道の両側を車が行き交う中、健吾は高級車の後部座席から窓の外を眺めていた。少女のポニーテールが、駆けるたびに軽やかに揺れている。綾が背負ったカバンは教科書でパンパンに膨らみ、ずっしりと重そうだ。車はすぐに綾を追い越し、背後に置いていく。健吾がバックミラー越しにちらりと確認すると、少女の影はどんどん小さくなり、やがて視界から消えた。帰りの子を乗せた送迎車が次々と横を過ぎるのを眺め、綾はふと羨ましそうな眼差しを向けた。誰かが自分を待ってくれている――そんな光景を、綾はもうずっと経験していない。しかし、その瞳はすぐに静けさを取り戻し、彼女は再び前を向いて歩き続けた。一台の車が横に並び、窓から顔を出した充がわざと大声で呼びかけてくる。「綾ちゃん、乗せてやろうか?」聞こえないふりをして、綾は足早にその場を離れた。しばらく歩いてから、逃げるように駅へ向かう自分の姿が、なんだか滑稽に思えてきた。きっと朝から充に待ち伏せされていたのだ。執拗にいじめてくる相手に対し、逃げ回るだけでは何の効果もない。そう考えるとふっと肩の力が抜け、歩調を緩めてゆっくりと前へ進んだ。家に帰ると、和子はまだ戻っていなかった。綾は書斎で一人で宿題をこなし、ペンの音だけが響いていた。課題を進めているうちに、家がひどく広く、がらんとしていることに気がついた。誠は留学中、湊は大学、そして和子は仕事漬け。自分だけが、この場所に執着しすぎているのだろうか?それでも和子が帰宅すれば、たわいもない話を交わし、夕食後には二人で散歩に行くこともある。そんな日常の穏やかさが、学校のひどい日常とは切り離された別の世界のようだった。だが、この安らぎがあるからこそ、明日もまた向き合うための勇気が湧いてくるのだ。1週間が経ち、金曜の放課後、綾は軽やかな足取りで校門を後にした。湊が週末には戻るという約束をしていた。それだけが、今の救いだった。門をくぐったところで、忌々しい充がヘラヘラと笑いながら近づいてくる。「綾ちゃん、一緒に帰ろうよ」綾は眉をひそめて顔を背けると、充の背後に大好きな人の姿があった。「湊!」綾は声を弾ませて充を追い越し、湊の元へと駆け寄る。湊は大股で歩み寄り、当然のように綾のカバンを受け取ると、視線をちらりと後ろの充に向けた
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