綾の横を通り過ぎるとき、思わず足が止まった。背中に刺さる冷たい視線。まるで刃物のような鋭さだった。凛の目は敵意に満ちており、あからさまな嫌悪と警告が込められていた。綾の心臓がきゅっと縮み上がり、無意識に視線を伏せて目を合わせるのを避けてしまう。凛に怯えているわけではない。ただ、自分のせいで何か揉め事が起き、和子に迷惑をかけることが怖いだけだった。一限目が終わると、担任の河合紀之(かわい のりゆき)が教科書運びを手伝わせる男子生徒を数名指名した。綾は席に座ったまま、水筒を手に取った。一口飲んだ瞬間、酸っぱい味がした。中身を確かめると、湊が作ってくれたレモンティーだった。湊は本当に気が利く。夏になると水より味のある飲み物を好む自分のことを、よく理解している。温かな気持ちになり、綾はもう一口だけ飲んでキャップを閉めた。その時、隣の席に座っていた丸顔の女子生徒が話しかけてきた。「ねえ、すごく可愛いよね。肌もつやつやだし、何使ってるの?」綾が答えようとしたその時、突然、誰かの影が二人を遮った。腕を組んだ凛が、傲慢に立ちはだかっていた。綾を一瞥する視線はゴミでも見るようで、続いて丸顔の女子に向かって作り笑いを浮かべた。「この人には関わらない方がいいよ」彼女は一瞬言葉を切り、わざと声を潜めた。だが、あえて十分には小さくせず、ちょうど周りのクラスメイトにも聞こえる程度の声で続けた。「疫病神で、近づいた人はみんな不幸になるんだから」丸顔の女子はきょとんとした。少し迷いながら問い返す。「知り合いなの?」凛の目に突然涙が浮かんだ。演技は慣れたものだった。涙声で彼女は続けた。「忘れたくても忘れられないわ。うちのお父さん、彼女のせいで死んだのよ」周囲の生徒たちは沈黙し、一斉にこちらを見た。凛は悲劇のヒロインを装った。綾が家に引き取られる前の父は健康的だったのに、引き取った途端の急逝という嘘の物語を語り始めた。さらにエスカレートし、実の両親のことも含め、綾の周りで何人が亡くなったかといった出鱈目を並べ立てた。頬には涙の跡を残したまま、彼女は真摯な口調でそう言った。取り巻きの生徒まで口添えをし、まるで自分の目で見てきたかのようにもっともらしく話していた。綾は腿の脇でぎゅっと拳を握り締めた。その
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