「初めは……。初めは確かに、俺は優里香の“気持ち”だけを手に入れられれば、それでいいと思っていた。俺は――どうせ誰も愛せない。そう、思ってたんだ」静かに語る翔太郎さんの声は、今にも消えてしまいそうなほど弱々しかった。“誰も愛せない”――その言葉の奥に、彼の過去と、傷が透けて見える。両親との関係がそう思わせたのだということは、言われなくても、痛いほどよくわかった。「俺は、結婚とか愛とか……そんなものを信じていなかった。この政略結婚も、所詮“ビジネスの一環”くらいにしか思ってなかった。でも――優里香と暮らすようになって、本当に……本当に楽しくて、幸せで……。気づいたら、“優里香を手放したくない”って思ってた。この生活がずっと続けばいいって、心の底から思ってた」私は、じっとその言葉を聞いていた。でも、胸の奥に残った棘は、そう簡単に抜けてくれなかった。「……あなたは誰も好きにならないって、教えてくれた女性もいましたよ?」視線を伏せながら、静かに言った。「お付き合いされてた人、いたんじゃないですか? そう言ってました」「そんな女性はいない! そんな電話をしてくるような女性に心当たりもない」 そう言われても、事実電話はあったのだ。今はなにを聞いても信じられる気がしなかった。「そうですか」自分でもわかるくらい、口調は冷たくて、言葉は棘を帯びていた。でも、どうしても――あの女の人の声が、あざ笑うような言葉が、頭から離れてくれなかった。何も言わない私を一瞥して、翔太郎さんは、また静かに口を開いた。「……だから、優里香に“幸せな結婚生活を送りたい”って言った言葉も、嘘じゃない。本当に、そう思ってた。でも、この始まり――“出発点”を知られることが、だんだん怖くなった。優里香に知られたら、もう俺のもとからいなくなってしまうんじゃないかって……」少しだけ声が震えているのが分かった。「だから、凛太郎に話をしなきゃって思って……その場面を、優里香に聞かれてしまった」――この言葉を、信じられたら、どれだけいいだろう。でも、私を手に入れなければトップになれない。そうしないと、翔太郎さんは欲しいものを手にできない。――だから言ってるだけなんじゃないの?また、そんな疑いが、心の奥で囁く。「……その言葉を、信じられたらいいんですけどね」
Última actualización : 2026-03-11 Leer más