くにも俺を同伴させること。それで手を打つなら行ってやろう」「分かった、約束!」綾は即答した。どのみち「妹の警護」という名目でついてくるだろうし、家に引きこもってガリ勉になるのを嫌がっているのだと理解していた。許可が下りると、綾はすぐさま明里に連絡を入れた。明里の両親も最初は難色を示したが
Ler mais

第776話

綾が写真を撮り終えて、金茶色の髪の少年がいたほうに視線を向けると、そこにはもう姿はなく、目の前には、にぎわう人波が広がるばかりだった。帰宅すると、綾は和子からもらったプリンターで、夜に撮った写真を一枚ずつ印刷した。その中には明里の写真が何枚かあり、明里に撮ってもらった綾と湊のツーショットもあった。綾はその写真を、書斎の壁一面に増えていくフォトウォールに貼った。誠が大学生になって専用の書斎を持つと、この共有書斎はすっかり綾と湊のものになっていた。壁の写真はほとんど綾が撮ったものだが、その多くを壁に貼るのはいつも湊だった。綾は、あの金茶色の髪の少年が写り込んだ偶然の一枚も印刷し、自分専用のアルバムに仕舞った。彼女は美しいものが好きだ。人混みの中での束の間の出会い。それだけで、あの少年は今夜一番の素敵なサプライズとなった。翌朝、綾は写真を渡しがてら、後藤家に年始の挨拶へ行った。後藤家で昼食を済ませると、中野家の運転手が迎えに来た。何か家の用事だろうと思っていたが、車のドアを開けると、湊が座っていた。「湊、どうしてここにいるの?」湊はウィンクを一つして、満面の笑みを浮かべた。「言っただろ?俺とどこかに行く時は、断る権利はないって」綾は彼の隣に腰を下ろしてシートベルトを締めると、興味津々で聞いた。「どこに行くの?」「南の海辺で少し暮らしてみないか?」「いいよ!」綾は即答した。東都の冬は骨にまで冷え込むほど厳しい。だが、南の海辺なら暖かく過ごしやすい。太陽、砂浜、海。想像するだけで胸が弾む。断る理由はどこにもなかった。ただ、すぐにふと疑問が浮かび、綾は首を傾げた。「二人きりで?おばあさんは許可してくれるの?」湊は肩をすくめた。「もちろん二人じゃダメだ。兄さんも一緒に来て、見張り役をするんだ。それに、山下さんたちも一緒だ」誰が来ようと綾にはどうでもよかった。出かけられるなら、それで十分だった。ただ、明里と予定していたテーマパークが、夏休みまで持ち越しになったのだけが残念だった。家に帰ると、幸子がすでに綾の荷物をまとめてくれていた。「今日出発なの?」綾は少し驚いた。和子は冷え切った綾の手を自身の温かい掌で包み込み、穏やかな声で言った。「天気予報によると、明日は豪雪になるそうよ。南へ行って、寒
Ler mais

第777話

この家において、誠は湊に比べると少しばかり損な役回りだった。それでも湊は誠のことを慕っており、チャンスさえあれば誠の後をついてまわって「兄さん」と呼ぶ、離れない影のような存在だった。だからこそ、兄弟二人の関係が、大人たちの偏った愛情のせいでこじれることはなかった。誠は口ではあーだこーだ言うものの、湊が風邪をひいたり熱を出したりすると、誰よりも心配して駆けつける。大学で家を離れていても、湊がケガをしたと聞けば飛んで帰ってくるほどだ。今回の旅行に誠が同行すると決めたのも、湊をさりげなく守りたいという、兄心ゆえのことだろう。機内で綾は湊を誠の隣に座らせ、自分は幸子のそばに移った。和子がファーストクラスを貸し切っているため、乗客はみんな身内だ。湊は家にいるときのように、リラックスして誠に話しかけていた。「兄さん、いつも書斎にこもって何してんの?もしかして、誰かと恋愛中?彼女さんと電話してるんじゃないの?」湊の声は大きくはなかったが、隣の席に座っていた綾の耳にははっきりと届いていた。綾は興味津々で、こっそりと聞き耳を立てる。誠はわずかに眉を寄せ、湊の方を向いた。「湊、まだ高校生だろう。恋愛がなんなのか、知ってるのか?」湊は鼻で笑い、まったく気にしていない様子だ。「ガキ扱いすんなよ。まさか、本当に誰かと付き合ってたりして?」誠は呆れてため息をつく。「そんなわけないだろ?退屈なら寝てろ。俺のプライベートを探るな」湊はひるまない。「兄さんのことは俺のことだよ。もし彼女ができたら未来の義理の姉になるんだから、今からチェックしておかないと」「恋愛はしていない」という誠の言葉を聞き、綾の胸の奥で小さな期待が音を立てて消えた。ふと、明里から借りた恋愛小説のことを思い出す。そこには大学生たちのキラキラした日常が描かれていた。カップルで講義を受けて、図書館で待ち合わせをして、食堂で並んで座る。主役は決まってキャンパスのスターか、頭脳明晰な学力トップ、あるいはスポーツ部の花形選手だ。とにかく、学校ではどこへ行っても人目を引く存在だ。いてもたってもいられず、綾は前のめりになって問いかけた。「あの、誠さん!大学の先生って、学生が付き合うことについて何か言いますか?」真剣そのものの綾の顔を見て、誠は思わず噴き出し、唇の
Ler mais

第778話

隣にいた湊が、綾が誠を褒めているのを聞いて、我慢できずに口を挟んだ。「綾、俺は?俺だってカッコいいだろ?」中野兄弟はよく似ていた。二人とも白い肌と深い瞳の持ち主で、並んでいるだけで絵になる。綾はクスっと笑って、わざと湊をからかった。「湊なんてまだお猿さんみたい。誠さんとは比べ物にならないよ」湊は怒るどころか、抗議の声を上げた。「俺だって高校に入ってから何通もラブレターをもらったんだぞ!女子たちがプレゼントや小物も送ってくれたんだ。全部綾にあげたのに、文句を言うなんて酷いよ」綾はキョトンとした。湊が高校に入ってから持ってくる美味しいものやおもちゃは、てっきり自分で買ったものだと思っていたからだ。まさか他の女の子からのプレゼントだったなんて、考えもしなかった。綾は湊を睨んで、冷めた口調で言った。「女の子たちがせっかくくれた物なんだから、いらないなら突き返してきなさい。人にあげていいものじゃないでしょ?」湊は肩をすくめ、どうしようもないといった様子で答えた。「綾はまだ子供だから、そんなの分からないよ」実際、返そうとしたことはある。でも、女の子たちは無理やり押し付けるとすぐに走って逃げてしまうから、追いかけることすらできなかったのだ。どのみち、それらの小物はどれも女の子が好きそうなものばかりだった。結局、持ち帰っては綾に全部譲るのが一番だったのだ。それに、プレゼントを開けて嬉しそうにする綾の顔を見れば、無駄になったとは言えなかった。「子供じゃないもん」綾は呟いて視線を落とした。恋愛小説を山ほど読んできた自分なら、とっくに大人のことだって知っている。誠は二人のやり取りに頭を抱え、慌てて話題を変えた。「二人とも、まだ学生だろう。本業は学業なんだから、変なことばかり考えるな」「はい」綾は素直に答えた。湊は納得せず、しつこく誠を追及した。「兄さんはさ、どんなタイプの女性が好きなの?」綾は再び耳を澄ませた。いつも温和で落ち着いている誠が、どんな女性に心動かされるのか、やはり興味があった。誠はため息をつくと、機内の窓の外を流れる雲に目をやった。「まだ学生だし、院への進学も控えてる。だから、今のところそういうのは考えてない」湊はつまらなそうに、今度は綾に聞いた。「綾はさ、兄さんが好きになるようなタイプってどんな人だと思う
Ler mais

第779話

相手は学校でかなり人気があり、知り合いも多く、言い寄る男子大生も後を絶たない。しかし彼女は誰に対しても絶妙な距離感を保ち、親しくしつつも変に誤解を招くような隙は見せなかった。誠は、そんな彼女がどういう人間かをよく分かっていた。そして、結婚相手には相応しくない人物だということも冷静に理解していた。それなのに、相手に強く惹かれずにはいられない。話をしている時に、一線を越えそうになってはふっと身を引く、その駆け引きを楽しんでいた。彼女には、彼がずっと押し殺してきた一面があった。少し危うくて、何ものにも縛られない自由。その姿は、彼の心の奥底で一度も光を浴びることのなかった、もう一人の自分を見ているようだった。だが自分は中野家の長男だ。弟や妹の手本となり、自堕落な生活を送るわけにはいかない。飛行機が海辺の街に着く頃には、ちょうど日が暮れかかっていた。北のどんよりした空とは違い、この街では燃えるような夕焼けが見えた。綾がタラップを降りて見上げた空は、澄み切った青と燃えるような赤に分かれ、その境界線は淡い紫に染まり、この上なく美しかった。誠が隣に立ち、綾が見つめる先を目で追いながら、静かに尋ねた。「今夜は何が食べたい?」「バーベキューがいいです」綾は迷わず振り返り、目を輝かせて言った。中野家の別荘は海沿いにあり、そこで波音を聞きながら食事を楽しむことができる。誠は穏やかな表情で頷いた。「手配しよう」数人で高級車に乗り込み別荘へ向かう。先乗りしていた使用人たちが隅々まで掃除を済ませていたおかげで、邸内にはほのかな良い香りが漂っていた。別荘は3階建てで、1階に使用人たちが住み込み、2階は綾と湊が使い、静寂を好む誠は独りで3階を使っている。2階と3階にはそれぞれ大きなテラスがあり、遥か彼方の海を望むことができた。誠の手配で、その夜の食事は1階の庭で行うことになった。東へ目を向けると、どこまでも海が広がっていた。吹きつける潮風が綾の長い髪を揺らし、口元に張り付いた毛先を何度払っても、すぐにまた乱れてしまった。それを見た湊は、手に持っていた串焼きを置くと、使い捨ての手袋を外し、綾の背後に回った。その黒髪を束ね、シュシュで器用に結んであげた。「ここは暖かいだろ。髪をマフラー代わりにする必要はないぞ」綾は動かずに、素直
Ler mais

第780話

綾は誠が寄り添うことを拒む理由などなかった。物心がついてからというもの、綾はいつも誠に近づき、距離を縮めようとしていた。誠が冷たく扱われるたびに、綾は自分のことのように胸が締め付けられた。高橋家で過ごした半年間、綾は「誰にも存在を認めてもらえない」ことがどれほど絶望的か、身をもって知っていた。あの透明人間のような孤独な気持ちを、誠には味わってほしくなかったのだ。夕食が終わると、誠は二人を海岸へと連れ出した。空にはぽつりと月が浮かび、海面を銀色に輝かせていた。リゾート地ということもあって、夜になっても浜辺にはまだ多くの人たちが散策を楽しんでいた。綾は靴を脱ぎ、ふかふかの砂浜に足を踏み入れた。足の裏から砂のぬくもりが伝わってくる。「靴、持つよ」湊が綾の手から靴を受け取り、当たり前のように自分の手にぶら下げた。綾はその優しさに慣れきっていて、遠慮もしなかった。湊の前でだけは、綾はありのままの自分でいられる。顔色を窺ったり、気を張ったりする必要のない、特別な場所だった。綾が波打ち際まで駆けていくと、打ち寄せる波が何度も足首を洗う。くすぐったくて、ひんやりと心地よかった。ふと見上げた広大な海に心を奪われ、綾は思わずつぶやいた。「大人になったら、海の近くに住めたらいいな。そうすれば毎日この景色が見られるでしょ。湊が持ってた詩集にあった『海に向かって、春風に吹かれて生きたい』っていう言葉みたいに」湊はその後ろで、綾の視線の先を見つめながら、どこか物思いに耽るように笑った。「簡単なことさ。そんなに気に入ったなら、綾が大学を卒業したら、二人でここに住めばいい」湊は軽く言ったけれど、綾には夢物語のように聞こえた。卒業して働き始めれば、海のそばに住むなんて、現実はそう甘くない。誠は綾の素足を見下ろして声をかけた。「足を拭いて靴を履きなさい。風邪をひいたら大変だぞ。病気になったら、おばあさんにきっと俺が責められる」「うん、すぐ履くね」綾は慌ててティッシュで足を拭き、靴を履いた。自分や湊が病気をすれば、確かに和子は誠の管理が甘いと責めるかもしれない。和子の偏った愛情に対して綾にはどうすることもできず、ただ誠に申し訳なくて胸を痛めるばかりだった。時にそれとなく和子に不公平さを訴えても、返ってくるのは、「誠はもう
Ler mais
ANTERIOR
1
...
7677787980
...
83
ESCANEIE O CÓDIGO PARA LER NO APP
DMCA.com Protection Status